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ソニーとホンダ「EV提携の舞台裏」 作って売るだけ…では終わらない? 両社の立場と狙いとは

くるまのニュース 2022年3月8日 11時10分

ソニーグループとホンダが、合弁会社を設立し、新型EVを開発・販売していく計画を発表しました。これまでの経緯と経営トップの会見発言から、提携の舞台裏と狙いを探ります。

■「ソニーはメガトレンドに『対応してきた』」

 ソニーとホンダが一緒にクルマを作る――そう聞いて「嘘でしょ!?」と驚くというより、「さもありなん」といった感想を抱く人が多いのではないでしょうか。

 なぜならば、2社には企業文化として共通点があるからです。

 両社提携の狙いについて、2022年3月4日の合同記者会見での経営トップの発言と、これまでの経緯を振り返りながら考えてみます。

 まず、発表の主旨ですが「新しい時代のモビリティとモビリティサービスの創造に向け、戦略的な提携に向けた協議・検討を進めることで合意した」というものです。

 これに伴い、両社で新たにジョイントベンチャー(合弁会社)を設立し、新型BEV(電気自動車)を共同で開発・販売して、モビリティサービス向けサービスの提供と事業化を進めます。BEVの第1弾は2025年の発売を予定しています。

 新会社はBEVの企画・設計・開発・販売を手掛け、ホンダは工場での製造を担い、ソニーはモビリティ向けサービスプラットフォームを開発して新会社に提供する想定です。

 ソニーグループ会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏と、ホンダ社長の三部敏宏氏の会見中のコメントを聞いていると、両社の狙いとしてソニーブランドのさまざまなBEVをどんどん作るという発想ではなく、肝はサービスプラットフォームにあるように思えます。

 コメントでもっとも印象深かったのが、吉田氏が「ソニーは、ITや通信のメガトレンドをリードしてきたのではなく、対応してきた」という点です。その上で、「モビリティの進化に貢献し、モビリティの進化をリードしていきたい」と話しています。

 つまり、IT業界や通信事業では、いわゆるGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック〔現・メタ プラットフォームズ〕、アマゾン、マイクロソフト)がトレンドをリードしてきましたが、モビリティ分野を最大限に活用して、そうしたトレンドに大きな変化をもたらしたい、ということだと思います。

 ソニーという企業に対して、一般的にはゲーム機の「PlayStation」、パソコンの「VAIO」、スマートフォンの「Xperia」といったハードウェアメーカー、または映画や音楽のコンテンツメーカーというイメージが強いのではないでしょうか。

 ところが実際の事業内容は、そうした一般的なイメージとは少し違います。

 直近でのソニーグループ2020年度連結業績概要(2021年3月31日に終了した1年間)によると、売上高は8兆9994億円です。

 これをセグメント別業績で見ると、最も大きいのがゲーム&ネットワークサービスで2兆6563億円、次いでエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューションが1兆9207億円、金融が1兆6689億円、イメージ&センシング・ソリューションが1兆125億円、音楽が9399億円、映画が7588億円と続きます。

 この中のイメージ&センシング・ソリューションが、ソニーと自動車産業との現状でのつながりの主体です。

 具体的には、自動車用のADAS(先進運転支援システム)の領域で、CMOSと呼ばれるイメージセンサーの採用が増えているのです。

 ただ、現状では、ソニーは自動車メーカーに対する直接的な取引の比率は少なく、基本的には自動車部品大手と取引するティア2(第二次部品メーカー)の立場に過ぎません。

 そこで、ソニーとしては手持ち技術であるCMOSと、車内におけるハードウエアと音楽、映像、ゲームコンテンツを融合させることで、モビリティという枠組みで次世代自動車産業への挑戦を社内と社外に向けて具現化するため、BEVの実車を擁する「VISION-Sプロジェクト」を立ち上げたと考えられます。

■「単なるEV拡販」の先にあるソニー&ホンダの狙い

 ソニーは2020年の米CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)で4ドアの「VISON-S 01」、そして2022年CESでクロスオーバーの「VISION-S 02」を発表しましたが、筆者(桃田健史)を含めて多くのメディア関係者は、ソニーが実際にクルマを製造することはなく、あくまでもCMOS事業やエンターテインメント事業の発展に向けたイメージリーダー的な存在という感想を持っていました。

 または、ソニーとして自動車産業とのさらに深い関係を求めている意思をVISION-Sによって示すことで、既存の自動車メーカーや自動車大手部品メーカーなどと、新たなビジネスチャンスを模索する動きを進めていくことも予想されました。

 なお、VISION-Sの製作については、欧州や日系メーカーの量産車製造や共同開発を手掛ける、オーストリアのマグナ・シュタイアが担っています。

 そうした中、2022年CESで、ソニーが新会社ソニー・モビリティを設立しBEVの量産化を視野に入れているとの意向を示したことで、「パートナーが見つかったのかもしれない」というメディアの見方も出てきました。

CES2022で公開されたSUVタイプのEV試作車「VISION-S 02」(左)と公道走行試験等を展開しているプロトタイプ「VISION-S 01」(右)

 今回の会見では、ホンダの三部氏は「昨年(2021年)夏に、モビリティと異業種連携を模索するため、ホンダから(声掛けして)若手のワークショップをおこなった」と説明し、そこで2社の化学反応を実感したことで、2021年末から吉田氏との間での直接協議が加速したと説明しています。

 また、三部氏は「ソニーとのジョイントベンチャーと、ホンダのBEV事業戦略とは(基本的には)別物」という解釈を示した上で、サービスプラットフォームについては当然ながら、それ以外の分野でもジョイントベンチャーで得られた知見や実績を、ホンダのBEV事業で活用する可能性もあり得るという見解を示しています。

 このように、両社の狙いは、単なるBEVの拡販ではなく、両社で実際にBEV事業を進めることで、GAFAMに対応でき得る、またはGAFAMと共栄共存でき得る形での、これまでにない全く新しい総括的なサービスプラットフォームの構築にあると思われます。

 そのため、このサービスプラットフォームについては、ソニーとホンダで開発を始めますが、さまざまなパートナーとの協業や他の自動車メーカーの参画についても、「外に向けてオープンな状態」にしていきたいという姿勢を示しました。

 ソニーとホンダが生み出す新たな化学反応に、大いに期待したいと思います。

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