日産「フェアレディZ」がモデルチェンジして新型モデル(RZ34)が登場しましたが、AT車とMT車ではどちらが良いのか気になるところです。それぞれを選ぶ価値とはどのようなところにあるのでしょうか。
■新型「フェアレディZ」MTよりATのほうが速いってホント?
YouTubeに日産新型「フェアレディZ(RZ34)」に関する興味深い動画が投稿されています。
アメリカの自動車系YouTubeチャンネルによるこの動画は、新型フェアレディZのMT車とAT車でゼロヨン対決をするというもの。果たして、どちらが先にゴールしたのでしょうか。
当然MT車のほうが速い……と思いきや、先にゴールしたのはなんとAT車。その動画によるゼロヨン対決では、AT車が12.3秒、MT車が12.8秒と停止状態からの発進加速はAT車のほうが速いことが明らかになりました。
確実にいえるのは「同じエンジンならMT車のほうがAT車より速い」という常識はもう過去のものだということ。新型フェアレディZのAT(オートマチックトランスミッション)はDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)などではなく、一般的なトルコン式ATです。
しかし昨今のATの技術向上は目覚ましく、変速にかかる時間がMTよりも短いという長所に加え、従来のATよりも滑り(駆動ロス)が少ないことや、そしてMTの6速よりも段数が多くてパワーを効率よく使える9速としていることなどが、全開加速時の速さに効果を発揮したと考えられます。
それにしても、MT車よりAT車のほうがダッシュが速いという事実に驚いた人も多いのではないでしょうか。
筆者(工藤貴宏)も新型フェアレディZのMTとATを乗り比べたことがあります。そのときに感じたのは「ATでもいいじゃん!」という素直な印象でした。
かつてのATといえばドライバビリティ的にいまひとつというのが一般的な評価でしたが、ATの進化によりドライバビリティは格段に向上。実際に運転していて何より良いのは“すべり感”を感じないことで、アクセルを踏むとそれに応じてダイレクトにエンジン出力が引き出せるから、違和感を抱くことなく運転を楽しめるのです。
むしろ、ハンドリングの楽しさに集中するのであれば余計な操作(ドライバーがクラッチを踏み自分の手でおこなうシフトチェンジ)をしなくて済むAT車のほうが良いと思ったほどです。
では、新型フェアレディZにMTの必要性はないのかというと、筆者はそうとも思いません。
AT車にないMT車の魅力は、自分の手でクルマをコントロールする喜びです。クルマをドライバーの管理下に置く、といっても良いかもしれません。
手動によるシフト操作を煩わしいと感じる人が多いのは理解していますが、回転がしっかり合った絶妙なシフトチェンジができるとそれは気持ち良さとなってドライバーに快感をもたらします。
それはバスケットボールでスパスパとシュートが決まるような感覚、もしくはダーツで上手に的を射たときの爽快感と似ているといえるいでしょう。
一方で回転が合わないなどあまり上手にいかないときもあります。しかし、それも自分の腕次第。MT車には、AT車には存在しない「自分でコントロールし、成功を味わえる喜び」があるのです。
また、運転していてクルマとの一体感が高まるのもMT車の魅力でしょう。MT車ならではの自分で操っている感覚は、AT車では味わえないドライビングプレジャーです。
そしてもうひとつ、MT車のメリットといえるのは、ゆっくり走っているときでもクルマとの対話を楽しめることです。
街中を走っていても、交差点を曲がる際や速度が落ちたときのシフトダウン、その後のシフトアップではクルマと楽しく会話するかのような気分です。これを味わえるのもMT車の醍醐味といえます。
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新型フェアレディZに話を戻すと、AT車であってもサーキット走行など特殊な状況でない限りはそのネガを感じることはないし、ゼロヨンではMT車よりも速いなど動力性能的にも十分なもの。峠道などを走ってもしっかりとスポーツカーを楽しめるのだから、自信をもってお勧めできる仕様と断言できます。
しかし、クルマとの一体感や対話を楽しもうとするのであれば、やはりMT車の魅力に敵いません。
もし筆者が自分の愛車として新型フェアレディZを買うのであれば、迷うことなくMT車を選びます。
それは、405馬力というハイパワースポーツカーとはいえ、絶対的な速さよりもクルマとの対話を大切にしたいからです。