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スズキが2023年度にEV6車種導入へ 鈴木社長は「EVシフトは適材適所」と慎重姿勢崩さず

くるまのニュース 2023年2月1日 13時10分

2023年1月26日におこなわれたスズキの「2030年度に向けた成長戦略」で、国内や欧州、インドなどの主要地域におけるEV(電気自動車)の導入計画が明らかにされました。鈴木社長は「EVは適材適所で導入する」とし、慎重な姿勢をみせています。

■会見の直前に飛び込んだ「トヨタ社長交代劇」にスズキ社長も驚きの声

 スズキは2023年1月26日に「2030年度に向けた成長戦略」を発表しました。
 
 会見で明かされたEV(電気自動車)導入計画のうち、日本では今後どのようなタイミングで導入が進んでいくのでしょうか。

 まさか、こんなに忙しい日になるとは思ってもみませんでした。

 筆者(桃田健史)は1月26日、16時半から始まる予定の「スズキ 2030年度に向けた成長戦略」の発表を前に、オンライン会議システムのチェックをしていたところ、ネット上の速報で「トヨタ社長交代」のニュースが飛び込んできたのですから。

 そのため、急遽16時から始まったトヨタ緊急会見を別のパソコンのオンライン会議システムで参加しながら、16時半からのスズキ会見もそれと並行して観ることになったのです。

 スズキの会見中、鈴木敏宏社長は記者から「突然のトヨタ社長交代をどう受け止めるか」について聞かれ、「私もこの発表の1時間前にウェブのニュースで知って、ビックリした」と、電動化など様々な領域で技術提携しているトヨタのトップ交代劇に驚きを隠せない表情でした。

 そのうえで「豊田(章男)社長は、(トヨタ個社としてではなく)日本の自動車産業のみならず、日本の産業界全体を代表する立場として、熱い思いを持って(様々な事案に対して)発言してこられました。

 今後も、豊田社長にはスズキに対してご指導いただき、また(外部に向けた)発言を続けて欲しい」と、豊田社長の業績を称えると同時に、今後もトヨタとの関係を大事にする姿勢を示しています。

 それにしても、スズキが今回のような中長期の詳細な技術ロードマップを、決算発表以外で示すことは珍しいと思います。

 実際、鈴木社長も「これまでこうした発表をしてこなかった」というほどです。

 今回の発表の背景については、スズキの社内体制が変わって約1年半が経ち、社内の様々な部門での連携などによって、EVを含めた総括的な今後の流れについて、社内での情報共有が一定の水準に達したからという考えを示しました。

 今回の会見の主な内容としては、日本、インド、そして欧州の3つを核とした事業を強化すること。特に、インド、アセアン、アフリカでの経済成長に貢献することを強調しました。

 2022年度3月期の決算では、四輪車の年間総生産台数282.2万台のうち、インドは165.9万台と全体の59%を占め、スズキの最重要国です。

 スズキとしては、今後もインド市場への期待は極めて大きく、インド市場の特性を十分に考慮しながら、パワートレインとしてはEV、ハイブリッド車、CNG(天然ガス)車などを当面は並存されながら、インド各地の社会情勢もしっかり捉えて販売台数を増やし続けていく決意を示しました。

 その他、EV関連やバイオガス事業など、研究開発と設備投資で2030年度までに合計4.5兆円を投資。

 その結果として、売上高は、2022年3月期の3.5兆円の2倍となる7兆円を2030年度に目指すという高い目標を掲げています。

■スズキは2023年度に日本市場へ6モデルのEVを投入予定!

 こうしたなか、日本のユーザーにとっては「スズキもこれからEVに本腰なのか」「スズキのEVはどんな特長があるのか」といったところから、さらには「スズキの軽も全部EVになるのか」などの疑問を持つ人が少なくないでしょう。

スズキが2030年度までに日本へ導入するEVは6車種[スズキが2023年1月26日に開催した「2030年度に向けた成長戦略説明会」発表資料より]

 スズキの成長戦略にむけた会見資料によると、すでにEVシフトが急激に進んでいる欧州では、2024年度からEVを初導入するとし、2030年度までにEV5モデルを投入。パワートレイン比率でEV80%を目指します。

 一方最重要国のインドでは、EVの導入開始は2024年度で、2030年度までに6モデル(パワートレイン比率の15%)としています。

 そして日本では、EVの導入開始は欧州やインドより1年早い2023年で、まず軽商用EVを皮切りに、2030年度までに6モデル、パワートレイン比率の20%(乗用車のみ)という数字を公表しました。

 残りの80%もハイブリッド車とし、新型ハイブリッドシステムも開発していくとしています。

 資料で公開されたクルマのシルエットで、日本導入予定の6モデルを予想してみましょう。

 軽では、商用EVと乗用EV、登録車では小型EV、小型SUV、中小型クロスオーバー、そして中型クロスオーバーといったイメージが描かれています。

 スズキのEVモデルについては、インドで2023年1月開催のオートエキスポ2023でコンセプトモデル「eVX」が世界戦略EVとして登場していますが、これが今回シルエットにあった日本向け中型クロスオーバーなのかもしれません。

 その他のモデルについても当然、「eVX」を含めてトヨタとの協業が前提にあることは確かです。

 そのうえで、鈴木社長は「トヨタから技術アドバイスを受けているが、スズキがEV技術を習得していくなかで、トヨタ側にいわれっぱなしでは、スズキの存在価値はない」とキッパリと言い切り、トヨタとEV開発について切磋琢磨をしていく姿勢を明確に示しました。

 そして、スズキの真骨頂である軽については「(全ての)軽自動車が(早い時期に)EVになるとは思えない」という考えです。

 なぜならば、軽自動車は様々な人たちが日常生活や仕事で使う「生活車」であるためだといいます。

 軽自動車には様々な需要や使われ方があり、それを一律、EVに切り換えることは現実的ではないという発想からの発言だと思います。

 そのうえで鈴木社長は言葉を選びながら「EVがお客様を選ぶという感覚も大事ではないか」といいます。

 つまり、全てのユーザーの要求に合うようなEVを、今の軽自動車のようなイメージで商品化することは難しく、使い方をある程度限定させる前提とすることが、軽EVとしての当面の役割ではないか、という意味合いだと筆者は受け止めました。

 さらに、鈴木社長は「EVの第一弾、第二弾、そして第三弾とお客様と一緒に(段階的に)EVを育てていきたい」と表現しています。

 軽EVの価格については「(お客様としては)価格は安い方がいい。(近年導入している)軽自動車に対する(価格イメージの)リミットは200万円が基準」として、「100万円台に抑える必要があるが、(想定以上に電池価格が下がってきておらず、そうした新車価格にするための)ハードルは高い」と、胸のうちを明かしています。

 また、EVで重要な充電インフラについては「自宅での充電が基本だが、全国に120万カ所は必要」という個人的な見解を述べています。

 そのほか、サブスクリプションモデル以外で、新車EVを販売しない形式での事業構築についても、「所有から共有」という観点で営業部門と協議を進めていることを明らかにしています。

 現在、スズキ車の国内保有総数は1070万台。

 これが今後、どのタイミングで、そのようにEVシフトしていくのでしょうか。

 鈴木社長は会見の中で何度も、EV普及について「適材適所」という言葉を使っていたことが印象的でした。

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