斬新な電制式のボタンシフトの採用で、デビュー早々に話題を呼んだ日産の新型「セレナ」ですが、操作性はどうなのでしょうか。安全性も含めた実際の使い勝手について考えます。
■安全性を担保し操作し間違えないように設計された電制シフト
日産は2022年11月28日、人気ミニバンの新型「セレナ」をフルモデルチェンジしました。
新型セレナでは、従来のシフトレバーを廃止し、電制式の「ボタンシフト」へ刷新したことに対し、押し間違いなどを危惧する声がSNSなどでみられますが、実際のところどうなのでしょうか。
日産屈指の人気モデルであり、昨年11月にフルモデルチェンジしたのがミニバンの新型「セレナ」です。
室内の広さや使い勝手の良さで人気を集めてきたのが歴代セレナでしたが、6代目となる新型は、さらに新たな価値をプラスしてきました。それが「先進性」です。
その象徴ともなるのが、日産の誇る先進運転支援システムである「プロパイロット2.0」を最上位グレードへ採用したことになります。
これは高速道路などの自動車専用道でのハンズオフ(手離し)での運転支援を実現するもの。ミニバンとして世界初の採用となります。
また、インテリアでも先進性を印象づける装備のひとつが、日産初採用となる「スイッチタイプの電制シフト」です。
これはシフト操作を、従来のレバーではなく、スイッチとしたもの。しかも、配置されているセンターコンソールは、ツルツルのパネル表面です。
そこに、左から右に「P」「R」「N」「D」と一列にスイッチが並んでいます。このスイッチを押すことで、前進、バックなどのギヤ操作をおこなうというわけです。
ちなみにツルツル表面のコンソールには、タッチセンサー式のエアコン操作ボタンも示されています。
このコンソールと、スイッチシフトを見れば、誰もが「押し間違いはないのか?」と心配になるのではないでしょうか。正直、筆者も見た瞬間に脳裏に浮かびました。
とはいえ、冷静になって考えれば、日産のような世界規模の自動車メーカーが安全性を検証しないはずはありません。
万一、問題があって事故が起きてしまえば、その賠償金やメーカーとしての信用失墜としての損失は、まさに天文学的な額になることでしょう。当然、そんなことにならないように日産も、しっかりと検証しているはずです。
実際のところ、操作での間違いがないような対策も用意されています。
まず、シフトポジションを変更するにはブレーキペダルを同時に踏むことが必須。もしも「D」モードのときにブレーキを踏まないで「R」ボタンを押しても、操作は無効になって「N」に入ります。また「R」に切り替えるとブザーが鳴ります。
そもそも、操作はスイッチですから、レバーのように手探りではなく、操作ごとにスイッチを視認するはず。毎回、目を向けるのは面倒くさいかもしれませんが、それだけ間違いが起こりにくいのではないでしょうか。
また、スイッチの形状にも工夫があり、よく見れば、「R」のスイッチだけ微妙に左右に大きく、しかも突起があります。手探りで操作しても、判別はできるようになっているのです。
■強いインパクトに思わず反応したらそれは「日産の狙い通り」!?
そして、スイッチのシフトは「日産としては初」となりますが、世界初ではなく、他メーカーではすでに広く採用されているのです。
日系メーカーでいえば、ホンダが数多くの量産モデルで採用しています。
日産よりも大ぶりですが、ホンダでは「ホンダe」「ステップワゴンe:HEV」「Z-RV」「シビックe:HEV」のシフトは、すでにスイッチ式(ボタン式)になっています。
海外メーカーでも、スイッチのシフトは、それほど珍しいものではありません。ダイヤルとして回すタイプのシフトスイッチも存在します。
近年、こうしたスイッチ式シフトが増えたのは、クルマの電気制御の進化が理由となります。いわゆる「バイ・ワイヤ」技術です。
トランスミッションというギアを、リンクで物理的につないで操作するのではなく、電気的にスイッチで操作できるようになっているのです。
トランスミッションをリンクで物理的に操作するには、どうしても操作レバーの配置に物理的な制約が生じます。一方スイッチなら、どんな場所にも配置することができるのです。インテリアのデザインの自由度が一気に高まることになります。
そうしたインテリアデザインの自由度を活かしたのが、今回の「セレナ」のスイッチシフトです。
日産が新型「セレナ」の発表時に行ったプレゼンテーションでは、スイッチシフトのことが「先進感」「すっきりとした見栄えのよさ」と説明されていました。
プレスリリースにも「すっきりとした見た目」と「わかりやすい操作性」だとあります。シフトをスイッチにしたことで、「先進感」や「すっきり」「わかりやすさ」が演出されているというのです。
確かにツルツルのセンターコンソールに並ぶスイッチという見た目は、インパクト大でした。だからこそ、「それって、大丈夫なの?」と心配になってしまったわけです。
しかし、冷静になって考えれば、心配になるほど強い印象を残すことができたということ。これこそ、日産の狙いだったのでしょう。