2022年9月7日、三菱ふそうは電気小型トラック「eキャンター」の2代目モデルを発表しました。車種ラインナップが大幅に拡大し、EVトラックの普及も一気に加速しそうです。
■車種の選択範囲が大幅に拡がった新型「eキャンター」
三菱ふそうトラック・バス(以下、三菱ふそう)が、フルモデルチェンジした「eキャンター」を世界初公開しました。量産EV(電気自動車)トラックの2代目モデルとなります。
現在乗用車の世界でもEVシフトが始まっていますが、トラック業界でもこれから「EVが当たり前」の時代になっていくのでしょうか?
まずは、「eキャンター」という商品全体について紹介します。
三菱ふそうの「キャンター」といえば、1963年に初代がデビューした、小型トラックのロングセラーとしてグローバルで広く知られていますが、EV化の原点は2010年の「キャンターE-CELLプロトタイプ」の発表です。
その後、2013年公開の第二世代のE-CELLプロトタイプを経て、2016年には量産レベルでの「eキャンタープロトタイプ」が登場。そして、2017年に初代「eキャンター」が発売されたという流れです。
三菱ふそうによりますと、eキャンターの発売総数は、欧州各国、北米、オーストラリア、ニュージーランドなどグローバルで約450台。そのうち、日本では約130台が発売されています。
年別で見ますと、2018年が28台、2019年が18台、2020年が20台、2021年が16台で、2022年は7月時点ですでに45台が販売されています。
新型発表が確定している段階でも販売数が伸びている背景には、日本では2050年のカーボンニュートラルを目指して国がグリーン成長戦略を推進していることで、さまざまな企業や地方自治体などのSDGs(国連持続可能な達成目標)に対する意識が高まっていることが挙げられます。
そうしたなかで登場した2代目「eキャンター」ですが、初代と比べて車両構造で大きく変わった点が特長です。
初代ではモーターが車体中央部にあり、そこからドライブシャフトを使って後輪を駆動したのに対して、2代目では車体後部に搭載したモーターとインバーターを後輪駆動システムと組み合わせた、三菱ふそう内製のeアクスルを採用しました。
ドライブトレインを小型化したことで、車体のラインアップも28型式と大幅に拡大させました。
国内では5トンクラスから8トンクラスまで対応できますし、動力取り出し装置「ePTO(Electric Power Take Off)」を装備したことで冷蔵車やごみ収集車、ダンプといった特装車の対応も可能となり、ユーザーはさまざまなオーダーメイドができるといいます。
駆動用電池のサイズは、1つの電池パックを41kWhとして、最大で3つの電池パックを搭載することが可能です。
航続距離は、電池パック3つで約200kmとしました。電池は中国の大手電池メーカーCATL製で、電池の構造はリン酸鉄となります。
充電方式は日本の場合、普通充電とCHAdeMO規格による急速充電。また、海外では国や地域それぞれの電力事情や充電規格に対応します。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の分野においても、車両の走行状況やバッテリー残量などを管理する「トラックコネクト」や、人工知能を使った配車サービス「ワイズシステムズ」などにくわえて、ファイナンシャルサービスや充電インフラ管理運営に対するコンサルティング事業も合わせて実施します。
これを、三菱ふそうの「eモビリティソリューションズ」と呼びます。
2代目eキャンターの日本仕様は2023年春に発売予定です。
■EVが商用車のニーズとマッチしている理由とは
EVトラックについては、三菱ふそうのほかにも、日野が2022年6月に「デュトロZEV」を発売し、またいすゞは「エルフEV」を2022年中に発売する予定です。
カーボンニュートラル時代を見据えて、小型トラックでのEV化が加速している状況です。
そもそも、EVは商用車ニーズにマッチしているといえます。
なぜならば、使用するルートや充電のタイミングが計画的に行うことで、電池容量を最適化して車両にかかるコストを最小化できるからです。
とはいえ、電池のコストはまだまだ高いですし、また車両の販売台数が限定的では電動関連機器の量産効果も見込めないため、車両コストは一般的なディーゼル車と比べて数倍という高額になっていました。
今回の発表で三菱ふそうからは、2代目eキャンターの価格について公表できるタイミングではないとのことでしたが、初代ではリースのみだった形態から、「ユーザーから希望があるため、売切り型も始める」といいます。
2代目eキャンターの価格はまだそれなりに高いことが予想されますが、それでもトラック事業者からは「自社の事業に対してだけではなく、荷主からカーボンニュートラルを踏まえた輸送車のEV化を求められるようになっている」という状況です。
トラックユーザーとしては、小型EVトラックの性能や使い勝手が向上していることに加えて、こうした顧客ニーズへの対応からも今後、小型EVトラック導入の動きが高まりそうです。
一方、海外では大型トラックのEV化の動きが加速しています。
例えば、ボルボは北米市場向けに「VNRエレクトリック」を2020年から発売し、その後も航続距離の延長など技術改良を続けています。
また、テスラは2022年8月、大型トラック向けのEVトレーラーヘッド「Semi(セミ)」を2022年中に発売することを明らかにしました。
アメリカでは、連邦政府が乗用車に加えて、大型トラックを含めた商用車での電動化を促進する政策を進めているため、小型EVトラックに加えて大型商用車でのEV化が進んでいるのです。
こうした海外での動きが、日本に近い将来、何らかの影響が及ぶのかもしれませんが、日系トラックメーカー各社は日本市場においては当面、EV化を小型トラックに集約することになりそうです。