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EV版「GT-R」も出る!? 日産のEV戦略「上方修正」で日本はどうなる!? 世界的な追い風に「乗れる」のか

くるまのニュース 2023年3月3日 8時10分

日産は2023年2月27日、2030年に向けた電動化の長期ビジョンを「上方修正」し、電動化比率を高めるとしました。世界、そして日本ではどのような背景があり今回の長期ビジョンの変更となったのでしょうか。

■中国や欧州、そして日米で異なる「電動化戦略」の取り組みとは

 2023年2月27日、日産が「電動化戦略の取り組みを加速させる」と発表しました。
 
 何に対して「加速させる」かといえば、それは2021年11月29日に公表した長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」です。

 Nissan Ambition 2030では、今後5年間(2021年時点で2026年)で約2兆円を投資して、2030年度までにEV15車種を含む全23の新型電動車を導入。グローバルで電動車率を50%以上にするとしていました。

 これに対して今回の発表では、2030年度までの投入計画を、EV19車種を含む全27車種とし、2030年度時点で日産、インフィニティを合わせてグローバルで55%以上にする、と軌道修正しています。

 さらに注目されるのは、地域別での電動車販売比率の見通しでしょう。

 欧州は、75%から98%に大幅に拡大。中国は、40%から35%に若干減少。アメリカでは、2030年度までにEVのみで40%以上で、変更なし。

 そして、日本では55%から58%へ微増、としています。

 では、Nissan Ambition 2030発表から今回の電動化戦略加速の発表まで、1年2ケ月という比較的短い期間で、世の中がどう変わったというのでしょう。その上で、日本での日産の電動化は今後、どうなっていくのでしょうか。

 まずは、海外の動きから見てきます。

 欧州では、規制のさらなる強化と、それに伴うルノー日産三菱アライアンスの立ち位置の変化があります。

 2010年代から協議されてきた欧州グリーンディール政策の中で、CO2排出量の削減を求める「Fit for 55」を軸足として、欧州内では国や地域による経済政策に関する政治的な駆け引きが強まったことがあります。

 それが2022年後半から最終的な協議となり、「FIT for 55: zero CO2 emission for new cars and vans in 2035」という法案として、2023年2月14日にEU(欧州議会)が正式に承認しました。

 これによって、2035年に欧州内で新車販売される乗用車と小型商用車(バン)は、ZEV(ゼロエミッションヴィークル)となります。

 欧州におけるZEVは、現在のところEVまたはFCV(燃料電池車)を意味し、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)は含みません。

 日産が欧州の規制へ効率的に対応するためには、ルノーが新設するEV関連企業「アンペア」と日産の関係などを明確化する必要がありました。

 さらに、ルノーグループと日産の株式保有比率を含めた総括的な議論がまとまったことが2月6日に発表されたことは、多くの人にとって記憶に新しいところでしょう。

 そして、ロシアのウクライナ侵攻によって、欧州はもとより、グローバルでエネルギーセキュリティ(エネルギー安全保障)に関する考え方が大きく変わりました。

 その上で日産としては、EV専用車の導入はもとより、2030年、そして2035年に向けて市場動向を見る一方で、EVシフトへの橋渡し役として、e-POWER(HEV)搭載車の適宜活用を視野に入れていると思われます。

 次に中国ですが、今後の市場を見通すのはとても難しい局面にあると言えるでしょう。

 中国では、2000年代後半から新エネルギー車の普及を進めてきましたが、EV普及は想定以上に時間がかかった印象があります。技術面、インフラ面、そしてユーザーにとっては購入補助金の変化など、多様な要因があると思われます。

 確かに、2022年は中国のEVメーカー「BYD」が躍進するなど、販売台数だけ見ると、直近の中国はEV市場が自立してきたような印象があります。

 それでも市場を俯瞰(ふかん)してみると、日産として2026年目標で「40%から35%」へと需要削減を示さぜるを得ないほど、市場の先読みが難しいのだと思います。

 他の地域に先んじて2024年に中国専用EVを導入し、市場の様子をしっかりと見ていくことになりそうです。

■政治主導によるEVシフトの兆候がみられない日本の将来とは

 一方、対アメリカ市場では、これまでの計画を変わらずとしました。

 アメリカでの電動車については、日産に限らず多くのメーカーが、ユーザー目線での電動車というより、製造者目線での難題が山積している状況です。その筆頭は、IRA(インフレ抑制法)です。

 電動車に係る部品等の製造国が限定されるため、アメリカで新車製造している全ての自動車メーカーがその調整で早急な対応に追われているところです。

 今回の日産の会見でも、EVなど電動車の製造工場に関して、メディアの注目が集まったのはそのためです。

ガソリンエンジンにおける最高峰の高性能車である日産「GT-R」も、2030年には「EV」化されたハイパフォーマンスカーとなっているかもしれません

 アメリカでは今、「テスラ効果」によって、他のブランドに対しても一部のユーザーや一部の販売店は「もっとEVラインアップを増やして欲しい」という要望があるのは事実です。

 しかし市場全体として、ユーザーや販売店がEVシフトを歓迎しているとは言い切れない状況だと思います。

 日産としては、今後のアメリカ政権の変化を慎重にウオッチしながら、フレキシブルな電動化戦略を駆使していくのではないでしょうか。

 このように海外では、規制や政治的な背景によって、今後の電動化市場が変化していきます。

※ ※ ※

 では、日本での電動化市場はこれからどうなっていき、それに日産はどう対応するのでしょうか?

 本稿執筆の2023年2月時点で、日本にはクルマの電動化に関する販売比率などの規制はありません。

 政府の「グリーン成長戦略」や「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」の中で示された、2035年電動化100%は達成目標に過ぎません。

 この電動化とは、HEVやPHEVも含まれるという解釈です。

 さらに日本自動車工業会では、既存のガソリン・ディーゼルエンジンを応用するカーボンニュートラル燃料や、次世代バイオディーゼル燃料、さらに水素燃料などの量産に向けた研究開発を進めています。

 つまり、日本では欧州のような政治主導でのEVシフトの兆候はいまだになく、アメリカと比べてもユーザーや販売店からのEVに対する要望も限定的なのです。

 そうした中で、欧州規制の影響もあり、輸入車では欧州ブランドのEVが国内へ続々と上陸を果たしています。

 また米国「テスラ」ブランドに対する支持も増え、韓国や中国からのEVも登場していますが、日系EVは当面の間、比較的安価な軽EVが主役という市場の流れになりそうです。

 そのため日産としても、日本でのEVモデル市場導入は、欧州・中国・アメリカでの実需を踏まえて、段階的に考慮することになると見るのが妥当ではないでしょうか。

 また軽EV市場には今後、ホンダ、スズキ、ダイハツの参入が発表されていることから、日産としても三菱と共同開発する軽EVの多モデル化を検討するはずです。

 そして日産が示した2026年という、今から比較的短い通過点で電動化率を上げるのは、e-POWER搭載モデルのさらなる拡充が第一となるでしょう。

 さらにその先の2030年代には、次世代日産のイメージリーダーとして、例えば「GT-R」のEV化などが話題になるかもしれません。

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