昨今は新車の納期が遅れていますが、それに伴い受注を中止するクルマが出てきています。とくにトヨタは深刻で、約10車種の主力モデルが販売できない状況に。一体なぜなのでしょうか。
■人気車の納期が一斉に遅れて売るクルマがない!
最近は、各メーカーともに新車の納期が遅れています。
原因は「半導体不足」といわれていますが、実際はもっと複雑な背景があり、メーカーの開発者は「(電気信号を伝える)ワイヤーハーネスや塗料、樹脂パーツなど、さまざまな供給が滞っている」といいます。
とくに納期遅延の目立つメーカーがトヨタです。そこでトヨタの販売店に話を聞いてみました。
「今は納期が全般的に長く、半年に達する車種も増えました。しかも『クラウン』『ハリアー』『シエンタ』など、約10車種の受注が停止しています」
納期の遅れに加えて、なぜ受注まで停止したのでしょうか。販売店スタッフは次のように続けます。
「受注が停止した理由は、フルモデルチェンジや改良を実施するからです。
クラウンやシエンタはフルモデルチェンジが近付いていますし、『プリウス』も2022年の末から2023年に掛けてフルモデルチェンジをおこないます。
ハリアーや『RAV4』『カローラツーリング』などは改良やマイナーチェンジを受けます。
昨今は納期が長引いていることから、これらの車種を受注すると、納車されるときには次期型や改良後のモデルになってしまい、その内容は明らかにできないので受注を停止しているのです」
例えば次期プリウスの登場は2022年の末から2023年なので、通常なら本稿を執筆している2022年5月現在では最終型を販売しています。
しかし仮にプリウスの納期を8か月とすれば、2022年5月に契約すると納車されるのは2023年1月。
その段階ではすでに次期型に切り替わっていますが、2022年5月時点でその情報は公開できません。そこで受注が停止されるというわけです。
この状況は、ユーザー、販売会社、メーカーのすべてに不利益をもたらします。
受注の停止はその車種を売っていないということですから、ユーザーは選択肢を狭められてしまいます。
販売店は、今の状況を次のように述べています。
「ハリアー、シエンタ、プリウス、カローラ、RAV4などはすべてトヨタの主力商品です。この受注が停止したので、販売店としては『何を売れば良いのか……』という感じです。
とくにクラウンは法人のお客さまも多く、決算などの都合に合わせて車両を入れ替えることもあります。
お客さまが必要なときに納車できないと、メルセデス・ベンツなどを購入される心配もあります」
今は新車需要の多くが、乗り替えに基づきます。大半のユーザーは、それまで使ってきた車両を下取りに出して新車を購入。そのタイミングは、下取りに出すクルマの車検満了に合わせることが多いです。
そうなると、新車の納期が予想以上に長引けば、新車が納車される前に下取りに出すクルマが車検の時期を迎えてしまいます。
納車を待つために、今まで使ってきたクルマの車検を改めて取り直すなど、余計な手間や出費を要するのです。
■今後は新車の発売方法が変わる可能性も
今後の見通しを考えると、各種パーツの供給不足による納期遅れは収まりそうにありません。海外では、新型コロナウイルスによる都市封鎖などが今でも続いているからです。
納期遅延や受注の停止が今後も長引くと、販売店のコメントにあった通り、ユーザーが納期の短い他社のライバル車を購入する心配も生じます。
これを受けて販売店からは「今後は新車の発売方法が少し変わるようです。メーカーが発信する新型車関連の情報は従来よりも早く販売店へ伝えてもらい、商談の開始時期を前倒しします。そうすれば受注を完全に停止する期間を短くできるからです」という話もありました。
確かに、「受注は終了したけどフルモデルチェンジされる新型車の情報は何も分からない」という状態が続くと、購入を希望するユーザーは不安を感じます。
「実態の分からないクルマの登場を待つくらいなら、現時点ですでに販売されているクルマで手を打とう」という判断も働くでしょう。
そのため受注開始を前倒しするのも理解できますが、その場合、メーカーはなるべく詳しい情報を販売店に伝える必要があります。
曖昧な情報だけで商談や受注を進めることは、ユーザーと販売店の両方にとって不安を招くからです。
例えば販売店のスタッフがプロトタイプに試乗する機会を用意して、従来型との違いなどをユーザーに詳しく説明できる体制を整えないと、受注開始の前倒しが顧客満足度を下げてしまうほか、他社への顧客流出も生じます。
新しい売り方では、「展示車や試乗車のない状態で商談することの不利をいかに少なく抑えられるか」が重要になるでしょう。
また商品開発も変わります。従来は高機能でコストの割安なパーツを積極的に使いましたが、今後は安定供給も重要になります。
万が一供給が滞ったときに他社製品に代替できるのか、対応を図れるのか、という汎用性も問われるでしょう。
新型コロナウイルスに基づく納期の遅延は、車両の企画、開発、製造から発売の仕方まで、自動車業界のさまざまな部分に変化をもたらすのです。
しかもそのタイミングが電動化の波と重なっているので、今まで経験したことのない試練になるかもしれません。