日ごろ当たり前に使っている言葉のなかに、よくよく考えたらおかしな単語だとふと気付くことも。その1つが「ミニバン」です。例えば国産高級ミニバンのトヨタ「アルファード」「ヴェルファイア」兄弟は、堂々としたスタイリングでサイズも大きめ。改めて“ミニバン”の由来について考察します。
■ミニバンの語源は「アメリカ」からだった
現在、ファミリー層を中心に絶大な人気を集める3列シートの「ミニバン」カテゴリーですが、多彩な車種があり、その中には車体の大きなトヨタ「アルファード」「ヴェルファイア」なども含まれます。
ではミニバンにはなぜ、このように全然“ミニ”ではない車種も含まれるのでしょうか。そしてなぜそもそも「ミニバン」と呼ばれるのでしょうか。
トヨタのミニバンラインナップの中で、最もコンパクトなのは全長4.3mほどの「シエンタ」です。
一方で、全長5m近い「アルファード/ヴェルファイア」や、全長5.3mという巨大な「グランエース」でさえも、「ミニ」と称することに違和感を覚える人も多いのではないでしょうか。
さらにこれらは乗用車であり、「商用バン」ではないのに“バン”と呼ぶのも妙に思えます。
しかしこのミニバンという言葉は、語源的には間違っていないのです。
というのも、1980年代中盤のアメリカで、「フルサイズバン」に対する「小さいバン」を“ミニバン”と呼ぶようになったことが始まりだからです。
フルサイズバンとは、文字通り大きな車体を持った商用バンです。ワンボックス型ではなく、小さなボンネットを備えており、強靭なトラックのシャシを使用して構築されるのも特徴です。
1985年頃のアメリカン・フルサイズバンを振り返ると、GMでは「シボレー バン(Gシリーズ)」、フォードは「エコノライン(Eシリーズ)」、クライスラーが「ラムバン(Bシリーズ)」を販売しています。
いずれも全幅は約2m以上あり、長い車体で全長5.5mオーバー、5リッター 直6や5.7リッタークラスの巨大なV8エンジンを搭載していました。
日本で例えるなら、マイクロバスや4トン級トラックのような大きさで、国内のサイズ感とは何かもが桁違いに大きいのが特徴です。
フルサイズバンには乗用モデル(ワゴン)も設定されたほか、内装を豪華に飾ったコンバージョンも盛んに行われました。
しかし1970年代のオイルショックをきっかけに、アメリカ車全体がグッとダウンサイジングしました。
その影響を受け、クライスラーは1983年にコンパクトで手に入れやすい価格のバンを企画。ダッジ「キャラバン」とプリムス「ボイジャー」(以下ボイジャー)として発売を開始しています。
Kカーと呼ばれるFF(前輪駆動)乗用車のプラットフォームを使用してフロア高を下げ、操縦性や静粛性・快適性も向上していました。
すでに当時からスライドドアも備えており、ボイジャーが世界における“元祖ミニバン”のひとつといっても過言ではありません。
さすがのアメリカでも、従来のフルサイズバンでは持て余すユーザーも少なくなかったようで、サイズ感がちょうど良いボイジャーは好調な販売を記録。そして「フルサイズバン」に対して「ミニバン」と呼ばれるようになったのです。
あくまでも米国基準で“ミニ”だったということなので、日本では大きいクラスのアルファードでもミニバンと呼ぶのは、本来の意味からすれば間違ってはいない、ということになります。
ちなみにアメリカでは、乗用・商用の境なく「バン」と称していたことも加えて記しておきます。
実際にボイジャーの商用バンは、ダッジ「ミニラムバン」と名付けられていました。
新たな市場を築いたミニバンの出現に、ライバルのGMとフォードも追随。
GMは「アストロ」を、フォードは「エアロスター」を1985から1986年に相次いで発売しました。ただしボイジャーとは異なり、FR(後輪駆動)を採用していました。
■世界初のミニバンは日本発?欧州では「ルノー」が追随
一方で、米国のボイジャーよりも早く、日本でも先行してミニバンに相当する新型車が生み出されていました。
それが、1982年に日産が発表した「プレーリー」です。
ボンネット付きで背が高い1.5ボックス型の車体、スライド式のリアドア、3列シートでアレンジも豊富というプレーリーの基本設計は、現代のミニバンに通じる要素をすでに有していました。
さらに翌年には、リアドアこそヒンジ式でしたが、発想をプレーリーと同じとする三菱「シャリオ」も登場しています。
しかし当時はまだ、日本にミニバンというジャンルは存在せず、プレーリーやシャリオも、セダンやワンボックスワゴンの発展型と認識されていなかったため、中途半端なイメージとなってしまった両車はあまり売れませんでした。
その後1994年に登場し、その後のミニバンブームの火付け役となったホンダ 「オデッセイ」でさえ、当初はミニバンと称されていません。
当時は、SUVやステーションワゴンといった新興勢力がセットで「RV(レクリエーショナルビークル)」とざっくり総称されていたくらいです。
そんななかでミニバンという言葉が普及したのは、諸説あるところですが、1990年代に前述のアストロが日本にも上陸した際、新ジャンルのクルマとしてミニバンと呼んだことが始まり、というのが有力な説です。
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アメリカや日本でミニバンの元祖というべきモデルが相次いで登場する頃、欧州では1984年、ルノーの3列シートミニバン「エスパス」がデビューしています。
ボンネットとフロントウィンドウの角度がほぼ同じというワンモーションフォルムは、その後世界のミニバンスタイルにも影響を与えています。
こうして世界中で浸透したミニバンに次いで、現在ではクロスオーバーSUVが台頭しています。余談ながら、SUVという言葉もアメリカからやってきた名称でした。
今後もミニバンが生まれたような契機を経て、新たなジャンルのクルマが登場するかもしれません。