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マツダ「ロードスター」はなぜ人気? ND史上最軽量の「990S」にも受け継がれた魂とは

くるまのニュース 2022年3月12日 11時50分

2021年年末に商品改良をおこなったマツダ「ロードスター」で、新たに登場したのが「990S」グレードです。車名の由来となる990kgの軽量モデルの魅力はどこにあるのでしょうか。初代ロードスターから25年以上オーナーを続けるモータージャーナリスト、鈴木ケンイチ氏が語ります。

■ロードスターの魅力のひとつは軽量さ

 2021年年末に発表されたマツダ「ロードスター」の商品改良で、新たにラインナップに追加されたのが、特別仕様車「990S」です。

 990Sは軽量なベーシックグレード「S」をベースに、軽量なアルミホイールとブレーキを装着し、ロードスターのコンセプトの根源となる軽量さを磨いたモデルです。

 この特別仕様車の魅力は、どこにあるのか。また、そもそもロードスターは、なぜこんなに長い間、高い人気を保ち続けることができているのか。そんな疑問に、25年以上ロードスターのオーナーを続け、実際に990Sを購入した筆者が、その理由を考えてみます。

 ロードスターの魅力がどこにあるのかと考えたとき、最初に思い浮かぶのは、1989年に登場した「ユーノス・ロードスター(初代ロードスター)」のカタログに示されたメッセージを思い浮かべます。

 それは「だれもが、しあわせになる。」というものです。

 ロードスターのコンセプトは手ごろな価格で買える&ライトウェイト・スポーツ&オープンカーというものであり、そのクルマが提供する価値が「だれもが、しあわせになる。」ことだといえるでしょう。

 ライトウェイト・スポーツとは文字どおり軽量なスポーツカーのことで、1950年代から1960年代にかけて、おもに英国で隆盛を極めていました。トライアンフやMG、オースチンヒーレー、ロータスなどのメーカーが小さくて軽量で軽快に走るスポーツカーを数多く販売していたのです。

 そうしたクルマの多くはオープンカーでした。そのジャンルを1980年代の終盤に、手ごろな価格で復活させたのが初代ロードスターだったのです。

 初代ロードスターのエンジンは非力でしたし、装備も貧相なものでした。それでも、エンジンからトランスミッション、後輪のデフまでを、1本のアルミの骨組みで繋げる「パワー・プラント・フレーム」という技術で、ボディ剛性を保ったまま車体を軽くすることに成功します。

 これにより、“速い”ではなく、気持ちよく走る「人馬一体の走り」も実現。しかも、オープンカーという気持ち良さもプラスされています。つまり、「ロードスター」は、ゆったり走っても、一生懸命に走らせても、とにかく「気持ち良くて、楽しい!」というクルマになったのです。

■軽さがもたらす楽しさをとことん追求!

 また、「ロードスター」は、オーナーがメンテナンスしやすいように、ボルト&ナットのサイズがハンドツールでも扱えるように調整されていました。

 ブレーキパッド交換のような作業から、サスペンション交換、はてはクラッチ交換まで、アマチュアでもできるようになっていたのです。筆者も若いころにオイルで手と顔をまっ黒にしながら挑戦したことは、良い思い出です。

1989年に登場した初代「ユーノス・ロードスター」

 そんな手を入れやすいクルマですから、市井のショップがカスタムするのも簡単です。そのため、「ロードスター」がヒットすると、日本中どころか世界中のショップから、カスタム用のパーツが発売されました。
 
 そうしたパーツを使えば、自分のロードスターを、誰にも似ていない世界でただひとつのものにカスタムすることができます。これもロードスターのヒットの理由のひとつでしょう。

 さらに、ロードスターには、数多くのオーナーのコミュニティが生まれました。ネットのない時代は、オーナーズ・クラブが結成され、週末にドライブがてら集まるようになります。

 またネット時代になると、SNSを舞台に同じようなコミュニティが生まれます。また、ネット時代になってもオーナーが集うイベントは盛んに開催され続けます。毎年5月末には、恒例の「ロードスター軽井沢ミーティング」が開催され、毎回1000台を超えるロードスターが全国各地から駆け付けます。そうしたイベントに気軽に参加できるのも、他のクルマにない魅力といえるでしょう。

※ ※ ※

 そんなロードスターの魅力は、初代のNA型から2代目のNB型、3代目のNC型、現行型のND型まで、脈々と受け継がれています。この継続性もロードスターの魅力です。

 モデルが継続していれば、旧型から新型に乗り替えることもできますし、専門ショップもビジネスを継続できます。「ロードスター」を盛り上げる人たちが長く続けられるのも、重要なポイントと言えます。

 そして2015年に誕生した現行型のND型ロードスターは、マツダにとって、非常によい時期に生まれたモデルです。

 振り返ってみれば、初代NA型はバブル期の人手不足の中で苦労して生まれた奇跡のようなモデルでした。次のNB型はバブル後の不況時代、NC型はフォード傘下の時代という、どちらもマツダの経営が悪化した時代に、どうにかこうにか生き延びることができたというモデルです。

 しかし、2015年のマツダはスカイアクティブ・テクノロジー&魂動デザインなどの第6世代商品群をリリースし、勢いに乗っていた時期。そんな充実した時期に生まれたND型「ロードスター」は、非常に練り込まれたよいクルマに仕上がっていると、乗るたびに感じます。

■990Sはなぜ人気となっているのか

 そんな出来の良いND型をベースにしつつ、軽量さを磨くという原点回帰を目指したのが、今回、追加された990Sです。

マツダ「ロードスター990S」の走り

 ちなみにロードスターの開発陣は、マツダ内にこもるのではなく、オーナーが集うイベントに熱心に顔を出しています。実際のユーザーの生の声を浴びるように耳にしているのです。その開発陣が、オーナーの願いや、ロードスターの魅力を見失うはずがありません。

 ということで990Sは、2021年11月の「ロードスター軽井沢ミーティング(コロナ禍で例年とは日程が変更されていた)」でその存在が公にされた直後、筆者は試乗もせずに購入のハンコを押しました。

 なぜなら開発陣は「ベーシックなSグレードを大切に思っています。そのSにスポットライトを当てるモデルを作りたかった」と説明したからです。個人的にロードスターの神髄は、ベーシックな「Sグレード」にあると以前から考えていましたから、その思いに強く同意したわけです。

 そして2022年2月のメディア試乗会にて、990Sのハンドルを握る機会を得ました。ちなみに、自身が契約したクルマは、まだ納車される前でした。しかし、その出来は、予想を上回る良さであったのです。

 まず、何もない場所での乗り心地が良いのに驚きました。ダンパーが専用に調整されていたのです。

 また、ワインディングでの安定感と安心感もアップ。ブレーキもコントロールしやすくなっています。街中と、ちょっとしたワインディングを中心に走るのであれば、大満足という内容です。

 逆にカーナビもなにもない質素なインテリアは、想定どおりのもの。それでも、衝突被害軽減自動ブレーキや斜め後ろの他車の存在を知らせるブランドスポットモニターが標準装備されているのは、いまどきのクルマということ。質素といっても、必要なものは、ちゃんとアップデートされているのは安心な部分です。

※ ※ ※

 まとめて言えば、ロードスターの魅力は、走って楽しく、イジって楽しく、仲間と集って楽しいという、「だれもが、しあわせになる。」を体現したところにあり、それが初代から、現行モデルまで継承されているところにあります。

 そして、新しく加わった特別仕様車の990Sは、そんなロードスターの原点を、現代に再現したモデルといえるでしょう。人気があるのも当然のことだと感じます。

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