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国産車ではもう「インプレッサ」しかない!? 激レアすぎる「エンジン縦置きFF車」! あえて搭載する訳とは

くるまのニュース 2022年10月24日 19時10分

一般的にFF車はエンジン横置きレイアウト、FR車は縦置きレイアウトを採用しますが、世の中にはFFながらエンジンを縦置き配置するクルマもあります。いったいどんなクルマがあり、どんな理由で縦置きを選んでいるのでしょうか。

■エンジン横置きが主流のFFで縦置きを選ぶ理由とは?

 クルマのパワートレインのレイアウトは、エンジンの搭載位置と駆動輪の位置で表します。

 例えば、エンジンが車体の前側にあり後輪を駆動するクルマは「フロントエンジン(Front-Engine)・リアドライブ(Rear-Drive)」といい「FR」と略します。

 エンジンが前で駆動も前輪の場合は「フロントエンジン(Front-Engine)・フロントドライブ(Front-Drive)」で「FF」になります。

スバル「インプレッサ」の縦置き水平対向エンジン

 また、エンジンは搭載位置だけでなく搭載する向きにも種類があります。エンジン「横置き」と「縦置き」の2種類で、市販車ではFFは横置きが、FRは縦置きが一般的です。

 FFとFRでエンジンの搭載向きが異なるのは、それぞれ親和性が高いからにほかなりませんが、そもそも横置き、縦置きにはいったいどんな違いがあるのでしょうか。

 エンジンの向きとは、クルマを上から見たときの「クランクシャフト」の向きを指します。クランクシャフトが前後方向に配されるなら「縦置き」、左右方向なら「横置き」ということになります。

 エンジンは燃料と空気の混合気の爆発で生まれる「ピストン運動」をクランクシャフトで「回転運動」という力に変換。FRはフロントにあるエンジンで発生した回転を、駆動輪であるリアまで伝達しなければなりません。車体の前から後ろへと回転を伝えるのはプロペラシャフトの役目で、縦置きの場合エンジン(クランクシャフト)とプロペラシャフトの向き(回転軸)が同じになるため効率よく力を伝えることができるのです。

 クランクシャフト(回転軸)が横向きになる横置きの場合は、縦向きのプロペラシャフトに力を伝えるには回転方向を90度変換することになります。決して効率的とはいえず、FRでエンジン横置きを採用しない理由のひとつになっています。

 逆にプロペラシャフトが不要のFFは前輪を回転させるドライブシャフトとクランクシャフトの回転軸が同じ横向きになるため非常に効率的です。ですが、縦置きのクルマも少ないながらに存在します。

 そもそもFFのクルマは後輪に力を伝えるプロペラシャフトなどがなく、部品点数が少なくて済むことから重量もコストも抑えられるのが特徴です。また、プロペラシャフトを通すためのフロアトンネルが室内空間を削ってしまうことがないため、スペース効率にも優れています。

 そのためFFレイアウトは安価で実用的なクルマに多く採用され、前後長(ボンネットの長さ)が短くて済む横置きエンジンとのマッチングが良いとされるのです。

 それにもかかわらず、前後長が長く室内スペースを狭めてしまうエンジン縦置きを採用するFF車があるのは、FFや横置きのメリットが多少目減りしたとしても、縦置きのメリットを優先したから。

 エンジンとトランスミッションを左右に並べる横置きは重量物がフロントに集中してしまいがちですが、縦置きはエンジンの後ろにトランスミッションが配置され、さらに後ろにプロペラシャフト、ディファレンシャルと続くため、重心を車体(前後)の中央に近づけることができるのです。

 また、横置きは重さが異なるエンジンとトランスミッションが横並びになるため左右の重量に偏りが生じるだけでなく、トランスミッションと駆動輪を繋ぐドライブシャフトの長さが左右で異なりトルクステアが発生しやすいという欠点があります。

 その点、車体の左右中央にエンジン、トランスミッションと縦並びに配置する縦置きは左右の重量バランスに優れ、エンジンから発生する回転力も車体(左右)の真ん中から駆動輪へと配分されるためトルクステアは発生しません。

 さらに、車幅いっぱいにエンジンとトランスミッションが並ぶ横置きと比べ、縦置きはエンジンルーム左右にスペースの余裕があります。

 そのためサスペンション設計の自由度が高くハンドリングや乗り心地を良くすることができ、排気管の取り回しにも優れるのでパワーを得やすく静粛性も確保しやすいのです。

■縦置きFFを採用するメーカーは4WDが得意?

