「EVシフト」が叫ばれる昨今ですが、その一方で、自動車メーカーとユーザーの間にはまだまだ温度差があるのが実情です。にもかかわらず、なぜ多くのメーカーが日本市場にEVを投入しようとするのでしょうか。
■EVが続々投入されるのは「電動車に寛容」な国民性だから?
近年、自動車業界で大きなテーマとなっているのが「EVシフト」です。
今後は電気自動車(EV)を中心とした自動車社会を目指していく動きであり、自動車メーカーはもちろん、それ以外の企業や各国政府までを巻き込んだ一大ムーブメントとなっています。
一方で、メーカーとユーザーの間にはまだまだ温度差があるのが実情ですが、なぜ多くのメーカーが日本市場にEVを投入しようとするのでしょうか。
長期的な視点で見れば、今後緩やかにEV中心の自動車社会へとシフトしていくことは当然の流れといえます。
しかし、積極的にEVシフトをアピールする自動車メーカーと、日々実際にクルマを利用しているユーザーとの間には温度差もあります。
EVに大きな可能性があることは確かです。今後その性能はますます進化し、インフラの整備も進むことでしょう。
しかし、現時点で見れば、EVを現実的な選択肢とできるユーザーは決して多くありません。
次世代自動車振興センターの統計によれば、2020年におけるEVの国内新車販売台数は1万6239台であり、全体のわずか0.35%に過ぎません。
プラグインハイブリッド車(PHEV)や燃料電池車(FCV)を含めたとしても、新車販売台数全体の1%にも満たないのが現状です。
にもかかわらず、各メーカーは新型EVの投入を積極的に進めています。
ほんの数年前までは、日産「リーフ」やテスラ「モデルS」などEVのラインナップは数えるほどしかありませんでしたが、現在は国内外の多くのメーカーが発売するようになりました。
また、日産「アリア」やトヨタ「bZ4X」、スバル「ソルテラ」など、近い将来登場する予定のEVも含めると、選択肢はかなり充実してきているといえます。
なぜ、1%にも満たない国内のEV市場のために、各メーカーはこれほどまでにEVを投入するのでしょうか。
最大の要因としては、世界各国が将来的にガソリン車(以下、ディーゼル車も含む)の新車販売を規制する方針を打ち出しているためです。
各国の思惑や本音はそれぞれですが、少なくとも表向きは、石油依存からの脱却を図り、脱炭素社会を構築することで地球環境を守っていくことが大きな目的とされています。
EVシフトが脱炭素社会への唯一の答えであるかどうかは議論が分かれるところですが、ガソリン車の販売が規制されるのであれば、自動車メーカーとしてはEVシフトを推進せざるを得ません。
開発したEVは、市場からのフィードバックを得て、さらに次のEVへと活かさなければなりません。そのためには、まずはある程度の台数を販売することが重要です。
日本は決して成長市場とはいえませんが、単独国家としては中国、米国に次ぐ世界3位の巨大市場であり、世界的に見れば経済的にも豊かな国です。
そのため、わずかなシェアでも、絶対数としてはほかの市場よりも多くの販売台数が見込める市場でもあります。
また、諸外国に比べて充電インフラも充実しており、さらには1回あたりの走行距離もそれほど長くないとされているため、ガソリン車に比べて航続距離が短くなりがちなEVでも、受け入れられやすい市場と考えられています。
つまり、将来を見据えてできるだけ多くのEVを販売しておきたい自動車メーカーにとって、日本市場は日本人が考えている以上に魅力的な市場であるといえるのです。
■欧米から見れば、日本は「特別」な市場?
一方、EVシフトに積極的なメーカーは日本ばかりではなく、むしろ海外のほうだという指摘も少なくありません。
実際にここ数年でメルセデス・ベンツやアウディ、ポルシェ、ジャガー、ボルボ、プジョーといった欧州の自動車メーカーが日本市場にEVを投入しています。
さらに、2022年2月には韓国ヒョンデ(ヒュンダイ)がEVの「アイオニック5」とFCVの「ネッソ」を引っさげ日本市場への復帰を発表するなど、まさに百花繚乱となっています。
もちろん、自動車メーカー各社は、日本市場のためだけにEVを開発・販売しているわけではなく、あくまでEVシフトという世界的なトレンドのなかに、日本も含めているというのが正確なところです。
一方、現場レベルでは、日本市場に対してある種の「特別感」を持っているのも事実のようです。
ある輸入車ブランドの日本法人担当者は次のように話します。
「EVのシェア自体はそれほど多くはない日本市場ですが、新車販売におけるハイブリッド車(HV)のシェアは30%を超えています。
それどころか、2010年頃にはすでにHVが一般化しているなど、世界に先駆けて電動化を進めてきた国でもあります。
そのため、欧米の自動車メーカー幹部のなかには、HVがこれほどまでに普及している日本では同じ『電動車』であるEVもこれからシェアを伸ばしていくという期待感が強い人間が少なくないようです」
日本では、1997年に世界初の量産型HVとしてトヨタ「プリウス」が発売されて以来、世界に先駆けてHVが普及してきたという実績があります。
諸外国から見れば、HVという“未知のもの”を受け入れたという事実は、日本市場の受容性の高さを表すには十分だったのかもしれません。
もちろん、HVとEVでは使い勝手も大きく異なるため、HVと同じようなペースで今後EVが受け入れられていくかは定かではありません。
しかし、日本人が思っている以上に、日本市場はEVを受容する懐の深さがあると、海外の自動車メーカーは考えているようです。
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現在のEVシフトは、どちらかといえば、各国政府や自動車メーカーの事情によって推進されている側面があり、ユーザーニーズを反映しているとはいい難いのが実情です。
しかし、ユーザーの選択なくしてEVシフト、そして脱炭素社会の実現はありません。
そういった意味で、今後のEVシフトのカギは、われわれユーザー自身が握っているといえます。