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ついていれば「高級車」の証し!? 後席の「アームレスト」は昭和の時代なぜ「特別」だったのか

くるまのニュース 2023年1月13日 8時10分

かつて後席に「リアアームレスト」が備わるクルマは「高級車」だといわれていた時代がありました。いまでは軽自動車にも一般的なこの装備がまだ“特別”なものだった昭和の自動車事情を振り返ります。

■後席中央から引き出す「アームレスト」はかつて「豪華装備」だった

 いまでは多くの乗用車に備わる後席の「リアアームレスト」ですが、かつてはそれ自体が「高級車の証し」と呼ばれるほど「特別な装備」だった時代があります。
 
 そんな昭和の時代の高級車事情を中心に、リアアームレストの歴史を紹介します。

 クルマの後席に座ったとき、「あったらいいな」という装備がリアアームレストです。

 リアアームレストは、リアシートに座った乗員がリラックスして過ごせるように、文字通り「肘掛け(ひじかけ)」として使用されるほか、リアアームレストにより体の左右が保持されることで、クルマの挙動に応じて体が動かず、快適に着座することも可能となります。

 リアシートのセンターから引き出されるタイプ(センターアームレスト)をはじめ、鉄道や航空機の座席のように、個別に折りたためるアームレストがシートごとに設けられているタイプなど、様々な種類があります。

 さらにカップホルダーや、後席用の空調スイッチを設け、リアアームレストに機能を持たせている車種も増えています。

 例えばトヨタ「センチュリー」では、センターアームレストに液晶パネル式の操作画面を備えています。

 なお、メルセデス・ベンツ「マイバッハ」やロールスロイスなど超高級車の一部では、リアシート左右の間に巨大な固定式センターアームレストが鎮座しており、そもそもリアシートに3人座ることや左右シート間の移動もできません。

 しかし、すべてのクルマにリアアームレストが備わっているわけではなく、軽自動車や商用車、小型車では装着されていない車種も数多く存在します。

 それを受けアフターパーツのマーケットでは、多種多様な後付けリアアームレストが発売されているほどです。

 その一方で、近年はかつての大衆車クラスに相当するトヨタ「アクア」や「カローラ」、そして多くの軽スーパーハイトワゴンなどでも、リアアームレストの設定が拡大していて、リアシートの快適性をアップするための重要なアイテムとして支持され続けていることがわかります。

 このように装着車種が広がるリアアームレストですが、昭和の時代には現在より一般的ではありませんでした。

 とくにセダン車などの後席中央から引き出すタイプのセンターアームレストは、とても「ありがたい」特別なもの。

 おおげさではなく、付いているだけで「おお!」という感嘆の声が出るほど高級車の装備だったのです。

 高級車といってもいろいろな要素があり、人によってもその捉え方も違います。

 昭和の終わりころの感覚でいえば「大排気量」「5気筒以上の多気筒(マルチシリンダー)」「高級装備」「高価格」「メーカー内車種ラインアップの上位に位置」といったイメージでしょうか。

 そのひとつとして、リアアームレストも高級車の証しだと認められていた時代が確かにあったのです。

 では、いつ頃から国産車にリアアームレストが用意されたのでしょうか。

 1955年に登場し、以来日本を代表する高級車としてその名を今に伝えるトヨタ「クラウン」では、すでに初代(トヨペット クラウン)でリアアームレストを装備。

 日産では、1960年デビューの初代「セドリック」に、そしてのちに日産に併合されるプリンスの高級車「グロリア」にも、1959年登場の初代からリアアームレストがありました。

■「リアアームレスト」つい試したくなる「オジサンあるある」!?

 ところが1960年代末になると、高級車だけでなく、当時「ハイオーナーカー」と呼ばれたアッパーミドルクラス「コロナ・マークII」の一部にもリアアームレスト設定グレードが現れ、これ以降このクラスでの装着はメジャーとなっていきます。

 しかしまだハイオーナーカーも高級車も大衆車との価格差が大きく、文字通り「高嶺の花」。リアアームレストも遠い存在でした。

 例えば1970年のトヨタ車の販売価格(東京店頭渡し価格)を見てみると、「カローラDX」が53.7万円に対し「コロナ・マークIIハードトップ 1900GSS」が106.2万円、「クラウンセダン スーパーDX」が112.75万円といった具合です。

1977年に登場した日産「スカイライン」(C210型/5代目)TIシリーズの上級グレード「TI-EX」に備わる後席のセンターアームレスト

 1980年代には、大衆車クラスや「コロナ」「ブルーバード」などの中堅ファミリーカークラスでも、上位車種並みに「パワーステアリング」「パワーウィンドウ」「エアコン」などを装着したグレードが増えていくなか、最上級グレードのみにある特別な装備のひとつとして、リアアームレストの文字が誇らしげにカタログへ記載されていました。

 またこの頃になって、高級車に匹敵する豪華な内装を誇った「マークII」をはじめとしたアッパーミドルモデル(いわゆる「ハイソカー」)が爆発的なヒットを記録。リアアームレストも当然装備されていました。

 しかしクラウン、セドリックといった高級車でさえ、現在の商用車よりも装備が少ないほど簡素なスタンダードグレードが存在していた時代なので、前述の車種すべてがリアアームレストを持っていたわけではありません。

 またハイソカーが爆発的に売れたとはいっても、やはり販売のメインはカローラ、サニーといった大衆クラスだったこともあります。

 そういう意味で1980年代前半頃でも、まだリアアームレストには特別感があったのです。

 それもあって当時の筆者は、リアアームレストがあるクルマの後部座席に乗り込むと、自分の家のクルマではなくても、真っ先にアームレストを引き出していました。

 肘をアームレストにかけ、子供ながらも小さな優越感を感じたものでした。

 筆者(遠藤イヅル)はいま51歳ですが、いまだにあの頃の習慣が消えず、仕事で試乗したりディーラーでクルマを見るとまずリアアームレストを引き出して確認する癖があります。

 これは「オジサンあるある」かもしれません。

 そのため自分の買ったクルマにもリアアームレストがついていると、妙に嬉しくなってしまいます。

 現在所有する日産「フォルクスワーゲン サンタナ」(当時の日産 座間工場製モデル)が手元に届いた時、まず後席のセンターアームレストを引き出して座り、ニンマリしたのはいうまでもありません。

 そんなリアアームレストも、前述のように多くの車種に普及が進んでおり、「あの頃」のような特別感は次第に薄れていってしまうのかもしれません。

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