マツダ「ロードスター」に設定された特別仕様車「990S」は、軽さを追求したモデルです。990kgという軽量なボディには、どのような秘密が隠されているのでしょうか。
■ロードスターシリーズ最軽量の「990S」登場!
2021年12月に登場したマツダ「ロードスター(ND)」の特別仕様車「990S」。その特徴はなんといっても軽量化です。
現行ロードスターのバリエーションのなかでもっとも車両重量の軽い「S」グレードをベースに、標準装備品に対して1本あたり約800g(1台分で約3.2kg)軽いレイズ製の鍛造アルミホイールを履いてダイエット。
さらにブレーキも、フロントは標準装着品の1ピストンよりも軽いブレンボ製の対向4ピストンキャリパーを組み合わせています。
ブレーキローターはフロントが17インチ車用の大径、リアも大径ローターにノーマルと同じ形状で塗装を施したキャリパーを組み合わせて強化するなど、軽量化を施しただけでなく、ブレーキを強化しているのも注目したいポイントです。
「軽量モデルを作るなら、バネ下だけでなく車体のさらに広い範囲で軽量化をすればよかったのではないでしょうか?」
筆者(工藤貴宏)のそんな質問に対する開発責任者の答えは、「もちろんそれも考えた」でした。そう前置きしつつ、次のように続けます。
「車体で軽量化できる部分を探したのですが、すでに開発時(現行型へのモデルチェンジ時)に徹底的に軽量化しており、これ以上軽くできるポイントがありませんでした。そこで軽量化はバネ下に集中することにしました」
現行ロードスターは、例えばボンネットフード裏の骨にはたくさんの穴をあけて軽量化するなど、ゼロ戦からインスピレーションを受けた軽量化が施されています。
加えて「S」グレードは、天井の遮音材をなくしリアウインドウのガラスを薄くするといった、遮音性能と引き換えに幌も軽量設計としているのでした。
なお、同グレードはストイックに軽さを求めたため、シートヒーターやマツダコネクト(ナビに発展できるディスプレイオーディオ)も装着できません。
バネ下重量の削減は、加速、旋回、減速といった基礎的な運動性能に加えて、サスペンションの動きを軽やかにするなど走りに大きなメリットをもたらします。
■当初やる予定がなかった「エンジン制御」も変更された理由とは?
さらに「990S」は、軽さによる走りの魅力を引き出すべく、バネ下重量の軽減にあわせてサスペンションやパワーステアリングも「S」とは異なる専用セッティングを実施。加えて、エンジン制御プログラムも専用チューニングとなっています。
軽量化とエンジン制御プログラムにはどのような関係があるのでしょうか。
じつは、直接の関係はありません。だから当初は「990S」で変更する予定はなかったそうです。
しかし、より軽くなって軽快感が増した操縦性に対し、「そこまでこだわる仕様なら、パワートレインも特別な仕立てにしたい」とパワートレイン担当チームが提言。
その結果、ほかの仕様とは異なるエンジン制御プログラムが組み込まれることになったというわけです。
変更されているのは応答性アップです。具体的には、ほんのわずかだけスロットルをいわゆる「早開き」状態とすることで、アクセル操作に対するトルクの立ち上がりを素早くしています。
より軽快な走りを楽しむための、エンジニアからのプレゼントといっていいでしょう。
「990S」には、スポーツカーには当然のアイテムといえるリアスタビライザーが装着されていません(ベースとなっている「S」も同様)。
そのためスポーツカーとしては例外的にロールが大きめのコーナリング姿勢です。
だからといって「悪くない」のが現行型ロードスターの良いところ。
適度なロールが峠道のつづら折りのコーナーにおいて「ひらひら」と舞うような軽快さを演出し、「RS」や「NR-A」のようにサスペンションを硬めた仕様のグレードとは異なるベクトルの「楽しさ」をもたらしてくれるのです。
サーキットも含めたハイスピードレンジで限界に近い領域を楽しむなら「RS」や「NR-A」、日常域でゆっくり走ったときに軽快感がもたらす楽しさを深く味わえるのは「990S」や「S」とロードスターを選び分けられるでしょう。
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ところで、「990S」のベースとなっている「S」の車両重量は990kgです。そして「990S」も同じく990kgとカタログ上では表記されています。
「それなら同じ数値であり、『990S』だからといってシリーズ中で最軽量というわけではないのでは?」と思ったのは筆者だけではないでしょう。
しかし、実際にはマツダのアピール通り「990S」はシリーズ中もっとも軽い仕様です。
その理由は、型式認定における車両重量の記載方法にあり、1kg単位は四捨五入しての「10kg刻み」となっていることが関係しています。
車両重量が985kgから994kgであると「990kg」と記載されることから、その方法に則れば「S」も「990S」どちらも「990kg」と同じ表記なのですが、開発エンジニアによると「記載される値に現れない範囲で、実際の重量は『990S』のほうが軽い」ということになるのです。