自衛隊にはさまざまなクルマ(車両)が存在します。クルマ好きとしては気になるもののイマイチ分からない自衛隊車両ですが、その特徴はどのようなものなのでしょうか。
■持っててよかった装甲付きジープ「軽装甲機動車」とは
自衛隊のクルマといえば戦車を真っ先に思い浮かべるでしょう。でも実物を見かける機会があまりありません。
目にする機会が多いのがいわゆるジープ:正式名称「1/2tトラック」です。
三菱のSUV「パジェロ」の派生型ということもあり、小回りが利き街中や高速道でも普通に走れますし、悪路走破性にも優れます。自衛隊の顔ともいえるクルマです。
その一方で、世界的に自衛隊の顔として知名度が上がってきたのは「軽装甲機動車」です。英語呼称「Light Armoured Vehicle」から、防衛省の略称としては「LAV(ラヴ)」と呼ばれます。
このクルマは2002(平成14)年から導入が始まりましたが、翌2003(平成15)年からの自衛隊イラク派遣でも使われ、特徴的な角ばった車体に日の丸を付けた姿がニュース映像でも紹介されて有名になりました。プラモデルやラジコンカーにもなっています。
イラクでは本格的な戦闘は終わっていましたが情勢は不安定でどこから弾が飛んで来るか油断できませんでしたので、防弾力のある軽装甲機動車は隊員に大きな安心感を与えました。
現地では小回りの利く小型装甲車を持っていなかった他国軍からうらやましがられたというエピソードもあります。
ジープよりは大きいが戦車や装甲車よりは小さく防御力も限定的で中途半端な装甲車という印象もありましたが、ちょうど導入が始まったタイミングでイラクに派遣されることになり、結果として「持っててよかった」ということになりました。
「軽装甲機動車」とは文字通り軽便で機動性に優れた装甲車ということです。
いうなれば装甲付きジープです。でも先に紹介した「1/2tトラック」に装甲板を付けたというわけではなく、まったくの別物です。
1994(平成6)年から小松製作所が開発を手掛けましたが、それまで自衛隊には装軌(いわゆるキャタピラ)の「73式装甲車」や、8輪の装輪(タイヤ)の「96式装輪装甲車」という比較的大型の装甲車がありました。
しかし数は十分ではなく、ほとんどの隊員の移動手段が防御力のないトラックしかないという状態でした。
そこで小回りが利き、ある程度の防御力を持ち、できるだけ安価な装甲車が求められたのです。
軽装甲機動車はそれまでの装甲車と作戦での使い方が違います。
73式で8名、96式で12名の隊員が乗車して、1両で1個小銃班という単位で運用されました。
しかし軽装甲機動車は小型ですので定員は4名です。1個小銃班が2、3両に分散して乗車することになりますが、却って小回りが利き、輸送機やヘリコプターで空輸もできるので機動性と柔軟性のある運用ができるようにもなります。
また生まれ育ちもユニークです。自衛隊のほとんどの戦車や装甲車には、制式化された年度に合せて「○○式」という名前が付きます。
例えば2010(平成22)年度に制式化された戦車は「10(ヒトマル)式戦車」という具合です。
軽装甲機動車は2002(平成14)年導入ですから「02式装甲車」と呼ばれても良さそうです。
行政手続の話になりますが、制式化されると仕様が細かく指定され使うパーツも規定されます。
軽装甲機動車はコスト削減を徹底するため民生品を多く使っていますが、民生品はモデルチェンジの周期も早く、いちいち規定を改定するのが追いつきません。
そこで制式化ではなく「部隊使用承認」という方法で採用されたので、「02式」とは呼ばれません。
そのため、外見は同じでも、製造された時期によって内部のパーツ類は異なっています。
■軽装甲機動車は1両3000万円? 後継車両はどうなるのか?
自衛隊の装備品といえば少量生産で高価になることが指摘されますが、軽装甲機動車はこうしたコスト削減の工夫で調達価格が抑えられました。
それ故に2010(平成22)年度予算までは毎年100両単位で調達される勢いで、価格も2001(平成13)年度で1両約3500万円だったものが、2010(平成22)年度には約3000万円まで低減されました。
2016(平成27)度までに陸上自衛隊と航空自衛隊で1937両が取得され、全国で見かけることができます。
平時日常業務から災害派遣、国際派遣活動、戦闘支援まで使える何かと便利な汎用車ですが、ユーザーからはさまざまな声も聞こえています。
4名定員だが狭くて演習では4名分の装備を詰め込めない。視界が悪くて市街地の運転には気を使う。
なかには休憩でサービスエリアやコンビニなどに立ち寄ると目立つ、なんて話も聞いたことがあります。
筆者(月刊PANZER編集部)も取材の足としてお世話になったこともありますが、悪路では1/2tトラックより乗り心地が良かった印象です。
調達開始から20年経過したこともあり、軽装甲機動車の後継計画も始まっています。
2021(令和3)年度予算に、軽装甲機動車の後継車両の参考品を取得するための経費として14億円が計上されました。
しかし軽装甲機動車のメーカーだった小松製作所が防衛装備品事業から撤退し、外国メーカーを含む5社が候補になっているようです。