AT車でもMT車でも、クルマのシフトには「Nレンジ」が存在します。普段の運転では使われることがないNレンジですが、一体どんなときに使うものなのでしょうか。
■普段は使わない「Nレンジ」なぜ存在する?
クルマにはエンジン出力を駆動装置へ伝える部品としてトランスミッション(変速機)が搭載されています。
車種によって異なりますが、AT車シフトレバーは「P→R→N→D→2→L」、MT車の場合は「N→1→2→3→4→5」などと車速に応じて各速のギヤがあり、車速の上昇とともに変速、ギヤを上げていきます。
そして、AT車、MT車の両方に「N(ニュートラル)」がありますが、走行中に使用することはなく、その役割や目的についてはあまり認知されていません。
Nレンジにはどのような役割があるのでしょうか。
エンジンの出力がタイヤに伝わるまでは、「エンジン→クラッチ→トランスミッション→プロペラシャフト(後輪駆動車の場合)→デファレンシャル(差動装置)→ドライブシャフト→タイヤ」と、さまざま装置や部品を介して伝達されます。
クルマを停車させてエンジンを切るときは「P(パーキング)」を使用しますが、「Pレンジ」はトランスミッションギヤボックス内のシャフト(駆動軸)をロックする役割があります。
一方で「Nレンジ」はシャフトがロックされない状態で、エンジンがアイドリング状態またはアクセルを踏んで回転数が上昇をしてもエンジン出力が駆動装置へ伝達されません。
「Nレンジ」はエンジン出力が伝達されないことから、例えば踏切横断中にエンジントラブルが発生してクルマが動かいない状態などに使用することで、クルマを人力で動かすことができます。
また、クルマが故障して動かせなくなったとき、レッカー車で牽引したり、積載車にのせて運搬しますが、このような緊急時に「Nレンジ」を使用することでスムーズに対応することが可能です。
緊急トラブル時は焦ってしまいがちですが、「Nレンジ」はクルマを押して動かせると覚えることで緊急時でも慌てずに対処できるでしょう。
■Nレンジを使っちゃいけないのはどんなとき?
緊急時だけでなく、「Nレンジ」は整備業務をする際にも頻繁に使用しており、デファレンシャル装置脱着作業やブレーキキャリパーのカスタム作業時は「Nレンジ」を使用して整備作業をおこないます。
さらに、ホイールとブレーキキャリパーが干渉しないか、タイヤを回転させたときに異音などが発生していないかなどを実車で確認するのに「Nレンジ」を活用しています。
一方で、AT車で信号待ちや渋滞などで停車する際、「Dレンジ」でフットブレーキを踏んでいますが、「Nレンジ」にして停車する人も見受けられます。
安全に停車するのは「Pレンジ」ですが、毎回「Dレンジ→Pレンジ」にギヤチェンジをすると「R(リバース)レンジ」を通過することになり、そのときクルマのバックランプ(白色)が点灯して後続車に誤解を与える可能性があることから「Nレンジ」を使用しているのではないかと推測されますが、この場合は注意が必要です。
たとえば坂道で停車しているときに「Nレンジ」を使用した状態で、ブレーキを離すとクルマが後退します。
クルマが後退して焦って「Dレンジ」に入れてアクセルを踏むと、急発進して前方車両に衝突するなど事故に繋がる恐れがあり、「Nレンジ」使用時は、「使用している」とドライバーが常に意識する必要があるといえます。
以前JAFの公式ツイッターでは、「ATのクルマで、交差点で停車するたびニュートラルにする人を見かけます。万が一エンジン回転が高い状態でDレンジにシフトしてしまうと大変危険。大事故にもなりかねません」と投稿されたことがありました。
誤発進を防ぐために、AT車での停車中は「Dレンジ」のままブレーキを踏んでいるのが良さそうです。
なお、MT車で信号待ちの停車する場合、ギヤをニュートラルにしてブレーキを踏んで待ちますが、エンジンを切って停車するときは、「Nレンジ」ではなく、1速またはバックギヤにシフトを入れサイドブレーキをかけしましょう。
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普段の運転ではほとんど使われない「Nレンジ」は、クルマが動かなくなったときなど緊急時に使用するのが主な役割です。
人力でクルマを動かす必要が生じたときにスムーズに対応できるように、Nレンジに入れることを覚えておくと良いでしょう。