日頃使う機会の多いタクシー。タクシーの車内において「NGな会話」はあるのでしょうか。現役タクシー運転手に話を聞いてみました。
体調不良の際や飲酒後の送迎など、目的地の移動手段として便利なのがタクシーです。
タクシー運転手は安全運転はもちろんのこと、乗客との接客マナーも求められますがなにか特別な講習をおこなっているのでしょうか。
乗客を安全に目的地まで送迎するタクシー運転手は、さまざまな段階を経て実務にあたることができるようになります。
タクシーは人を目的地まで運ぶことにより運賃の支払いを受けますが、このように乗客を旅客するには、普通車自動車免許以外にも、普通自動車第二種運転免許の取得が必要です。
さらに、免許取得後も各タクシー会社の研修を受けるのが一般的で、研修では安全運転に関する内容をはじめ、法令や地理、そして、接客マナーとして、教官同乗のもと、会話内容に関しての研修を受けることもあります。
では、タクシー運転手は車内での会話でどのようなことを意識しているのでしょうか。
まず、タクシー業界では、乗客との会話で、「政治」「宗教」「スポーツ」の3つは避けるのがベターとされているようです。
政治は、ビジネス会話でも話題に上がることが多く、避けにくいジャンルですが、支持する政治家や政党の話はデリケートな話題なので避けるようにされているそうです。
また、宗教は、政治以上にデリケートな問題でとくにタブーとされており、宗教や宗派を聞くのはもちろんのこと、信仰心には個人差があるので話題に上げること自体ほとんどありません。
スポーツに関しても、人によって応援するチームが違ったり、スポーツの楽しみ方にばらつきがあったりすることから、乗客の精神的負担になることを考慮して、あまり深く詮索しないようにしているようです。
ほかにも、たとえば、好きな俳優やテレビ番組などでも、タクシー運転手が好みを熱く語るのは乗客によっては反感を買ったり、深く傷つけてしまったりすることも考えられ、トラブルに発展する可能性もあります。
このように、人によって好みが別れる話題に関しては、深入りしすぎないというのがタクシー運転手にとってセオリーとなっています。
またタクシー運転手のA氏によると、研修では「恋愛相談や家庭内の事情、仕事のことなど、不用意にプライベートに介入して会話をするのも避けるべき」と習うといいます。
さらに、またコロナ禍以降での車内でのコミュニケーションについて、前出とは別のタクシー運転手B氏は次のように話しています。
「コロナ禍対策の一環として、運転席と後席の間に飛沫防止ビニールが設置されたことで会話がしづらくなり、以前よりはそこまで会話をするお客さまも減りました。
とあるお客さまからはこれまでタクシーでの会話が苦手だったようで、『ビニールで隔たれてからは会話をしなくても良い環境が出来て利用しやすくなった』とおっしゃっていました」
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タクシー運転手は、人によって気さくな人や寡黙な人など、もちろん性格に違いはありますが、乗客が快適に過ごせるようにプライベートに踏み込んだ会話をしすぎないよう、細心の注意を払い「おもてなしの心」を重視しているようです。
■ビジネスマン同様の接客スキルが求められる
なお、こうした会話以外にも、タクシー運転手には多数の接客マナーが求められます。
とくに注意を払う必要があるのが「空気を読まない言動をすること」です。
乗客が眠たそうにしているにもかかわらず執拗に会話を続けたり、読書中にもかかわらず話題を振ったりするのは、乗客にとって心地良い時間とはいえないでしょう。
こういった場合は無理に会話をしようとせず、乗客が問いかけてきたことだけに対応するよう心掛けているようです。
また、「馴れ馴れしい態度をとること」も乗客の反感を買いやすいようです。
当然と言えば当然ですが、接客という職業上、いくら乗客と打ち解けてもタメ口を使って会話するなどはおこなうべきではありません。
タクシー運転手は適切な距離を保ち、乗客が安心できる環境づくりをする必要がありそうです。
タクシー運転手は、クルマという密室のなかで乗客と時間を共有することになるため、人との距離のとり方が非常に難しい職業といえます。