新型車が発売されると複数のグレードが設定されるのが一般的ですが、それとは別に設定される「特別仕様車」があります。通常、特別仕様車は装備が充実していたり、特別なカラーリングが設定される程度ですが、ちょっと趣が異なる特別仕様車も存在。そこで、非常にユニークな特別仕様車を、3車種ピックアップして紹介します。
■ユニークかつ超魅力的な特別仕様車を振り返る
クルマには価格や仕様が異なる複数のグレードが設定され、通常のラインナップを「カタログモデル」と呼称しますが、発売からある程度の時間が経過すると販売のテコ入れのため、カタログモデルとは異なる「特別仕様車」が登場するケースがあります。
特別仕様車は台数限定や受注期間限定、とくに台数や期間を定めないなど、販売方法に決まりはありません。
また、仕様もさまざまですが、その多くはベース車よりも装備が充実していたり、外観の意匠を若干変更する、カタログモデルにはないカラーリングが施されるなどが一般的で、概ねお買い得なモデルとして販売されます。
ほかにも、高性能なコンプリートカーや、生産終了直前に販売される「ファイナルエディション(最終限定車)」などもあり、これらは高い人気を誇ります。
一方で、それらとはちょっと異質な特別仕様車も存在。そこで、非常にユニークかつ魅力的な特別仕様車を、3車種ピックアップして紹介します。
●スバル「インプレッサ WRX STI A-Line」
スバルが販売する特別仕様車は、前述のような装備充実系と、STI製パーツを組み込んだライトチューンのモデル、STIがハードにチューニングしたコンプリートカーの3タイプに大きく分けられますが、そうしたモデルと趣が異なる特別仕様車のひとつが2006年に発売された「インプレッサ WRX STI A-Line」です。
WRX STI A-Lineは2代目インプレッサの後期型(鷹目)セダンのトップグレード「WRX STI」をベースに仕立てられたモデルで、外観では大型リアウイングの代わりに小ぶりなリップスポイラーを装着。
また、迫力あるブリスターフェンダーやボンネットのエアダクトはそのままですが、シックなカラーリングが設定されたことで、通常のWRX STIとはだいぶ印象が異なりました。
内装もアルカンターラと本革を組み合わせた高級感のある専用スポーツシートや、厚手のフロアマットとフロントフェンダー内にインシュレーターを追加することで遮音性を高めるなど、ラグジュアリーな雰囲気を演出。
エンジンは最高出力280馬力を発揮する2リッター水平対向4気筒DOHCターボ「EJ20型」を搭載し、トランスミッションは6速MTのみ、前後の駆動力配分をドライバーが任意に設定できる「DCCD方式 AWD」を採用するなど、卓越した走行性能はベース車と変わらず、まさに大人のハイパフォーマンスセダンに仕立てられていました。
モデルライフ末期に登場したインプレッサ WRX STI A-Lineの販売台数は少なく、今では中古車市場でレアなモデルです。
●トヨタ「カローラツーリング“2000 Limited”」
トヨタは2019年に、12代目となる「カローラ」を発売。セダンとステーションワゴンの「カローラ ツーリング」をラインナップし、シリーズ初の3ナンバーボディとなったことが大いに話題となりました。
パワーユニットは1.8リッターエンジンのハイブリッドとガソリン、さらに1.2リッターターボを設定し、ターボ車は6速MT専用モデルとなるなどスポーティモデルもラインナップ。
そして2020年6月には、2リッター直列4気筒エンジンを搭載した特別仕様車「カローラツーリング “2000 Limited”」を500台限定で発売しました。
この2リッター自然吸気エンジンは「RAV4」やレクサス「UX」といったSUVに搭載された「ダイナミックフォースエンジン」で、最高出力170馬力を発揮。パワフルなだけでなく高効率化によって、WLTCモード16.6km/Lという低燃費も実現しました。
トランスミッションは専用となるパドルシフト付の10速スポーツシーケンシャルシフトマチック(CVT)が組み合わされました。
外観は切削光輝+ブラック塗装の専用17インチアルミホイール、シルバーメタリック塗装のルーフレールなどを特別装備し、カラーリングも特別色を設定。
内装はカローラツーリングの上位グレードの装備に準じていましたが、フロントシートはホールド性を高めるとともに、表皮に撥水(はっすい)加工を施した上級ファブリックスポーツシートを採用し、随所にレッド加飾を取り入れており、スポーティに演出されました。
カローラツーリング“2000 Limited”はカタログモデルにはないエンジンを搭載した特別仕様車という、かなりレアケースのモデルでした。
なお、2021年4月には、2000 Limitedと同じエンジンを搭載したアウトドアテイストの特別仕様車「カローラツーリング アクティブライド」も、500台限定で販売されました。
●アバルト「695 ビポスト フェラーリ カーティシーカー」
最後に紹介するアバルト「695 ビポスト Ferrari Courtesy Car(フェラーリ カーティシーカー)」は、市販されなかった特別仕様車という非常に珍しい存在ですが、その中身は魅力的な1台です。
2016年5月にリリースされた695 ビポスト フェラーリ カーティシーカーは世界99台限定で製造され、日本にはうち10台を導入。フェラーリならではのレッドの特別ボディカラーを設定し、国内のフェラーリ・ジャパン正規ディーラーに納車された後、フェラーリオーナーへ代車として提供されました。
代車サービスとして他社ブランドに車両を提供することは、FCAジャパンとしても初のプロジェクトでした。
そしてベースになった695 ビポストもかなりユニークなモデルで、フィアット「500(チンクエチェント)」をハードにチューニングしたアバルト 695シリーズはこれまで何度か限定車として発売されていますが、なかでも695 ビポストはスペック、仕様ともに他のモデルとは一線を画する存在といえます。
ビポストはイタリア語で「ふたつのシート」を意味し、文字どおり軽量化のためリアシートを撤去して2シーター化。
エンジンは、最高出力190馬力を誇る1.4リッター直列4気筒ターボで、シリーズでもトップクラスの高出力を発揮しましました。
また、695 ビポストには標準仕様とフルスペック仕様の2種類が設定され、フルスペック仕様はサーキット走行を前提したモデルで、一般的にはレース用のトランスミッションである「ドグリングトランスミッション」(ドグミッションとも呼称)を搭載。
ほかにもフルスペック仕様では、データロガーとサベルト製4点式シートベルトを搭載、さらなる軽量化のためサイドウインドウをプラスチックの固定式に変更し、アルミ製ボンネットやチタン製ホイールボルトの採用やエアコンを撤去するなど、普段使いを考えていないストイックなモデルでした。
なお、695 ビポスト フェラーリ カーティシーカーは標準仕様がベースでした。
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特別仕様車の多くは限定車のケースが多く、前述のようなファイナルエディションのなかでも高性能モデルでは争奪戦となり、結果的にプレミアム価格で中古車が出まわることにつながってしまいます。
いわゆる「転売ヤー」の存在も問題視されていて、メーカーは抽選など対策を講じていますが、なかなか抜本的な解決にはなっていないのが現状です。