歴代のホンダ「フィット」は常に販売台数の首位を争う人気モデルでしたが、現行の4代目は思うようにセールスが伸びず、月間販売台数ランキングでも低迷している状態です。その理由を探るべく、あえて4代目に買い替えなかった旧型オーナーに「買い替えなかったワケ」を聞いてみました。
■大ヒットを宿命づけられた「フィット」
「フィット」といえば、ホンダの屋台骨を支えるコンパクトカーです。
2001年に登場した初代モデルは、最初の1か月で4万8000台もの受注を記録。累計販売台数は半年後に10万台を超え、デビューから1年経たずに20万台を達成したという驚異的なセールスを誇る人気モデルです。
年間販売台数では、33年連続で登録車の1位の座を守り続けたトヨタ「カローラ」を破って2002年に首位に立つと、以降はトップ3の常連に。
2007年に初めてのフルモデルチェンジを受けて2代目になっても好調な販売は変わらず、2013年登場の3代目もまたランキング上位に君臨し続けました。
そんなフィットの4代目にあたる現行モデルが登場したのは2020年2月。ベストセラーになるのが宿命ともいえるモデルだけに、登場翌月には約1万5000台の販売台数を記録しランキング2位からスタートし、あとはどれくらい売れ続けるのかに注目が集まっていました。
ところが、同年9月の月間販売ランキングではトップ5から陥落。成功を約束されていたはずのクルマに、わずか半年で暗雲が立ち込めてきたのです。
2020年中はなんとかトップ10に残りましたが、翌2021年にはトップ10圏外がほとんどで、5月に至っては23位(2032台)という結果に。
2022年はさすがに持ち直してきましたが、それでも7位から12位の間をウロウロするという、かつての絶対的な人気ぶりからするといささか物足りない状況といわざるを得ません。
なぜ現行フィットのセールスは伸び悩んでいるのでしょうか。その手がかりを探るべく、歴代フィットのオーナーに「現行フィットに乗り換えなかった理由」を聞いてみました。
現行フィットに乗り換えない理由について、2代目フィットに乗るAさん(40代・男性)は次のように話します。
「ホンダのカーシェア『Every Go』で試乗してみました。もうほとんどすべての面で自分の2代目より優れているのを実感できました。
ただ、ラゲッジスペースが狭かったのが残念です。容量を調べたら、2代目が426リットル、3代目が386リットル、現行モデルは330リットルでした。
私が乗っている2代目より現行モデルは100リットル近く減っているのですから狭く感じて当たり前ですよね。
最近、キャンプなどでたくさんの荷物が載せることがあり、広いラゲッジスペースが必要なので、現行フィットの購入は見送ることにしました」
現行フィットは、2代目より全長が95mm、ホイールベースが30mmほど拡大されているのですが、シートの座面を厚くしたり、背もたれの傾斜をやや強めるなど快適さを優先したため、若干ですがスペース面にしわ寄せが及んでいるようです。
とはいえ、もともと広さには定評があり、シートアレンジも多彩で使い勝手に優れるフィットなので、ライバルに対するアドバンテージは現行型でもしっかりと確保されています。
■5つのスタイルがわかりづらい!?
初代フィットの元オーナーYさん(40代・女性)は次のように話します。
「現行フィットも良いなと思ってはいたのですが、『リュクス』とか『ネス』といったグレードがわかりづらいと思いました。
ライフスタイルで選ぶといいますが、それよりも、これまでのように装備の違いでグレードを分けてくれたほうが助かります」
現行フィットのグレードは、「ベーシック」「ホーム」「ネス」「リュクス」「クロスター」という5つが用意されており、グレードによってフロントマスクのデザインやシートが違うなど、キャラクターがガラリと変わります。
グレード展開自体は決して複雑ではないのですが、好みの1台を絞るのが難しいといったところでしょう。
ホンダの軽自動車「ライフ」から3代目フィットに乗り換えたKさん(30代・女性)は、次の愛車に現行フィットではなく「N-BOX」を選択。その理由を次のように説明します。
「現行フィットは全体的に良くなっているのでしょうけれど、どこが良くなったのかというのがわかりづらいように思います。
3代目フィットのような『カッコイイ系』ではなく『おっとり系』のスタイリングにも違和感があり、そんなときに機能面で十分以上、スタイリングもシンプルなN-BOXに出会ってしまいました」
スタイリングに関しては好みによるので難しいところですが、フィットに勝るとも劣らない出来の良さが評判のN-BOXをチョイスする歴代フィットオーナーも少なくないといいます。
また、ホンダのコンパクトミニバン「フリード」も好敵手で、2022年の月間販売台数ランキングでは常にフィットより上位に位置しており、身内のライバル争いも激化しているようです。
なお、3代目と比べて、現行フィットがカタログスペックで大きく上回るのはハイブリッド車のモーターの出力。ガソリン車においてはエンジン出力が2馬力ダウンし、燃費性能(JC08)もわずかに悪化しています。
これはフィーリングを重視したからというのですが、運転のしやすさからスペック以上に力強く感じられ、また実走行での燃費は旧型より良い数値が出るというオーナーが多いようです。
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現行フィットに乗り換えなかった理由を歴代フィットオーナーに聞いてみましたが、その一方で、現行フィットを購入して「とても良かった」という意見も少なくありません。
具体的には「上質でコンパクトカーとは思えない」「ダッシュボードが平らで視界が良くて運転しやすい」「ホンダセンシングが優秀で高速道路が楽になった」「液晶のメーターがシンプルで見やすい」などといった声がSNSで見受けられます。
現行フィットが「良いクルマ」であることは間違いありませんが、思うようにセールスが伸びなかったのは、ライバルのトヨタ「ヤリス」と同じ2020年2月に発売されたことや、当時は新型コロナウィルスが未知のものとしてニュースを独占していた時期でもあり、タイミングが悪かったというのもあるでしょう。
現在は特別仕様車の投入などで盛り返しつつありますが、2022年秋に実施されるであろうマイナーチェンジでさらなる挽回が期待されています。