ホンダ「フィット」のマイナーチェンジで待望の「RS」グレードが復活しました。このスポーティグレードの登場を待っていたユーザーが多いのかと思いきや、販売現場では思わぬ反響があるようです。
■待望のフィットRS復活! 販売現場の実態は?
2020年2月に4代目へとフルモデルチェンジしたホンダのコンパクトカー「フィット」。
3代目の抑揚のあるデザインから一変、シンプルかつクリーンなデザインへと変貌したほか、ハイブリッドモデルは新たに2モーターハイブリッドシステムである「e:HEV」へ進化するなど、かなり気合の入ったモデルとなっていました。
しかしフタを開けてみると、販売台数では、同時期にフルモデルチェンジしたライバル車のトヨタ「ヤリス」に大きく水をあけられる結果となっているのが現状。先代までのフィットの勢いは失われてしまったという状態です。
そんな4代目フィットではありますが、2022年10月にビッグマイナーチェンジが実施されました。
内外装の意匠の変更はもちろんのこと、運転支援システムの「ホンダセンシング」は新たに「トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)」と「急アクセル抑制機能」が標準装備となり、「ブラインドスポットインフォメーション」や「後退出庫サポート」も新たに設定。
また、パワートレインもガソリンモデルが1.3リッターから1.5リッターへと排気量が拡大されて動力性能が大きく向上したほか、ハイブリッドモデルでは駆動用モーターの出力が10kW(14馬力)アップ。
「ベーシック」グレードのe:HEV のWLTCモード燃費は30.2km/Lと従来型より0.8km/Lアップし、30km/L台に突入したのもポイントです。
そして、今回のマイナーチェンジでもっとも注目されるのは、現行モデルが登場したタイミングで一旦消滅していた「RS」グレードが復活したことでしょう。
パワートレインこそほかのグレードと共通ながら、専用のエアロパーツや専用セッティングの足回り&タイヤホイールが採用され、さらにe:HEVモデルには3つのドライブモードスイッチとアクセルオフ時の減速力を4段階で選択できる減速セレクターが装着されるなど、スポーティさがウリとなっています。
クルマ自体の評価が高いフィットに、より爽快な走りを実現した待望のRSが追加されたわけですが、ホンダ販売店において、ユーザーからはどのような反響があったのでしょうか。
今回話を聞いたホンダディーラーの営業スタッフによると、従来型のフィットユーザー、とくにRSに乗っているユーザーたちは、新型にRSが登場するのを心待ちにしていた人も少なくないとのことです。
では、新型にRSが追加されたことはディーラーにとっても嬉しいニュースなのかと思いきや、スタッフは浮かない顔……。その理由はトランスミッションにありました。
新型フィットRSは、ハイブリッドモデルはもちろん、ガソリンモデルにも3ペダルMTが設定されなかったことで、従来型のフィットRSのMTモデルに乗っているユーザーの多くが「今の車両を乗り続ける」という判断をしたとのことです。
それ以外でも、RSといえばMT車を期待していたユーザーが多く、2ペダルの新型フィットRSに落胆の声が挙がっているといいます。
現在のホンダのラインナップでMT車があるのは軽自動車の「N-ONE」と3ナンバーサイズのボディを持つ「シビック(タイプR含む)」のみ。軽では小さいし3ナンバーでは大きすぎるというユーザーの受け皿がない状態となっており、今回のフィットのマイナーチェンジでもそれが解消されなかったというワケなのです。
また、MTユーザー以外でも先代フィットに乗っている人については、柔和なルックスになった現行モデルの評判がイマイチで、こちらも従来の車両を乗り続ける人が多いそう。
「N-BOX」などもカスタム系が人気であるように、実際にコンパクトクラスのモデルを選ぶ層は、意外とアグレッシブなルックスを求める傾向があるのだそうです。
待ちに待ったRSが追加されながらも、MTがないことで肩透かしを食らってしまった感のあるフィット。
販売店スタッフも「乗ってさえいただければ、良いクルマであることはすぐに感じてもらえるのですが……」と嘆くように、クルマの完成度は高いものの商談の土俵に上がることができないという状況は、マイナーチェンジで商品力が上がった今でも続いているようです。