近い将来のクルマの税制にも関わる「令和5年度 税制改正大綱」が発表されました。EVの普及を促す税の優遇が進む一方で、エコカー減税などクルマの税のあり方は、この先どう変わっていくのでしょうか。
■まずは「複雑すぎる」クルマにかかる「3つの税」を整理してみる
政府与党の自由民主党と公明党は2022年12月16日、今後の日本の税制のあり方を示す「令和5年度 税制改正大綱」を発表しました。
ついに、クルマの税制が大きく変わりそうです。
税制改正に関連し、直近では防衛費に関して大きなニュースとなりました。
一方で、クルマについてもこれまで様々な報道が出ていました。
まずは日本でのクルマに関わる税金の仕組みについて振り返ってみましょう。
クルマの税金には、クルマそのものにかかる車体課税、燃料等への各種税金、そして消費税があります。
車体課税については、財務省では大きく分けて3つの要素で構成されていると説明します。
ひとつ目は「取得する」ための自動車税環境性能割(かんきょうせいのうわり)。
ふたつ目は「保有する」ための自動車税種別割。
そして3つ目は「利用」するための自動車重量税です。
そのうち自動車税環境性能割は、自動車の燃費性能に応じて自動車を購入する時にかかる税金で、経済産業省によれば、これは事実上、以前の自動車取得税に代わるものという解釈です。
次に、自動車税種別割(自動車税)はエンジンの排気量の区分に応じてかかる税金(または軽自動車税)で、年に1回納めます。
これらの自動車税環境性能割と自動車税はクルマを使用する都道府県に納める地方税となります。
そして自動車重量税はその名の通り、自動車の重量の区分に応じた税金で、新車登録時と車検の度に納めるもので、こちらは国に納める国税です。
そのほか減税措置については、自動車重量税にはエコカー減税、また自動車税(軽自動車税)にはグリーン化特例があります。
このように、車体課税だけ見ても、自分がこれからクルマを購入しようと思っていたり、また現在所有しているクルマに対して、税金がいくらかかるのかが分かりづらいと思う人が少なくないでしょう。
また、減税など優遇措置の中身がたまに変わるため、それをしっかり把握し続けることもユーザーにとっては面倒だというのが、現在の車体課税の現状ではないでしょうか。
■結局のところ「クルマの税金」は何が変わる!?
ここまで説明したうえで、ようやく本題に入ります。
令和5年度税制改正大綱によって、クルマの税金のうち、何がどう変わるのでしょうか。
大まかにいえば、自動車重量税のエコカー減税や自動車税環境性能割については、2023年末まで現行制度の内容で据え置きとなりました。
これは、昨今の原材料高騰や半導体不足の影響で、新車の納期が大幅に遅れているなどの事情を勘案したものです。
2024年以降は、政府の2030年の次世代車普及目標や2035年の電動車普及目標との整合性を高め、減免区分の基準となる燃費基準の達成度を段階的に高めながら、適用期限は2026年4月30日まで延長されます。
また、クリーンディーゼル車のエコカー減税と自動車税環境性能割への対応は、現行制度を2023年末まで維持し、2024年からはガソリン車と同等になります。
また、グリーン化特例についても3年延長としています。
このように車体課税の優遇措置については、社会情勢を踏まえて一時的な猶予はするものの、段階的に厳しくなる方向です。
一方で、令和5年度税制改正大綱の「検討事項」に記述された、中長期的な自動車関連諸税の見直しに自動車業界の注目が集まっています。
ここでは、クルマにかかる税は日本の自動車戦略、インフラ整備の長期展望、そして2050年カーボンニュートラルなどに貢献しなければならないという、社会状況を紹介しています。
そのうえで、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングなどの新サービス、電動化)などの技術やサービスでの大変革、それに伴う国民の「受益と負担」の関係から、公平・中立・簡素な課税のあり方を中長期な視点に立って検討をおこなうとしています。
要するに、社会全体が大きく変わるなかで、クルマまたはモビリティという観点で、税制を抜本的に見直すということです。
これまで日本では、欧米など諸外国と比べ自動車の税金が高いことに加え、前出の通り自動車の税制の仕組みも複雑なため、ユーザーにとって分かりづらい点が指摘されてきました。
こうしたユーザーからの声は、日本自動車連盟(JAF)が取りまとめているアンケート調査でも明らかです。
また、自動車メーカーや二輪車メーカーで構成する業界団体・日本自動車工業会でも、報道陣向けの定例記者会見の場で、豊田章男会長が政府に対して、自動車税制の抜本的な改正を強く求めてきたという経緯があります。
こうした様々な声によって、国はついにクルマにかかる税制を大きく変えようと動き出したといえるでしょう。
■走った分だけ税金がかかる!? 「走行距離課税」も検討課題に
そんななか、日本自動車工業会は令和5年度税制改正大綱が公表されたことに対して、豊田章男会長がコメントを発表しました。
次世代に向けた希望を示すコメントは次の通りです。
「いよいよ本年が自動車税制を日本の競争力再構築に繋げていく骨太議論のスタートの年となり、歓迎いたします」
2022年10月26日に開催された政府税制調査会では、走った分だけ課税する「走行距離課税」を検討課題として掲げ、大きな話題となりました。
これは、近い将来日本でもEVが普及することで燃料にかかる税収が減ることがひとつ目の理由です。
またEVは一般的に重量が重いことから道路への負荷が大きく、その修繕費がかさむ可能性があるという考えがもうひとつの理由となっています。
さらに直近では自動車重量税についても、現在の排気量別から「モーターやエンジンの出力別」といった発想の議論があるようだ、との報道もあります。
確かにEVは現在、自動車税環境性能割は非課税、自動車重量税では排気量ゼロという計算で、区分では税額が最も安い1000cc以下が適用されています。
またエコカー減税やグリーン化特例によって、EVには様々な恩恵が与えられ、さらに購入補助金制度も国や地上自治体で充実しているのが実状です。
しかしこうした措置は、あくまでもEVを普及させるためにユーザーの背中を押すための一時的な対応にすぎません。
今後EVの普及が進めば、当然、優遇措置も削減されたり廃止されることになるでしょう。
ただし、税制改正は「EV普及ありき」での環境対応だけを考えて実施する訳ではありません。
クルマにかかる税制改正をしっかりとおこなうためには、まず国や各地域の地方自治体が、これから目指すカーボンニュートラル社会の姿について、より明確にビジョンを示すことが先決です。
そのなかで「社会の血液」ともいうべきクルマ、またはモビリティの種類や使われ方が見えてきたうえで、クルマの税制についての議論が深まることが重要だと筆者は考えます。
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令和5年度税制改正大綱によると、クルマにかかる税制の抜本的な見直しは、「次のエコカー減税の期限到来時(2026年4月30日)までに検討を進める」としています。