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なぜ軽の「64馬力規制」今も残る? 乗用車/二輪車は既に撤廃 軽EV普及でも「規制」変わらぬ背景とは

くるまのニュース 2022年9月26日 9時10分

軽自動車には「最高出力64馬力」という自主規制が設けられています。すでに乗用車や二輪車では撤廃されているにもかかわらず、なぜ軽自動車には残るのでしょうか。また、EV時代になっても見直されることはないのでしょうか。

■新型軽EVも64馬力?いまなお残る軽自動車の馬力規制とは

 現在日本で販売されている軽自動車の最高出力は、業界団体による自主規制によって64馬力が上限とされています。
 
 ガソリン車を基準に考えられたこの自主規制ですが、電気自動車(EV)の時代になっても見直されることはないのでしょうか。

 現在販売されている軽自動車のスペックを見ると、最高出力が馬力以上のモデルはまず見当たらないことがわかります。

 これは、自動車メーカー各社で構成される日本自動車工業会において、軽自動車の最高出力(馬力)の上限を64psにするという自主規制がおこなわれているためです。

 あくまで自主規制であるため、これに反したからといって法的に罰せられるようなことはありません。

 ただ、この自主規制のきっかけとなったとされるスズキ「アルトワークス」が、64馬力を最高出力として1987年に発売されて以降、ごくわずかな例外を除いて64馬力を超える最高出力を持つクルマは市販されていません。

 そもそもこうした馬力規制が制定された背景には、1980年代以降、交通事故が多発したことと深く関係しています。

 重大事故の多くはスピード超過によるものであることから、馬力を規制することでスピード超過を防ぐことを基本的な考え方とし、軽自動車以外にも乗用車や二輪車でも馬力の規制がおこなわれました。

 実際、これらの自主規制が制定されて以降、交通事故死者数は減少を続けるなど一定の効果が見られました。

 その一方で、自主規制の枠外にある輸入車が台頭してきたことで、馬力が規制された国内メーカーのクルマやバイクの競争力が劣ってしまうという指摘もあったことなどから、乗用車(5ナンバー/3ナンバー)は2004年、二輪車は2007年にそれぞれ規制が撤廃されています。

 しかし、軽自動車に関しては、30年以上にわたって自主規制が継続されており、クルマづくりにおける大きな制約条件となっているのが現状です。

 一方、2022年5月には新型軽EVの日産「サクラ」と三菱「eKクロスEV」が登場しました。

 日々の生活を支える軽自動車というカテゴリにおける実用的なEVということもあり、発売当初から多くの受注を得ています。

 新しい時代の幕開けを感じさせる両車ですが、最高出力はやはり64馬力となっており、自主規制を意識していることがわかります。

 ただ、最大トルクは両車ともに195Nmとなっており、一般的な軽自動車の2倍程度という数値です。

 さらに、発進時より最大トルクを捻出することができるというEVの特性を考えると、加速性能はガソリン車の比ではありません。

 この例を見てもわかるとおり、パワートレインの性質が異なるため、ガソリンエンジン車を基準に制定された馬力規制を適用することに、実際どれほどの意味があるのかは大きな疑問です。

■なぜ?軽自動車だけ馬力規制が撤廃されない理由

 今後、軽自動車においても電動化はさらに進み、新たな軽EVが登場することは想像に難くありません。

 では、それにともない「ガソリンエンジン車時代の遺物」ともいえる現在の軽自動車の馬力規制が撤廃される可能性はあるのでしょうか。

 もちろん、長い目で見れば、現在の馬力規制は見直しが図られる可能性は十分にあります。しかし、少なくとも今後10年以内には大きな変化はないというのが筆者の見解です。

 そのもっとも大きな理由は、馬力制限を撤廃してしまうと、そもそも軽自動車の存在意義自体を見直す必要があるためです。

 そもそも軽自動車とは、戦後の「国民車構想」に端を発したものであり、来たるべきモータリゼーションの時代に向けて、日本国民に手の届く現実的な移動手段を提供することを目的としたものでした。

 そして登場したのは、一定の範囲内の排気量やボディサイズのクルマを「軽自動車」と規定し、税制優遇などの措置を講じるという政策でした。

 つまり、既成の枠内にあること自体が軽自動車の存在意義であるといえます。

2022年に発売された日産 新型軽EV「サクラ」(左)/三菱 新型軽EV「eKクロスEV」(右)

 技術的には、軽自動車の規定内である660ccの排気量のエンジンで、64馬力を超えるパワーを出すことは十分可能です。

 同じように、EVに搭載されている電気モーターでも64馬力以上のパワーを発揮することはそれほど難しいことではありません。

 しかし、それをおこなってしまうとコンパクトカーと真っ向から競合することになり、税制優遇措置がある軽自動車が圧倒的に有利となってしまいます。

 前述のとおり、馬力規制をおこなっているのは、自動車メーカーなどで構成される自動車工業会です。

 自動車メーカーのなかには、軽自動車に注力しているものもあれば、軽自動車を開発・生産していないものもあります。

 もし、馬力規制を撤廃し、自由なクルマづくりをおこなうようになれば、軽自動車を開発・生産していない自動車メーカーが不利になってしまいます。

 特定の企業が有利あるいは不利になる施策をすることは、業界団体として適切なことではありません。

 このように、軽自動車における馬力規制は、軽自動車とコンパクトカーの棲み分けを明確にするためにも事実上必要不可欠なものとなっているのが実情です。

 これは「軽自動車」という枠組みに変更がおこなわれない限り、撤廃されることはないと考えられます。
 
※ ※ ※

 一方で、ユーザーのなかには「軽自動車でありながら、よりパワーが欲しい」と考える人は少なくないようです。

 技術的には決して不可能ではないにもかかわらず、それが実現しないのは、ユーザーファーストとはいえませんが、実際には各自動車メーカーの事情もあり、話は簡単ではありません。

 根本的な解決方法は、やはり「軽自動車」という枠組みそのものを見直すことしかなく、新型軽EVが登場したことをきっかけに、建設的な議論がおこなわれることが望まれます。

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