現在発売されている新車には、「オートライト」が法律で義務化されています。これにより夕暮れ(薄暮)時のライトのつけ忘れは過去の光景となりつつありますが、なぜオートライトは義務化されたのでしょうか。
■オートライトとはどういうもの? 仕組みと使い方
夜にクルマを運転するとき、ドライバーの前方視認性を高め、安全に運転するためにヘッドライトは必ず点灯させなければなりません。
道路交通法は第52条「車両等の灯火」で、「車両等は夜間(日没時から日出時までの時間をいう。…略…)、道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない。政令で定める場合においては、夜間以外の時間にあつても、同様とする。」と定めています。
このヘッドライトは、2016年10月に道路運送車両の保安基準が一部改正され、これにより2020年4月以降に発売される新型車にはオートライト機能の装着が義務化されています(継続生産車については2021年10月以降から義務化)。
そもそもオートライトとは、照明センサーが周囲の明るさを検知し、ヘッドライト(前照灯)の点灯・消灯を自動で行う機能のことです。
オートライト自体は、これまでも高級車や上位グレードなどに標準搭載されていた機能であり、目新しいものではありません。
しかし、従来のオートライトと義務化後のオートライトにはいくつか違いがあります。
主な点としては「車両価格やグレードに関係なくすべての新車に装着が義務化されたこと」「点灯・消灯する際の周囲の明るさや応答時間に明確な基準が設けられたこと」「手動で消灯ができなくなったこと(駐停車中など一部条件下は除く)」の3点です。
点灯・消灯については、義務化後のオートライトの場合、周囲の明るさが1000ルクス未満になると2秒以内に点灯する必要があり、7000ルクスを超えると5秒から300秒以内に消灯する必要があります。
また、利用方法についてもいくつか変わった点があります。
トヨタのオートライトを例にすると、従来は「AUTO」「車幅灯、尾灯など一部のライトを点灯」「ヘッドライトを含めすべてのライトを点灯」「消灯」の4段階のポジションを、ハンドル脇のレバーのスイッチで自由に操作できるものでした。
一方、オートライト義務化後に発売されたトヨタ「ヤリス」だと、「AUTO」「消灯」の2段階に簡略化されており、通常時、レバーのスイッチはAUTOの位置に固定されています。
消灯の位置で1秒以上保持するとライトが消灯するようになっていますが、改正後の保安基準に従い、消灯の位置で保持したとしても停止中でないと消灯しないつくりとなっています。
■なぜオートライトは義務化されたのか?
そんなオートライトですが、なぜ義務化されるようになったのでしょうか。
埼玉県の警察担当者は、オートライトが義務化された背景について、以下のように話します。
「夜間は昼間に比べて、歩行者とクルマの交通事故件数が4倍にも増えているのが実情です。その大きな原因のひとつとして、夜間にクルマがライトを点灯し忘れるというケースが挙げられます。
夜間にライトを点灯し忘れたまま走行することによって、歩行者の存在を認知できず、衝突してしまうという例はやはり多いですね」
警視庁交通局が2018年に発表した「平成30年上半期における交通死亡事故の特徴等について」では、2013年から2017年の過去5年間における、薄暮時の交通事故発生状況が分析されています。
それによると、1時間あたりの自動車対歩行者の死亡事故件数は、昼間が167.7人、薄暮時が681.5人で、件数に約4倍近くもの差があることが分かります。
また、薄暮時における死亡事故の約9割は、道路横断中に起きていることも報告されています。
さらに、2014年にJAF(日本自動車連盟)が発表した「ヘッドライト点灯状況調査」では、薄暮時におけるヘッドライトのつけ忘れの現状について、日の入り30分前の点灯率はわずか0.9%に過ぎず、道路交通法で点灯が義務付けられている日没時の点灯率も22.8%であることを公表しています。
こうした薄暮時における死亡事故件数の多さ、またヘッドライトのつけ忘れの多さを踏まえ、薄暮時の交通事故削減を目的として、オートライトの義務化が施行されるに至ったようです。
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オートライトが義務化されたことにより、薄暮時にライトを点灯しているクルマが以前より増えてきました。とはいえ義務化の対象は2020年4月以降に発売された新車です。それ以前に発売されたクルマにはオートライトの装着は義務化されていません。
ライトの点灯忘れによる交通事故はいまだに発生しているのが実情です。特に視界の悪くなりがちな薄暮時にはライトを点灯させることを意識して、運転することを心掛けましょう。