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「スタッドレスタイヤ」なぜ開発が大変? 日本が世界屈指の「冬タイヤ技術先進国」になった訳

くるまのニュース 2022年12月13日 14時10分

冬の雪道や凍結路を走行するうえで「スタッドレスタイヤ」は欠かせません。日本向けのスタッドレスタイヤの開発は「難しい」とされていますが、それはなぜなのでしょうか。ブリヂストンに聞いてみました。

■日本市場は特殊!? なぜ?

 2022年も12月に入り、北海道や東北などでは雪が積もる季節になってきました。そうした降雪地域で暮らす人にとってスタッドレスタイヤは生活必需品です。

 また、近年は1年を通じてあまり雪が降らない地域でも、雪が降ったときを想定したり、または冬のレジャーを目的として、冬場にスタッドレスタイヤを選ぶ人も増えてきました。

 そうしたなか、北海道と北東北主要都市で「BLIZZAK(ブリザック)」ブランドで展開するスタッドレスタイヤの一般ドライバー装着率が50.7%、また北海道札幌市のタクシー装着率が77.2%という高いシェアを誇るブリヂストンが、今シーズンから新たに「ブリザックVRX3」をSUV向けサイズに拡充しています。

 日本のスタッドレスタイヤの市場動向について、ブリヂストンのスタッドレスタイヤ開発担当者や製品企画担当者に聞いてみました。

 日本は1980年代に、スパイクタイヤが道路を損傷させて粉塵被害が悪化したことで、スパイクタイヤの使用が禁止されたことをきっかけに、スタッドレスタイヤが普及しました。

 その後、国内と海外のタイヤメーカー各社による技術競争が進み、現在のような高性能なスタッドレスタイヤが生まれています。

 ブリヂストンでは、ブリザックの歴史は日本市場向けの「PM10」として1988年に登場したことから始まり、その後、とくに日本では氷上性能に優れたスタッドレスタイヤが登場し、いまなお進化を続けています。

 そうなれば、日本はスタッドレスタイヤの技術開発で世界をリードし、その技術が世界に広まっている、というイメージを持つ人が少なくないのではないでしょうか。

 この点について、ブリヂストンタイヤの製品企画担当者は「日本市場は特殊です」といいますが、この「特殊」とは、主に「気温がゼロ度付近になる」という気象環境を指します。

 開発担当者はグローバルで見て、冬用タイヤとしての日本向けスタッドレスタイヤの開発は「大変だ」というのです。

 具体的には、「タイヤが滑る原因となる水の膜が発生しやすい気温ゼロ度付近でのアイス(氷上)性能とスノー(雪上性能)、さらにその他の走行条件でのタイヤ性能を上手くバランスされることがとても難しい」とのこと。

 タイヤの基本性能には、アイス性能とスノー性能の効き持ち、ドライ、ウェット、転がり抵抗、静粛性、ライフ(タイヤ全体としての寿命)といった項目が挙げられます。

 これらを、使用する国や地域でのそれぞれの気象環境や使用環境応じた製品にマッチさせていくことが、冬用タイヤ開発のべースになります。

 そのなかで、アイス(氷上)とスノー(雪上)の間である、気温が0度前後になる地域が日本では北海道や東北に多く存在し、日本向けのスタッドレスタイヤ開発の難易度が上がります。

 日本は雪国としては緯度上でかなり南側に位置しているという地理的な現実があり、そのために開発が難しいということです。

■氷上性能と雪上性能を両立させるのが極めて難しい

 世界のほかの国や地域に目を向けてみると、たとえば北欧やロシアの冬は、日中でもマイナス20度が続くといった極寒であるため、冬用タイヤではタイヤが路面をひっかけて進むといった発想が優先されます。ロシアでは現在でもスパイクタイヤの使用が許可されているといいます。

 また、ドイツのアウトバーンでは、雪が降ってもすぐに溶けて路面がウェット状態になることが多いため、高速走行での冬用タイヤ性能が重視されています。

 そのため、欧州などの降雪地域では、氷上性能、または雪上性能など、冬用タイヤの性能における項目をある一定の方向に大きく特化させることができる、という解釈です。

アイスとスノーが混在する日本の雪道

 一方、日本では、理論上では二律背反する氷上性能と雪上性能を両立させることが優先されるという、極めて難しい研究課題を解決したうえでの製品量産化が求められます。

 さまざまな路面状況が混在する日本は「スタッドレスタイヤ技術先進国」といえ、その技術がさまざまな形でグローバルでの冬用タイヤにフィードバックされるのです。

 こうしたグローバルでの冬用タイヤの実態を知ったうえで、改めて日本市場でブリヂストンが一般ユーザー向けに2022年におこなった「スタッドレスタイヤの重視性能」に関する調査の結果を見てみましょう。

 調査対象は降雪地域と非降雪地域に分けているのですが、いずれの場合も、もっとも重視する性能はアイス(氷上)で、次にスノー(雪上)、さらにそうしたアイスとスノーの性能がより長い期間続くための“効き持ち”については、降雪地域で重視する人が多いことがわかります。

 まさに、日本の気象状況によるユーザーのニーズが、氷上性能と雪上性能の高い次元での両立であり、それに対するブリヂストンの最新の答えがVRX3に反映されているとえるでしょう。

 近年、日本市場では日常ユースでのSUV需要が高まり、各メーカーから発売されるSUVモデルが増加していることから、2021年に発売され、ユーザーやタイヤ販売店から好評なVRX3を日本での中型SUVクラス向けとして採用サイズを拡大するに至りました。

 なお、「VRX2」では、一部の小型SUVに装着可能なタイヤサイズがありますが、より大きなSUV向けのサイズは用意されていません。

 また、SUV専用として設定されている「DM-V3」について、製品企画担当者は、雪深い場所などを走行するような、より本格的なオフロード向けSUVを想定した基本設計の商品も用意されるなど、走行状況に応じて適切なスタッドレスタイヤが選択できるようになっているのです。

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