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街じゅう丸ごと「時速30km」制限の大胆施策!? 電動キックボード「時速10km」制限も パリ市街の事例から考える「まちづくりの未来」とは

くるまのニュース 2022年10月24日 13時10分

住宅街などでクルマの速度規制を行う「ゾーン30」の取り組みについて、日本国内やパリの事例を紹介します。ただの交通対策にとどまらず、将来のまちづくりにも関わる重要な施策だといいます。

■生活道路での歩行者を守るため開始された「ゾーン30」の取り組み

 街中などの生活道路で「ゾーン30」という標識や道路標示を見たことはありますか。
 
 最高速度が時速30kmに制限されている区域(ゾーン)のことです。

 ゾーン30の実施が始まったのは2011年からで、今年2022年で11年目を迎えました。

 その数は2020年度末までに全国で4031か所まで広がっています。

 では、そもそもなぜゾーン30という考え方が実施されることになったのでしょう。

 警察庁によりますと、ゾーン30はその区域(ゾーン)に暮らす人々の生活道路の安全を第一として、ゾーン内の速度抑制やゾーン内を抜け道として通行する行為を抑制するため、様々な安全対策を行うものだと説明しています。

 確かにゾーン30が設定されている区域は、小中学校がある住宅地や、商店街の周辺など、歩行者や自転車の通行が多いところに思えます。

 ここでキーポイントとなるのが、車道の幅員(ふくいん:横幅)です。

 幅員が5.5m以上と、5.5m未満の道路での死傷事故の違いについて、警察庁調べによる2020年度の全国データで比較してみましょう。

 自転車乗用中の場合、5.5m以上での死傷事故が14.7%なのに対し、5.5m未満の道路では29.4%です。

 また歩行中が5.5m以上の幅員で8.8%のところ、5.5m未満では12.0%とやはり死傷者が占める割合が上がっていることが分かります。

 これは狭い道において、抜け道として速い速度で走行するクルマが、自転車や歩行者の飛び出しなどを避けることが難しい、といったケースが考えられます。

 そのためゾーン30での規制は、時速30kmでの速度制限や標識での注意喚起だけにとどまらず、さまざまな交通対策がとられています。

 例えば、道路の中央線を抹消し、路側帯を新設して車道幅を狭めることで車速を抑制したり、信号機の制御を見直しや大型車の通行禁止、物理的に路面へ凹凸をつけた「ハンプ」を設けたりするなど、様々な方策を講じているところです。

■進化系の「ゾーン30プラス」に加え独自の「ゾーン20」も

 また、2021年からは「ゾーン30プラス」が始まっています。

 これは、従来のゾーン30に加えて、時間帯によって進入抑制対策のための可動式支柱「ライジングボラード」を昇降させたりするほか、速度抑制のために道路を屈曲させる「シケイン」とするなど、道路管理者による様々な物理的デバイスを設置して、ゾーン30の効果をより高めるものです。

京都で実施される最高時速20キロ制限エリア(事実上の「ゾーン20」)の様子[撮影:桃田健史]

 実際、千葉県船橋市内のゾーン30プラスを視察しましたが、一部の路面が大きく波打った舗装となっており、速度抑制に大きな効果があると感じました。

 そのほか、京都市中京区には最高速度を20kmに制限した、いわば「ゾーン20」というべき区域があります。

 ここは河原町、烏丸、四条、御池など京都の中心に位置し観光客も多いエリアですが、商用車やタクシー、そして他の地域の住民が抜け道として利用することも多い区域です。

 実際、その区域を徒歩で移動してみましたが、道路には赤い太い線が引かれており、車道はかなり狭く感じて、通行する車に対する速度抑制の効果があると感じました。

 こうした事実上のゾーン20が設定された経緯について、京都府中京区役所地域力推進室・まちづくり推進担当部署に聞きました。

 それによりますと、ベースにあるのは第2期「中京区基本計画」で掲げた「通りの復権」です。

 そのうえで、2011年から中京区民、学校関係者、行政が連携し「交通問題プロジェクトミーティング(現在:通りの復権プロジェクト)」を実施して、三条通の速度規制の見直しなどを2014年3月に中京警察署に提出。

 これに対応して、三条通(御幸町通~烏丸通)で、最高速度を時速30kmから20kmに変更し、それに伴い小舗石の舗装を実施。

あわせて、合計4基の信号機を撤去し、この周辺区域が、事実上のゾーン20となりました。

 京都市の啓発活動の一環として制作されたチラシには「歩くことを楽しめるまちへ」~「クルマ」より、「歩くひと」のまちづくり~と銘打たれています。

■「クルマ中心」から「人中心」のまちづくりへ

 このようにゾーン30、ゾーン30プラス、そして事実上のゾーン20といった区域での交通政策は、地域住民が主体となって地元警察や行政を十分な協議をしたうえで実行に移される「まちづくり」の一環なのです。

 こうした「人中心のまちづくり」がいま、別の視点でも世界的に注目されています。

古い街並みが今も残るフランス・パリ市街の裏路地[画像はイメージです]

 もっともインパクトが大きいのは、フランスのパリでしょう。

 なんと、パリ市内のほとんどの区域で、2021年8月30日から最高速度が時速30kmとなりました。

 つまり、パリは「まるごとゾーン30」なのです。

 パリが目指しているのは、交通事故削減だけではありません。

 背景にあるのは、SDGsなど環境意識への高まりによる乗用車から公共交通機関へのシフト、クルマなどモノの「所有から共有」へのシフト、さらに新しいモビリティの登場など、様々な要因が考えられます。

 なかでも、近年急速に普及してきた電動キックボードについては、パリ市内での需要拡大に伴う事故の増加などを踏まえて、早々に対策を実施。

 2021年12月から、パリ市内でのシェアリング電動キックボードの最高速度は、時速10kmに抑制されています。

 自動車のみならず、新しいモビリティについてもゾーン規制が強化されたかたちです。

 パリ以外にも、欧米では都市中心部の車道を廃止して、歩行者や新しいモビリティを中心とした「ウォーカブル(安心して歩ける)」なまちづくりが進み始めているところです。

 日本でも今後、道路空間の構造を大きく変えることや、その地域にあった自動車、電動キックボード、電動車いす、立ち乗り式ロボットといった各種の新しいモビリティに対する適切な速度規制の実施を含めて、市街地を一体化して考える「人中心のまちづくり」が進むことが期待されます。

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