 こうしたメリットを享受するために、あえてエンジンを縦置きしているのが、スバルとアウディのFF車です。

 スバルのFF車といってもダイハツのOEM車の「ジャスティ」やエンジンではなくモーターを搭載する「ソルテラ」は別なので、現在では「インプレッサ」のみが該当しますが、1966年に登場したスバル初のFF車「1000」から縦置きという長い歴史を持ちます。

 以降、「レオーネ」、「アルシオーネ」、2代目までの「レガシィ」とスバルの根幹を支えたモデルのFFグレードは縦置きを採用していました。

2022年12月に生産終了するスバル「インプレッサスポーツ」(写真はAWD車)

 スバル「1000」が開発された当時、FFは優れたレイアウトと認識されながらもエンジン横置きは左右の重量バランスが悪いため横転の危険性を指摘されていました。

 そこでスバルが出した答えがエンジン縦置きだったのですが、それに加えてエンジンの前後長を抑えつつ左右のバランスを取り、さらには重心を下げるという目的で水平対向エンジンを搭載。水平対向エンジンを縦置きするという現在も受け継がれるスバルのアイデンティティは、このスバル「1000」から始まりました。

 一方のアウディは「A4」以上のモデルがエンジン縦置きを採用しています。

 といっても、A4以上で現在FFグレードをラインナップしているのはA4と「A5スポーツバック」のみ。

 そんな縦置きFFアウディの歴史は、A4の前身「80」のさらにご先祖にあたる1965年登場の「72」から始まりましたが、それはアウディの名を冠するようになってからの話で、アウディのルーツのひとつになる「アウトウニオン」ではさらに古くから生産していました。

 アウトウニオン時代は2ストロークや3気筒エンジンを搭載していましたが、アウディ「72」になってからは4気筒エンジンを採用。

 スバルのようにコンパクトな水平対向ではなく一般的な直列4気筒だったため、少しでも前後長を短くしようとエンジン本体を右側に傾けて搭載し、通常はエンジンの前にあるラジエターや補機類を空いた左側に配置しています。

 現代のアウディはトランスミッションからのアウトプット(ディファレンシャル)を可能な限り前方にすることで前輪も前の方に配置し、縦置きFFの弱点である前輪より前(オーバーハング部)の重量を軽減。前後重量バランスを最適化しているのが特徴です。

 スバルとアウディに共通しているのが、4WDを得意としていること。エンジン縦置きゆえプロペラシャフトを後方に伸ばせば後輪も駆動させられるので、横置きFFベースや縦置きでもFRベースの4WDに比べ効率的に4WD化できるのです。

 かつてはトヨタとホンダもエンジン縦置きのFFを生産していたことがあります。トヨタは同社初のFF車となる「ターセル」と「コルサ」の兄弟車がそれで、縦置きを選択した理由はFRだった当時の「カローラ」とエンジンを共用するためといった事情だったといわれています。

 ホンダは「アコードインスパイア」「ビガー(3代目)」の兄弟車がエンジン縦置きFFを採用して1989年に登場。直列5気筒という前後長のあるエンジンを搭載していましたが、デフをエンジンの下に配置することで前輪を車両前方に置くことができ、オーバーハング部にエンジンがはみ出るのを最小限に抑えています。

 このレイアウトを実現するのにホンダが選んだのが、エンジンのクランクケースをドライブシャフトが貫通するという複雑な手段でした。

※ ※ ※

 もともとFFレイアウトはエンジン縦置きが主流でした。2気筒など小さいエンジンでは横置きも存在しましたが、長さのある直列4気筒となると、1959年に登場したBMC「ミニ」がほとんど最初の事例です。

 その後、エンジンとトランスミッションを横並びに配するアウトビアンキ「プリムラ」の登場により横置きが主流になり、縦置きFFは徐々に減少。今ではほとんど存在しない希少種になってしまいました。

 もはや新車で買える国産車はインプレッサのみ。そのインプレッサも2022年12月に現行モデルの生産が終了するので、もしかしたら今がエンジン縦置きFF車を手に入れるラストチャンスかもしれません。

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