トヨタは2022年7月、67年に及ぶ歴史を持つ伝統的高級車ブランド「クラウン」をフルモデルチェンジし、これまでにない4つのバリエーション展開を発表したことで大きな話題を呼んでいます。今後クラウンは、どのような展開をみせるのでしょうか。
■シリーズ化することで「ニッポンのクラウン」は「世界」へ飛び立つ!?
2022年7月、トヨタは16代目となる伝統的高級ブランド「クラウン」の新型モデルを発表。先行発売の「クラウン クロスオーバー」を筆頭に、全4タイプの新型「クラウンシリーズ」としてこれまでのイメージを一新させたことで、大きな話題を呼びました。
1955年の初代以来、67年に及ぶ歴史と伝統を持つトヨタの一大ブランド、クラウンはこの先どこへ向かうのでしょうか。
クラウンといえば、伝統的にほぼ日本専用モデルとして展開されてきました。
実は昭和の時代に何度か北米をはじめとする海外展開もおこないましたが、全て惨敗でした。
考えてみれば、クラウンのゴージャスなデザインはもともとアメリカ車をオマージュしたものです。当時の日本にとって「アメリカ車=高級車」のイメージでした。
それをそのままアメリカに持っていけば、文字通り「小さいアメリカ車」になってしまいます。
それでいて車両価格は高いので、誰も魅力を感じない……という寸法です。
しかしこの9月、北米で開催されたデトロイトショーに新型クラウン(「クラウン クロスオーバー」)を出展したところ、トヨタでは相当な手応えを感じたようです。
クラウンというネーミングこそ従来通りながら、新型クラウンはクルマの方向性が明確に違いました。
加えて、アメリカのメディアに向け「ヴェンザ」(「ハリアー」のアメリカ名)より少し高いくらいという価格イメージを伝えています。
いまSUVが圧倒的な人気車種になっているアメリカ市場においてドンピシャの戦略といえます。
そのうえで「クラウンは、ラージSUVタイプなど他のバリエーションもスタンバイしている」ということを、アメリカでもアピールしました。
単独車種でなくクラウン「シリーズ」にするということです。
少しうがった見方をすると“クラウン”というブランドを、レクサスとトヨタの中間くらいに位置づけようとしているのかもしれません。
確かにレクサスだとちょっと高価。かといって、トヨタよりもう少し上級嗜好のユーザーはいます。
GMでいえば「キャデラック」に相当するポジションでしょう。
レクサスの場合、目指すライバルはメルセデス・ベンツやBMW、アウディといった欧州プレミアムカーたちです。
とはいえ、もう少し高い価格を付けないとガチの勝負になりません。
ならばレクサスの価値をさらに高め、トヨタと離れてしまう価格差を新型クラウンシリーズで埋めればいい、ということです。
トヨタ幹部に今後のクラウン戦略を聞いてみると「ここでお答えは出来ませんが…」とニヤリ。
では、すでにトヨタから発表されている“クラウンシリーズ”をあらためて見てみましょう。
先行発売された新型クラウン クロスオーバーのほか、ミディアムスポーツSUV「クラウン スポーツ」、ラージセダンの「クラウン セダン」、ラージSUV「クラウン エステート」と、合わせて4つのモデルからなっています。
アメリカに限らず、どの国でも4車種あれば立派な「シリーズ」といって差し支えありません。思えばレクサスも北米での立ち上がりはわずか2車種でした。
今後、トヨタ車の中でも少し上級なモデル、という戦略を取っていく可能性はかなり高いかもしれません。
■高齢層には不評でも…… 現役世代から注目を集め早くも成功の兆しを見せる新型「クラウン」
驚くべきは、こうした攻めの戦略を、本来なら負け戦になる過程で立ち上げたことにあります。
ご存知の通り、クラウンというブランドは、ユーザーの高齢化と共にドンドン古くさくなっていました。販売台数だって「ジリ貧」という表現が似合うほどの右肩下がり状態。
なかでも2018年にフルモデルチェンジした15代モデルは、デビューと同時に「玉砕した!」と解るくらい厳しい販売状況に陥りました。
そのためトヨタでは、急きょ次期16代目モデルの開発を一時凍結する決断をしています。
ここで新型クラウン開発部門の幹部が代わっています。
65年以上の伝統をもつクラウンながら、一転「ダメモトで好きにやってよし!」という流れに。ある意味、見放したワケです。
バトンを受け取った幹部(「RAV4」や「ハリアー」をヒットさせた佐伯 禎一さんです)は、新型クラウンをカムリやハリアーと同じGA-KプラットフォームをベースとしたクロスオーバーSUVとすることをまず決めました。
このチーム、続いてクラウンのシリーズ化に向かいます。
実際に動き始めてみると、クラウンというブランドイメージの強さに驚いたといいます。なんといっても、クラウンの名前を付けることでイメージアップになるのです。
一方、販売現場から強硬な文句が出てきたといいます。
皆さん口を揃えて「SUVのクラウンなんかあり得ない! ボディサイズも幅がありすぎてダメ!」といった声に代表されるネガティブな内容ばかりです。
そんなこんなで「クラウンはどうあるべきか」、新型クラウンの開発に際し、トヨタ社内では大もめになったそうです。
結局「(伝統的な)セダンタイプも用意してあるから」ということで、新型クラウンシリーズのコンセプトを押し切るカタチで登場させた訳ですが、ダメだといわれていたシリーズTOPバッターの新型クラウン クロスオーバーが、早くもが大ヒットの兆しをみせています。
歴代クラウンのユーザーからすれば「インテリアが安っぽい!」などと文句も出ているようですが、その分リーズナブルになりました。
かつてのクラウンを好んだお爺さんや親世代は否定的でも、現役の社長さんたちには支持されたという訳です。
おそらく新型クラウンは世界規模でシリーズ化され、当初の4モデルだけでなく様々なバリエーションが出てくることでしょう。
ちなみに同じベースでトヨタのプラットフォームを用いるハイブリッド車として比べてみると、ハリアーはおよそ400万円で、レクサス RX(現行型)だと638万円から。
新型クラウン クロスオーバーなら、ブランドイメージも高くスタイリッシュなのに、435万円から買えます。
今後“クラウン”の名が、アメリカなど海外でも人気ブランドになるような気がしています。