クルマのパワーを表記するときに、日本では一般的に「馬力」表記が用いられますが、ヨーロッパでは「PS」、アメリカでは「HP」、電気自動車(EV)では「kW」が使われています。これらは何が違うのでしょうか。
■重量物を動かす仕事量の単位に「馬力」が用いられる訳
クルマのパワーを表記するときに一般的なのが「馬力(PS)」で、クルマのパワーを示す数値のひとつです。
しかし馬力とは、何となくわかるような、実際はよくわからないような不思議な単位ともいえ、ヨーロッパでは「PS」、アメリカやイギリスでは「HP」とさまざまなほか、「kW(キロワット)」も併記されるようになってさらに難解になっています。
馬力は、簡単にいえば「重量がある物体を、どれだけの時間で、どれだけの距離を動かしたか」を数値化したもの。これと並列に記載されている「トルク」は物体(クルマの場合はタイヤ)を回転させるための力を数値化したもので、最高出力はトルク×エンジン回転数で導き出されます。
整備士を育成する専門学校の講師、I氏に分かりやすく解説してもらいました。
「一般的に用いられている馬力という単位を世に送り出したのは、蒸気機関を発明したジェームス・ワット氏といわれています。
それまで多くの仕事で主力として活躍していたのが『馬』だったため、『この蒸気機関は馬に例えると、これだけの仕事をしている』という指標を作るために、実際に馬1頭ではどれくらいの仕事量なのかを計測しました。
175ポンドの荷物を馬に引かせ1分間で188フィート移動させた実験結果を踏まえて、性能が客観的にわかる単位として1秒間の仕事量を算出したものが馬力となったといわれています」
そこで導き出されたのが「75kgの重量物を1秒間に1m動かす力」が「1馬力」という数値。ただし日本や欧州ではメートル法が主流に対し、アメリカやイギリスでは距離の部分がヤードやポンドが主流なので、メートル法で算出されるのをPS、ヤードポンド法で算出するのがHPという単位になっているそうです。
また、PSやHPで微妙に算出方法が違うことから、世界的な統一単位として1999年に国際単位の表記が義務付けられました。それが「kW(キロワット)」です。
1馬力を電力に換算すると735.5W(ワット)。クルマはパワーがありすぎるので千単位を基準化してkW(キロワット)で表記されるようになっています。
重いものを瞬間的に動かす単位が馬力で、これを継続して出せるエンジンというのは人間の叡智を集めたものといえそうです。改めてエンジンのありがたみを感じます。
■なぜディーゼルエンジンはトルクが太くてもスピードが出にくい?
馬力とトルクなどの関係を理解すると、別の疑問も出てきます。それが「ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりスピードが出にくい」ということです。I氏に説明してもらいました。
「先述したように、トルクはタイヤを回転させる力で、馬力はトルク×エンジン回転数です。
ディーゼルエンジンは実用性を考慮した結果、比較的低回転で『最大トルク』を発揮する構造になっています。エンジンを高回転まで回してもトルクは太くならないので、回転数の頭打ちとともに出力が上がりません。
それに対してガソリンエンジンは最大トルクを得られる回転数がディーゼルよりも高く設定され、高回転まで回るように設計されているのです。
結果として高い回転数で回転数が高めのトルク=高出力になる、ということで、それだけスピードが出やすい特性になるわけです。
ディーゼルエンジンは重い物を運ぶときに必要な車軸を回す力=トルクは必要でも、一定以上の速さを必要としないトラックやバスなどに搭載されることが多く、回転させるトルクより、高出力で速さが求められるスポーツカーなどはガソリンエンジンが多かったわけです。
ただし今後は、ガソリンエンジン以上に加速性能が優れるモーター搭載の、スポーツEVが増える可能性は多いにありそうです」(整備士専門学校の講師 I氏)
この理論でいえば、最強なのがEVに搭載されるモーターです。なにせ回転しはじめた直後の低回転で最大トルクを発揮でき、さらにエンジン以上の高回転まで回せるので、高出力やスピードが出しやすいということになります。
「モーターを高回転で回すにはそれだけの電力を消費します。だからこそ各メーカーがバッテリーの蓄電や出力向上を日々開発し続けているわけです。
現に加速性能だけならポルシェやフェラーリより、EVのテスラのほうが速いといわれているくらいですから。
あとはそのクルマがどんなジャンルなのか、どんな性能を求めるかによってモーターの特性も変わってくるでしょう」(整備士専門学校の講師 I氏)
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人間でも瞬間的には1馬力以上は出せることもありますが、それを継続させるのは困難です。そう考えると最高出力64馬力に自主規制されている軽自動車でさえ、すごいパワーを生み出していることがわかります。