世界的なEVブランドといえば「テスラ」が有名ですが、中国には「BYD」というブランドも存在し、近年のEV市場でシェアを伸ばしています。そうしたなかで、日本市場に乗用EV「e6」を導入しましたが、どのようなモデルなのでしょうか。
■EVのトップメーカー、BYDから日本向け初の乗用EV「e6」登場
中国のBYDが日本市場にEV乗用車「e6」を導入し、自治体・法人向けに展開しています。これまでバスなどでは国内導入の例がいくつかありましたが、新たなe6とはどのようなモデルなのでしょうか。
1995年広東省深セン市にて設立されたBYDは、当初、純粋なバッテリーメーカーでした。
2003年、陝西省に本拠地を置く小型車メーカー「西安秦川汽車」を買収し、BYDの自動車部門「BYD汽車」が誕生。
現在は電子部門「BYD電子」とともにBYDグループの主要2部門を形成しています。
設立からしばらくは西安秦川汽車時代の車種を継続して生産していましたが、2008年にはガソリン車「F3」をベースとした世界初の量産PHEV「F3 DM」を完成させます。
その後、BYDはガソリン車のみならず、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(EV)などを手掛ける一大メーカーにまで成長することになります。
2021年の1年間、中国市場においてBYDはEV(前年比145%増)+PHEV合計で約60万台を販売しました。
世界でもトップクラスの販売台数を誇っており、世界で販売されたNEV(新エネルギー車)トップ10のうち約半数がBYDの車種となっています。
中国市場はもちろん、世界市場においても、もっとも勢いのある自動車メーカーのひとつであることは間違いないでしょう。
日本市場においては2015年に電気バス(BYD K9)を京都の路線バス(プリンセスライン)に導入したことを皮切りに、以降、急速に日本全国のバス事業者へ納入を進めています。
沖縄県、福島県、岩手県、静岡県、千葉県などの各路線バス事業者のみならず、埼玉県にある私立中高一貫校のスクールバスや、阪急バスが運行する大阪大学の3キャンパスを結ぶバス、長崎県のテーマパーク「ハウステンボス」園内ホテル宿泊者専用の送迎バス。
そして東京都恩賜上野動物圏のシャトルバスなど、今やBYDの電気バスはさまざまな用途向けに70台近くが日本の各地で活躍しており今後も続々と増えていく予定です。
2021年2月には初めてバス用途以外でBYDの車種が採用されました。採用したのは京都府の都タクシーで、タクシー用途でBYD「M3e」という6人乗りのミニバンを2台導入しました。BYDはバス用途だけでなく、タクシー用途でも攻勢をかけておこなっています。
なお、M3eをタクシーとして導入した都タクシーによれば、M3eのクオリティは日本車と遜色ないとのことですが、ただ日本独特のタクシー装備である「自動ドア」の装備がないのは厳しいようです。
後付けするにしても設計上はもちろん、費用的にもかなり困難だそうで、ドアの開閉は乗務員が降りておこなっているそうです。
現在は流しで走っているほか、京都を訪れる修学旅行生には電気自動車であることや、ミニバンタイプで見晴らしがよいことなどで大人気車種となっています。
■日本向け初の中国製乗用車EV「納入第一号」は京都の都タクシー
そして2022年1月。BYDジャパンはついに日本国内では初となる乗用車タイプのEV「e6」の販売を開始しました。
航続距離522km(WLTC市街地モード)で荷室容量は580リットル、実用性に優れたe6は2017年に発表された「宋 MAX」というワゴンを元に、ホイールベースを15mm延長させ、装備を簡素化させた仕様となっています。
なお、現在のe6は2代目のモデルとなっており、初代e6は2009年に発表されています。
初代e6は発表以来、BYDのお膝元である深センをはじめ、香港やマカオ、シンガポールなど、世界各国の都市にてEVタクシーとして採用されてきました。
今回日本で発売された2代目e6もすでに深センなどでタクシーとして採用されており、旧型よりも大幅に向上した航続距離などはタクシーというシビアな運行環境において大きな強みとなってくれそうです。
2代目e6は初代と比較し、あらゆる面で進化しています。まずボディサイズの比較ですが、初代は全長4560mm×全幅1822mm×全高1630mmであったのに対し、2代目は全長4695mm×全幅1810mm×全高1670mmと、若干ですが大きくなっています。
これに伴い、車内空間はより広く、そして荷室容量は450リットルから580リットルへと拡大され、乗員の快適性と荷物の搭載量においても大幅な向上を実現。
バッテリーは71.7 kWhリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを搭載。「ブレードバッテリー」と呼ばれるBYDが独自で開発したバッテリーは、複数個の「刀」形状のセルで構成されています。
その最大の特徴はなんといっても安全性の高さで、バッテリーの安全性を実証する「クギ刺し試験」では発火はおろか、発煙すら確認されることなく、表面温度は30度から60度とどまっています。
なお、BYDジャパンによるとe6は自治体・法人向けの純電気自動車として販売されており一般販売の予定はないそうです。
そして、この度発売されたe6を初めてタクシー車両として導入決定したのは京都・都タクシーです。
すでに2021年2月からBYDのM3eを実際にタクシーとして使用している同社では新型e6に大きな期待を寄せており、都タクシーの代表取締役社長・筒井基好氏は次のように話しています。
「はじめてみたときは『クルマがハードになった』という印象でした。
タブレットひとつ載っているだけで運転席の構成は至極シンプルなものでした おそらくソフトウェアをアップデートすることにより機能を高めていくということなのかなと。
極端な話、自動運転プログラムをダウンロードするだけで、実現できてしまうのではないでしょうか(諸問題はあるでしょうけど、機能としては達成できそうです)
『ガラケーからスマホ』そんな印象がありました。
見た目も日本車と遜色ありません。M3eはよく見るタイプのワンボックスですが、e6はBYDらしい個性がでてきたな、と思いました。
高級感も漂っていて日本車にないデザインは面白そうです。日本人にウケるかどうかはわかりませんが、“世界”をちょっとみてみよう。そんな気持ちで導入を決めました」
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タクシー用として日本第一号となるe6は現在、自動ドア取り付けの作業をおこなっているとのこと。
日本で使うには欠かせない自動ドアを備えたe6。こちらも電気バス同様、全国のタクシー会社で採用が進むかもしれません。