スバルの新型SUV「クロストレック」にはAWDのほかにFWDが設定されます。四駆にこだわるスバルが、前輪駆動のSUVをラインナップするのはなぜなのでしょうか。
■新型クロストレックに前輪駆動車が設定される!?
スバルが「XV」の後継車として世に送り出す新型「クロストレック」ですが、なんとAWD(四輪駆動車)のほかにFWD(前輪駆動車)の設定があるのです。
スバルの世界販売台数におけるAWD率は98%といわれており、ほとんどのモデルの駆動方式はAWDのみ(OEM車除く)。
このように四駆に力を入れるスバルが、新型SUVにFWDも設定する狙いはどこにあるのでしょうか。
新型クロストレックの商品企画を担当したスバル関係者から直接話を聞いてみたところ、「最近のユーザーは、自分が必要なものと、必要としていないものをしっかり分けている」といいます。
駆動方式についても、本格的なオフロード走行をする機会がほとんどないから、スバル車であっても「FWDで十分だ」という発想のユーザーがグローバルで増えてきているというのです。
「インプレッサ」にはそうした発想はすでにあるため、現行モデルにもFWDの設定があります。
ただし、そもそもインプレッサでオフロードに行くというユーザーはあまりいないはずです。
いわゆる生活四駆というイメージとして、降雪地帯ではインプレッサのAWDを選ぶとしても、冬季でもあまり雪が降らない地域では、乗用や商用によりリーズナブルな価格のFWDを選ぶというユーザーもいます。
一方で、XVや新型クロストレックはSUVですし、しかもスバルのSUVということになれば当然AWDは必須というのが、これまでの常識だったと思います。
それでも、新型クロストレックでは「AWDまでは必要ない」と思うユーザーが増えることをスバルは予想して、今回の商品企画につながったというわけです。
そこで気になったのが、スバルの主力市場であるアメリカでの動向です。
なにせ、スバルが2022年9月15日にオンラインで開催したクロストレックのワールドプレミアの際、スバルの中村知美社長は「アメリカでクロストレック(日本のXV)は、スバルのエントリーモデルとして(月販)1万5000台も売れている」と発言し、スバルにとってクロストレックの重要度が増していることを強調したのですから。
直近の2022年9月実績を見ても、クロストレックのアメリカ販売実績は1万6000台を超えて好調さをキープ。「フォレスター」の1万台、「アウトバック」の8500台を凌ぐ人気モデルなのです。
2022年1月から9月までの累計でも、クロストレックは11万5000台を超えており、アメリカでもっとも売れているスバル車に成長していることが分かります。
スバルとしては、アメリカでの新型クロストレック、つまり日本でのXV後継車について、さらなる販売強化を見込むためにFWDを設定してエントリーモデルとしての間口を拡げようとしているのだと思います。
「新型クロストレックは欲しいけど、使い方は街乗り中心なのでFWDで十分」というアメリカ人の新規ユーザーを獲得しようというのです。
■オフロードは行かないけどアウトドアなSUVが欲しい人にピッタリ?
新型クロストレックにFWDを設定することに関連して、「アメリカで、クロストレックやフォレスター、アウトバックなどで本格的なオフロード走行する人はそんなに多いのですか?」とスバル商品企画関係者に聞いてみました。
すると「はい、けっこう多くいます」とはっきり答えてくれました。
いわゆるライフスタイル系ファッションアイテムとして、ちょっとアウトドアっぽいからスバルのAWDを買うというだけではなく、やはりスバルAWDユーザーの本質はオフロードにあることが改めて分かりました。
だからこそ、それとは逆の発想として「オフロード走行までは必要ないけど、アウトドアっぽい雰囲気も楽しめるこのサイズ感のSUVが欲しい」というユーザーにとって、FWDの新型クロストレックが“はまる”可能性があるのでしょう。
一方で、日本の場合、アメリカと比べると気軽に行ける本格的なオフロードは少ないですし、最近流行りのオートキャンプ場でもAWD車が必須となるような路面状況になるケースはあまり多くないはずです。
そうなると、日本市場での新型クロストレックでは、若いユーザーを中心にFWDの需要がさらに高まる可能性があるのではないでしょうか。
その上で、気になるのは新型クロストレックのFWD車の走り味でしょう。
実際に、プロトタイプでFWD車とAWD車を乗り比べてみましたが、当然ながら乗り味やハンドリングには差を感じます。
FWD車は重量が軽いために動きの軽快さがありますが、スバルの真骨頂である低重心で粘り感のある走りを体感できました。
ハンドリングについては、直進安定性を重視している印象があり、ワインディング路では操舵角度(ハンドルを切る量)を少し多めにしてみたところ、クルマ全体の粘り感を強く感じることができました。
日本でもアメリカと同様に、新型クロストレックのFWDをきっかけに、スバルらしさを体験する若いユーザーが増えることが期待されます。