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トヨタ新型「GRカローラ」なぜ304馬力? 端数の“4馬力”はアメリカの事情!? 日米市場の違いとは

くるまのニュース 2022年6月2日 18時10分

トヨタが新型「GRカローラ」の日本仕様を初公開しました。アメリカでも発売される予定ですが、日本市場とは異なる事情があるようです。

■早くもアメリカで話題沸騰の新型「GRカローラ」

 トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing/TGR)は2022年6月1日、日本仕様の新型「GRカローラ RZ」と新型「GRカローラ モリゾウエディション」を世界初公開しました。

 その発表会の現場で、新型GRカローラに関して開発責任者に質問をぶつけてみたところ、新型GRカローラに対する米国市場向けの考え方を知って、日本市場での今後の展開がより鮮明に理解できました。

 まずは、モデル名称からです。

 プレスリリースでは、「新型GRカローラ RZは、本年(2022年)4月に公開した新型GRカローラの日本仕様グレードです」と記載されています。

「本年4月の公開」とは、TGRが現地時間2022年3月31日に米カリフォルニア州ロングビーチでおこなったワールドプレミアを指します。

 その時、米国で人気のドリフト競技シリーズである「フォーミュラドリフト」が開催されており、トヨタとしてはそうしたユーザー層を通じて、若い世代に広く新型GRカローラを訴求する狙いがありました。

 また、米国トヨタの専用ウェブサイトには、「ノー レイン チェック」というキャッチコピーがあり、強い雨が降るなかでカウンターをあてながらサーキット走行する新型GRカローラの姿が描かれています。

 米国仕様の特徴は、リアハッチ上部に大型スポイラーを備えていることでしょう。ところが、今回日本で披露された新型GRカローラ RZにはこの大型リアスポイラーが装着されていません。

 この点について、新型GRカローラ開発責任者は、「日本では標準設定ではありません。リアスポイラー自体が米国生産ということもあり、日本向けにはオプションや用品設定を考えている」と説明します。

 じつは、米国仕様の新型GRカローラにはふたつのグレードがあるといいます。

 ひとつが「サーキットエディション」で、日本での新型GRカローラ RZに相当。この米国仕様のサーキットエディションには、前述のように日本仕様にはない大型リアスポイラーが装着されます。

 これとは別に日本市場では設定のない廉価バージョンがあり、こちらはエンジンフードに冷却用ダクトなどがなく、ベースとなった「カローラスポーツ」と同じようなボディ形状をしています。

 こうしたグレード設定からも、トヨタは米国で新型GRカローラ購入のハードルを下げ、パフォーマンス性を広い層に向けて強くアピールしたいという狙いがうかがえます。

 また、新型GRカローラ RZの最高出力値が304ps(馬力)であることについて「アメリカの馬力表記(hp)で『300hp』を念頭に置いたから」という事情についても明らかにしました。

※ ※ ※

 4月のワールドプレミア後、米国では新型GRカローラに対して市場の反応はどうだったのでしょうか。新型GRカローラ開発責任者に聞いてみました。

「トヨタがこういうクルマを出すことは、現地のSNSで好意的に受け入れられています。例えば、カローラでこのようなクルマが設定されることに意義があって、楽しみだという声が多くあります」

 また、新型GRカローラ開発責任者が米国のトヨタ販売店関係者に直接コントタクトしたところ、「割り当て台数が少ないのが懸念だという声が出るほど、ユーザーからの問い合わせが多い」とうれしい悲鳴も聞こえてきたそうです。

■アメリカではホットハッチが求められている

 米国市場では、新型GRカローラのような、いわゆるホットハッチへのニーズは一定規模で存在するとトヨタは分析しています。

 ホットハッチのカテゴリーでは、これまでフォード「フォーカスST」「フォーカスRS」やフォルクスワーゲン「ゴルフ」といったスポーツモデルが人気を博してきましたが、フォードはこの領域から撤退することが決まっています。

米国で設定されるトヨタ新型「GRカローラ サーキットエディション」

 また、ホットハッチではありませんが、スバル「WRX STI」がハイパフォーマンス系として人気が高いものの、スバルの米国法人のプレスリリースなどによると「新型WRXは米国でSTIグレードが設定される予定がない」という解釈が米国市場で広まっているようです。

 さらには、米国市場でのホットハッチやCセグメントセダンでのハイパフォーマンス系モデルとしては、2000年代初頭から三菱「ランサーエボリューション」が導入されて市場全体を活性化したという経緯もあります。

 米国でのこのような実態を踏まえて、トヨタは新型GRカローラの開発において、比較車両としてWRX STIやランサーエボリューションを実際に購入するなどしてじっくりと研究してきたそうです。

 そのうえで、新型GRカローラ開発責任者は、スバルや三菱はWRCでのラリー活動やさまざまな競技などを通じた開発ノウハウを蓄積していたことを再認識したといいます。

 加えて、トヨタとしては「GRヤリス」でのWRC活動でのリアルタイムでの実績を、新型GRカローラにいかにして応用するかを、さまざまな走行シチュエーションで徹底的に走り込むなかで突き詰めていったのです。

 ただし、新型GRカローラは、GRヤリスやWRX STI、ランサーエボリューションのようにWRCで戦うことを念頭に置いているという訳でもなく、またホンダ「シビック タイプR」のように独ニュルブルクリンク最速などサーキットでのタイムアタックを重要視しているということもないとも説明します。

 もちろん、日本でラリーやジムカーナといった競技で、プライベーターが新型GRカローラを広く使われることは大歓迎とのことです。

「GRヤリスとはキャラクターが違うので、お客さんによっては新型GRカローラが良いという声も出てくることを想定している」と開発責任者は話します。

 なお、新型GRカローラを発売する国や地域については、販売数としては日本と米国が主体で、オーストラリアなど世界各国で比較的少量であるものの段階的に販売地域を広めていくということです。

※ ※ ※

 新型GRカローラについてもうひとつ気になるのが、走行騒音規制に向けた対策です。

 日本も含めて、世界各国で排気音やタイヤ走行音など走行中に発生する音量規制が段階的に厳しくなっています。

 そのため、日本のスポーツモデルのなかには、走行騒音規制をクリアすることが難しいため、量産を中止したり、次期モデルの開発を諦めるケースが出ています。

 この点について、新型GRカローラのエンジン開発責任者は次のように説明しました。

「このままこの状態で(新型GRカローラなどハイパフォーマンス車を)出し続けると、(走行騒音)規制値を通らないタイミングが間違いなくやってくることを認識しています。

 それに対して、走りとの両立、(具体的には)エンジン出力をどうスポイルせずに(製品として)出すことができるかまだ検証段階であり、これで出せますという答えはない状態です」

 また、走行騒音規制対応を踏まえたモーターアシストなど電動化について聞いたところ、「それもひとつの選択肢だと思っていますが、まだそれをやりますという訳ではありません」という答えでした。

 いずれにしても、日本でも注目度が極めて高い新型GRカローラ。水素燃料の開発車両としてなど、トヨタの技術開発の最前線でこれからますます活躍することが期待されます。

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