2021年、ヘッドライトの点灯忘れを防いで事故を抑制するために、新型車への「オートライト」装着が義務付けられました。点灯忘れが減る一方「後続車や対向車のヘッドライトがまぶしい」という声も。これはいったいどうしてなのでしょうか。
■オートライト義務化から1年
「秋の日はつるべ落とし」という言葉があります。これは、「秋は急速に日が暮れるということを表すことわざ」ですが、日の入りの際に太陽が急角度で地平線に向かっていくために、夏と比較すると夕方の時間が短く、急に暗くなる意味も含まれているようです。
うす暗くなる時間帯が早くなり、南中高度も下がるために雨や曇りの日は日中でも暗くなります。
暗くなるとヘッドライトを点灯させなくてはなりませんが、昨年、オートライト機能の装着が新型車に義務付けられました。
オートライトとは、インストルメントパネル上部などに装着された「日射センサ」で屋外の明るさを測り、ドライバーがヘッドライトスイッチを操作しなくても自動的にヘッドライトなどを点灯させる仕組みです。
現在販売されている新型車のヘッドライトスイッチはAUTOが定位置となり、OFF位置にしてもエンジンを再始動した際にはAUTOに戻るようになっています。
そのため車外が暗い時に走行を開始しても、自動的にヘッドライトを点灯するようになります。オートライトなら、点灯忘れも消灯忘れも防止できます。
最新のクルマのヘッドライトには、このオートライト機能以外にも各種高機能装置が搭載されて、夜間の運転が安全になるように工夫されています。
■高機能を持つヘッドライト「先進安全ライト」
国土交通省では、各種高機能を持つヘッドライトを「先進安全ライト」と命名して普及を図っています。
その機能の一つが、オートマチックハイビーム機能です。衝突被害軽減ブレーキ装置搭載車などには、クルマの前方を監視しているカメラが装着されていることがあります。
これらのカメラ映像などを利用し、先行車や対向車がいないときに自動でハイビームに切り替えるものが、オートマチックハイビーム機能になります。
このオートマチックハイビーム機能にも、いくつかの種類があります。一番簡易的なのが、ロービームとハイビームの切り替えを自動でおこなうものです。
そして、高価格車を中心に採用されているのが「アダプティブヘッドライト」です
こちらはLEDの光源をヘッドライト内に多数装備し、ハイビームを優先しつつ先行車や対向車がいるところのみのLEDを消灯させます。これにより周囲にまぶしさを与えないようにしながら、より広い面積を照射するようになっています。
他にも、ステアリング連動機能が搭載されているヘッドライトもあります。この機能は、ハンドルの操作角度に応じてヘッドライトを照射する向きを左右に変えるものです。
さきほど説明した、アダプティブヘッドライトの機能のひとつとして組み込まれている場合があります。
歴史は古く、2000年代半ばにもヘッドライトの反射板角度を左右に変えるものや、横方向に向いて装着されている専用の電球を点灯させるものがありました。
クルマの真正面ではなく、進行していく方向を照射することで、安全に運行出来るようにしたものです。
このように多機能になっていくヘッドライトですが、その明るさも追及されてきました。
■ライトは進化の歴史
1970年代末頃までのクルマは、フィラメントに電気を流して光らせる「白熱電球」を装着していました。
そして1970年代末には、「ハロゲン電球」が登場します。これは電球内部にハロゲンガスを充てんしたもので、電球の寿命が長くなり明るさも向上、さらに寿命まで明るさを維持できるようになりました。
1995年になると、国産車に「高輝度放電ランプ」が登場します。これは、自動車メーカーによって「HID」「キセノンランプ」「ディスチャージヘッドライト」など呼び方が異なります。
「バーナー」と呼ばれる管の中に数万Vの電気を流すと、街灯の水銀灯にも似た独特な青白い光を発する方式です。
当初は一部の輸入車、X100系「マークII」三姉妹、日産「テラノ」などが採用しており、当時はステータスのひとつでした。
今では家庭用照明ではおなじみのLEDが、国産車では2006年にレクサスLSに初採用され、2009年に3代目プリウスに採用された後、急速に増えていきます。
ヘッドライトが白熱電球の頃は、「雨天夜間時などは点灯しているかいないかわからない」と言われたくらいの明るさでしたが、LEDが採用されている現在では、そんな声が聞かれなくなりました。
■ヘッドライトまぶしいという声も
明るさや照射できる部分の拡大を行ってきたはずのヘッドライトに対して、近年「まぶしい」という声が聞かれるようになりました。
その原因は何なのでしょうか。
オートライトは暗くなると自動点灯し、明るくなると自動消灯します。トンネルや高架橋などが断続し、明るさが変化する道ではヘッドライトが頻繁に点灯と消灯する場合があります。その点灯と頭と消灯の繰り返しが、先行車には目障りになっている可能性があります。
また、オートマチックハイビームやアダプティブヘッドライトも、まぶしさの原因となる可能性があります。
ライトをドライバーが手動で切り替えていた頃は、遠くに見えるテールランプや、コーナーの外側に見える光、遠いカーブに見える光を頼りに、あらかじめロービームに切り替えていました。
オートマチックハイビームもアダプティブヘッドライトも、構造上先行車や対向車を認識してからロービームに切り替えるために、先行車や対向車に一瞬ハイビームの光を見せてしまう可能性があります。この一瞬が、「まぶしい」と感じさせていると推察できます。
これにはJAFも検証結果を発表しており、「システムが自動で切り替えることに頼らずに、ドライバーが積極的に切り替えることが望ましい。」としています。
また、警察庁などによるハイビーム使用の啓発効果も考えられます。これまでずっとロービームで走る癖を持っていた人がハイビームにするようになったのは良いのですが、今度は適切にロービームに切り替えることを忘れてしまっていることも考えられます。
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新しい技術を採用したものが世の中に現れると、人が順応したり社会が受容するまで一定の時間がかかります。
ハロゲンヘッドライト登場時も、プロジェクターヘッドライト登場時も、高輝度放電ランプやLED登場時も、「まぶしい」という声がありました。今まで見慣れなかった明るいライトに対して起こした拒絶反応が、「まぶしい」という声だった可能性があります。
大前提として、夜間の交通安全を考えればヘッドライトは明るい方が良いといえます。
今回採用された各種オートマチック装置によりドライバーの操作が軽減されていますが、まだまだ完全ではありません。
そのためにマニュアルモードが残されているといえます。
せっかくの技術の進化を無駄にしないためにも、ドライバーが自分の車のオートマチック機能を正しく理解し、時には装置の動作に介入するなどして、安全を確保していくことが必要です。