クルマに乗る際に「暖機運転」をしていたという人もいるかもしれませんが、今はどのクルマも推奨されていないといいます。なぜなのでしょうか。
■かつての常識「クルマの暖機運転」 今は不要?
機械が十分に暖まってから負荷をかけた運転を行うことを「暖機運転」といい、クルマでも用いられる言葉です。
そんな暖機運転ですが、今のクルマでは不要になっているようです。
さまざまな機械における暖機運転とは、始動してから一定時間は負荷をかけないで運転することを指します。
暖機運転の目的として、機械を使い始める時は金属や潤滑のためのオイルなどが冷えているため、摺動部が滑らかでなく本来の性能を発揮できないという理由があります。
これはクルマにも同じことが言え、かつてのクルマでは出発する少し前にエンジンを始動しておき、十分に温まった状態で走行するのが一般的でした。
さらに、クルマの燃料噴射装置に「キャブレター」という装置が用いられていたことも暖機運転が行われていた理由として挙げられます。
このキャブレターの特性として冷間時は燃料の噴射量が安定しないことがあり、始動してからある程度時間を置くことによってアイドリングを安定させる目的がありました。
キャブレターのクルマを扱ったことのある自動車整備士A氏は暖機運転について以下のように話します。
「エンジンを始動してしばらく置いておけば、エンジンに付随する冷却系統や補機(パワーステアリングのポンプや発電機、エアコンのコンプレッサーなど)もエンジンの熱とともに徐々に温まってくるため、本来の性能を発揮できるようになります。
エンジンの『血液』や潤滑作用をもつエンジンオイルも暖まってくることもあるので、エンジン自体もスムーズに動かすことができます。
さらにキャブ車(キャブレター車)では、暖機運転をすることで燃調(燃料噴射量のこと)も安定することから、排気ガスも臭くなくなりクルマにも優しいので、習慣的にやっている人がほとんどだったと認識しています」
そんな暖機運転ですが、今のクルマでは「暖機運転は不要」と取扱説明書に記載されるなど、推奨されていません。
なぜ今のクルマでは暖機運転が不要なのでしょうか。
前出の整備士は「今のクルマは燃料噴射装置に、従来のキャブレターに代わって電子制御のインジェクションを採用していることがほとんどなので、暖機運転をしなくても冷間時から安定しています。そのため、説明書にも暖機運転が必要であると記載していることはほとんどありません。
また、エンジン本体の組付け精度が高くなったことや、エンジンオイルの潤滑性能などが向上している傾向にあること、補機類が電動化されるなど、パーツが温まるまで待たなくても十分な性能を発揮するようになった点も理由です」といいます。
加えて、近年では環境問題や騒音防止の観点から、都道府県条例などの決まりでアイドリングそのものを避けるように呼びかけられていることも、暖機運転が推奨されない理由のひとつとして考えられます。
トヨタは公式サイトのQ&Aコーナーで、暖機運転が必要かどうかという質問に対し、「通常、暖機運転は必要ありません」と回答しています。
ハイブリッド車に対しても、「ガソリンエンジンが冷えているときは、ガソリンエンジンの始動/停止を自動的におこないますので、暖機運転は必要ありません」と回答しています。
■どんなに寒くても「暖機運転不要」? すぐに「全開加速」はOK?
クルマの性能が向上したことや、環境・騒音問題などの理由から、今のクルマでは「暖機運転」が不要とされています。
では、どのような状況であっても暖機運転が不要なのでしょうか。
前出の整備士は暖機運転を行ったほうが良いケースについて以下のように話します。
「暖機運転は不要とは言っても、氷点下10度を下回るような極寒冷地では、エンジンルーム内の温度も非常に低温になっていることもあり、パーツ類やオイルが過剰に冷却されていることが予想されます。そうした状況では、できる範囲で暖機運転をしたほうが望ましいでしょう」
トヨタは公式サイトのQ&A上で暖機運転が必要かどうかという質問に対し、「通常、暖機運転は必要ありません」と回答していますが、以下のような但し書きがされています。
「ただし、極端な低温時や、しばらくおクルマをご使用されなかった場合は、数十秒間の暖機運転をおこない、ゆっくり発進することをおすすめいたします」
氷点下を大きく下回る時など気温がかなり低い状況では、各オイルや冷却水なども含めてエンジンも同様に冷えた状態となります。
極低温下では、高性能化が図られた現代のクルマとはいえ、ある程度は温めてあげたほうが本来の性能が発揮できるようです。
性能以外の面でも低温下ではエンジンやトランスミッションなどをはじめ、動作する各パーツが凍結していると破損をまねく恐れもあるため、短時間でも暖機したほうが良さそうです。
また、前出の整備士は暖機運転ではなく「暖機走行」というものもあるといいます。
「少し古いクルマに乗るユーザーにはオススメしていますが、暖機運転よりも『暖機走行』は心がけておきたいですね。
暖機走行は走りながらクルマを温めることを言い、エンジンの水温計がおおむね真ん中を指すくらいまでは、回転数を上げすぎないで運転するほか、ステアリングやブレーキもいつもより優しく操作することです。
そうすると、エンジンやトランスミッションなどが十分に温まるのに加え、古いクルマでは劣化しやすいゴム・樹脂パーツも徐々になじんでくるので、クルマに優しいといえます。
高速道路のインターが出発地点から近くにあり、クルマが温まり切っていないのに合流をするためにアクセルをベタ踏みするといったことはぜひとも避けていただきたいです」
人間でたとえるならば、暖機走行は激しいスポーツを行う前に、軽いジョギングやストレッチをすることで身体を温めて筋肉をほぐしてからスポーツをするイメージです。
クルマも人間と同様に、「寝起きで全力ダッシュ」をしてしまうと故障の原因となるようです。
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このように、暖機運転は現代のクルマでは不要なものとなりましたが、その一方で極低温の環境では推奨されることもあるほか、気温の高低に関わらず乗り始めてすぐに大きな負荷をかける走行をしないことが、愛車を長持ちさせる秘訣のひとつだといえます。