中央道を走っていると、山の中腹に巨大なラブレターが見えます。いつ、どのような経緯で作られ、設置されたのでしょうか。
■縦17m×横26mにおよぶ巨大な芸術作品
東京と愛知を結ぶ中央道は、同じ区間を海沿いに結ぶ東名高速に対して山岳地帯を走るのが特徴ですが、そんな自然豊かな中央道で特に目に付くのが、相模湖IC~上野原IC付近で相模湖(相模川)を挟んだ対岸の山の中腹に現れる、巨大なラブレターです。
藤野PA(相模原市緑区)付近から見えるラブレターの正体は、「緑のラブレター」という芸術作品です。
1989年に、造形作家である高橋政行さんによって制作されました。
縦17m、横26mにもおよぶ巨大な作品は、鉄のフレームとテントなどに使われるシート素材によって作られています。シートには人の手の形に切り込みが施されており、山の緑と重なることで1つの作品となります。
「緑のラブレター」は、藤野町の町おこしの一環で制作されました。
藤野町は、東京都と山梨県に接する神奈川県の町でしたが、2007年に神奈川県相模原市へ編入され、現在は相模原市緑区の一部となっています。
この藤野町では1986年に「藤野ふるさと芸術村構想」が提唱され、さらに1988年には県が「藤野ふるさと芸術村メッセージ事業」を立ち上げました。芸術による町おこしが始まったのです。
「緑のラブレター」は、そのときの作品の1つであり、今でも藤野のシンボルとして地元の人や観光客に親しまれています。
この作品には、主に2つの思いが込められています。
1つは「ようこそ藤野へ」という歓迎の気持ちです。藤野のシンボルとして、訪れた人を快く迎え入れる思いが込められています。
もう1つは「自然から人間へのメッセージ」です。作者の高橋さんは、環境と人間の関係をアートのテーマの1つとして考えており、「緑のラブレター」にもその考えが込められています。
人々の多くは、自然が伝えてくれるメッセージをキャッチできず、環境に対して耳を傾けていない――こういった現状を、緑のラブレターで伝えたいという思いが込められています。
実際にシートに手の形の切り込みが施されていることで、あたかも自然からラブレターを渡されているように見えるのが特徴的です。
■過去に緑のラブレターに施された仕掛け
「緑のラブレター」は、藤野での記念日などに際してさまざまな仕掛けが施されました。中でも、特に印象に残る2つの仕掛けについて見ていきましょう。
1つ目は、開封です。
通常は封をされている「緑のラブレター」ですが、実は1度だけ開封されたことがあります。この時「緑のラブレター」の中から現れたメッセージは、数字の「5」でした。
これは、緑区制5周年を記念して企画されたものであり、あえて開封することを事前に公表せずに行われました。
その理由は、開封されているラブレターを見て「何だろう」と興味を持ってもらうためです。「緑のラブレター」は、2015年12月から2016年3月までの4か月間限定で開封されていました。
2つ目は、ライトアップです。
「緑のラブレター」のライトアップは、藤野商工会青年部の創立45周年を記念して行われました。
藤野の「ポテンシャル」を光としてラブレターに灯すことで、地元の人に夢を与え、地域内外に藤野の魅力を伝えることを目的として実施された事業です。2020年3月1日から21日にかけて、各日18時から22時まで点灯されていました。
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「緑のラブレター」を中央道からゆっくり眺めるには、下りの藤野PAに寄る方法があります。ちなみに藤野PAは上下線とも「ぷらっとパーク」という一般道と徒歩で出入りできる構造となっています。
JR藤野駅前には藤野観光案内所「ふじのね」があり、ここからも「緑のラブレター」をゆっくりと眺められるでしょう。
相模湖を渡った先には「緑のラブレター」があり、さらに「芸術の道」という遊歩道ではさまざまな野外彫刻を鑑賞できます。