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なぜ防寒具とクルマの「マフラー」は同じ発音? 用途異なるも「包む」は共通 歴史的背景に見る語源とは

くるまのニュース 2023年2月3日 9時10分

クルマの「マフラー」と防寒具としての「マフラー」は、同じ発音を持つ言葉ですが、語源も同じなのでしょうか。そのルーツをたどってみました。

 防寒具の「マフラー」とクルマの部品となる「マフラー」は同じ発音を持つ言葉です。
 
 では、語源やルーツも同じなのでしょうか。

 首元を温めてくれるマフラーは、寒さの厳しい季節に必要不可欠なものであることはもちろん、冬のコーディネートのアクセントとしても重要な存在です。

 一方、クルマにある程度知見がある人であれ
「マフラー」と聞いてまず最初に思い浮かべるのは、排気管もしくはその周辺部品のことかもしれません。

 どちらも同じ「マフラー」ですが、そのルーツも同じなのでしょうか。

 クルマにおけるマフラーは、排気システム全体を指す場合や、外から見ることのできる部分だけを指す場合もあります。

 厳密にはエンジンから出る排気音の低減を担う「消音器」の部分を指します。

 実際、イギリスではマフラーを「静かにするもの」を意味する「サイレンサー(Silenncer)」と呼び、日本でもバイクなどでは「サイレンサー」を用いることが少なくありません。

 一方、アメリカやオーストラリアでは、マフラーは日本と同様に「マフラー(Muffler)」と表現されます。

 英語における「Muffler」は「Muffule」に接尾辞の「-er」を加えたものですが、この「Muffle」という単語を辞書で調べると「(音などを小さくするために)何かを包む」という意味があることがわかります。

 ただ、この説明は、クルマのマフラーにおける用法が定着したことをうけてのものと見られます。

 英語の文献をひもとくと、「Muffule」という単語自体は、1400年代初頭には、「何かを包んで保護すること」という意味で用いられていることが確認されています。

 1500年代半ばになると、「首元を包むもの」という意味で「Muffule」が用いられるようになります。

 ただ、当時は防寒具というよりも、女性が顔の下部を隠すためのものであったようです。

 防寒具としてのマフラーが定着しはじめたのは、1700年代後半とされています。

 当時のフランスでは、ドレスのための防寒具と装飾品として、カシミアや毛皮のマフラーが用いられていたようです。

■なぜマフラーは「消音する」という意味を持ったのか?

 一方、「Muffle」が「消音するもの」という意味で用いられたのは、1700年代前半の頃とされています。

 当然のことながら、クルマに関するものではなく、それは手漕ぎの舟に関連するものだったようです。

 手漕ぎの舟では、オールの支点となる「オールロック」が重要な役割を果たしますが、大きな負荷の掛かる部分でもあるため、漕ぐたびに大きな音を発します。

 その音を防ぐために、「オールロック」およびその周辺を布などで覆うことを、「Muffle」と表現したようです。

 つまり、もともとは「何かを包んで保護するもの」という意味であった「Muffle」が、1700年代に「(女性の)首元を包み温めるもの」ものと「(オールロックを)覆って消音するもの」という2つの意味へと派生していったと考えられます。

最近のクルマでは後方からマフラーが見えづらくなっている?(画像は新型プリウス)

 もともとは「包んだり覆ったりする」という同じ行為を指し示す言葉だったのが、現代では「防寒」と「消音」という、行為の結果による機能を指し示す言葉へと変遷していったのは、言語学的観点から見ても興味深い事例といえそうです。

 その後、1850年代には機械工学における「消音器」という意味で「Muffle」が使用されたことが確認されています。

 それがクルマに対して用いられるようになったのは、世界最初のクルマのひとつとされるメルセデス・ベンツ「パテント・モトール・ヴァーゲン」が登場してからおよそ10年の月日が経過した、1895年頃のようです。

※ ※ ※

 ちなみに、「Muffle」という単語をさらにさかのぼると、フランス語の「Moufle」に行き着くようです。

「Moufle」は現代語としても残っており、厚手の手袋という意味での「ミトン」を指します。

 つまり、防寒具としてのマフラーとクルマのマフラー、そしてミトンは、共通の祖先から派生した言葉ということができます。

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