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なぜナンバー付でも「田植機」は公道走れない? 農業支える「田植機」 交付される「課税標識」とは

くるまのニュース 2022年6月2日 9時10分

日本全国で田植えシーズンとなる5月・6月には、田んぼなどで「田植機」が活躍している光景が見かけられます。そうしたな田植機は、ナンバープレートを取り付けているにも関わらず公道走行が出来ません。その理由とはどのようなものなのでしょうか。

■乗用タイプの田植機はナンバープレートが必須だが、公道は走れない謎…。

 田植えシーズン最盛期を迎え、全国各地で美しい水田の光景が見られるようになりました。
 
 田植えなどの作業において活躍する「田植機」ですが、ナンバープレートを取り付けているのに公道を走ることが出来ず、トラックに載せて運ばれているようです。その理由とはどのようなものなのでしょうか。

 筆者(加藤久美子)が住む横浜市北部の農業専用地域も田植え作業がおこなわれており、満々と水をたたえた緑の水田が増えてきました。

 夜になるとひときわ大きく、カエルの大合唱が聞こえてきます。

 この地域では毎年5月の半ばを過ぎる頃になると田植機がトラックに運ばれている光景に遭遇します。

 また、緑色の小さなナンバープレートを付けた農耕用トラクタが走行する姿も良く見かけます。

 しかし、トラクタとは違って田植機のそばには必ずトラックがおいてあり、田植機を移動させる際にはそのトラックに載せて運ばれているようです。

 田植機には人が乗るタイプの「乗用」田植機と、乗用装置は持たず人が押すタイプの2種類がありますが、乗用タイプの田植機は道路運送車両法においては小型特殊車両となり軽自動車税の納付とナンバーを取り付ける義務があります。(「歩行用」の田植機は単に農機で、軽自動車税の課税対象にはなりません)

 課税対象となる小型特殊自動車のなかでは農耕トラクタやコンバインと同様に「農耕作業用自動車」に該当し、大きさ(長さ、幅、高さ)や総排気量に制限はありませんが、最高速度は時速35km未満に抑えられています。

 毎年4月1日現在の所有者に農耕作業用小型特殊自動車として軽自動車税(種別割)が課税される仕組みで税額は年額2400円です。

 税金を納め、ナンバープレートを取り付けているのに、なぜ田植機は道路を走らずトラックに載せて運ばれているのでしょうか。

 いくつかの市町村役場の公式サイトやクボタ、ヤンマー、イセキなど大手農機具メーカーのFAQにおいても「乗用田植機は公道を走れますか?」に対する回答として同様のことが記されていました。

–公道を使う場合は必ずトラックなどに載せて移動してください。

 乗用田植機は、道路運送車両法で農耕用小型特殊自動車に分類されますので、所有者は公道走行の有無に関わらず軽自動車税の納付が必要になります。

 納税することで、課税標識(ナンバープレート)が交付されますが、乗用田植機は道路運送車両法による保安基準を満たしていないため、道路法に定められた公道を乗用走行することは違法行為になります。

※ ※ ※

 要するに保安基準を満たしていないので公道を走ることはできないということでした。

 そして、緑色のナンバープレートは道路運送車両法に基づいて交付される「自動車登録番号標」(自動車に取り付けが義務付けられている一般のナンバープレート)ではなく「課税標識」となるのです。

 公道は走れないものの、乗用田植機を所有している人は納税義務があり課税標識としてのナンバープレートを取り付ける義務があることがわかりました。

 しかし、国内メーカーの田植機の多くは、そもそも最初からナンバーが取り付けられる設計にはなっていないとのことです。

 どのような理由からなのでしょうか。田植機にナンバープレートを取り付けられる場所がない理由をクボタの広報課聞いてみました。

「田植機は道路運送車両法で小型特殊自動車に定義されていますが、構造上の問題もあり現在保安基準に適合した(=公道を走行できる)田植機は販売されていません。

 小型特殊自動車の軽自動車税は、公道を走行するしないにかかわらず課税されますが、田植機にはナンバープレートを取り付けられる場所を設けていません。

 これは、使用者が自動車に取り付けられている道路運送車両法の『自動車登録番号標』と誤認し、公道上で走行できるものと判断されてしまうことを避けるためです。

 田植機については、任意の見やすい位置にナンバープレート(納税標識)を取り付けてください」

※ ※ ※

 つまりナンバーがあるなら公道を走れるという誤認を避けるためにあえてナンバーの取り付け位置を設けていないのです。

 そこで、田植機にナンバープレートを取り付ける場合には自作でステイなどを作って取り付ける必要があるのです。

■公道は走れないけど…田植機でも走れる道路がある?

 しかし、実は田植機でも走れる道路があります。それは道路交通法で定められた「公道」「自動車道」ではなく、農水省が管轄する農業用道路、いわゆる「農道」です。

「農道は『土地改良法』に基づいて設置されており、道路法に基づく道路の区分には該当しません。

 国土交通省の所管ではなく、農業を管轄する農林水産省の管理による道路となります。

 自動車道のなかに含まれないため道路運送車両法の保安基準を満たさない田植機などの農作業用小型特殊車両でも農道の条件によっては走行が可能です」(農林水産省の担当者)

 しかし農道として整備された道は田植機であっても走行できるとしても、物理的にアスファルトで舗装された道路を走ることは勧められないとのことです。

トラクターが「しろかき」(田んぼに水を入れ、土を砕いて均平にしていく作業)をしている様子(撮影:加藤博人)

 横浜市内でコメ作りを中心とした農業を営む事業者は以下のように話します。

「田植機の車輪は水田のように柔らかい地面の上を移動するために設計されています。

 アルファルトのような硬い地面のうえを走る仕様にはなっていないため、車輪そのものにダメージを与える可能性があります。

 それで田植機を移動させる際には軽トラックなどに載せて運ぶというのが一般的です」

※ ※ ※

 ちなみに、同じ田植え作業に関わる小型特殊車であっても、農耕用トラクタは道路運送車両の技術基準(保安基準)の適合性を確保できる場合にのみ、公道走行が可能です。

「しろかき」(田んぼに水を入れ、土を砕いて均平にしていく作業)のために使用する「ハロー」という作業機を装着した状態であっても、法令で規定された制限事項に対応しているのであれば公道を走ることが可能です。

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