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「かまぼこ」老舗がホンダと実証実験!? 上々の「成果」で1年延長へ 「異業種コラボ」に新たな展望が開く

くるまのニュース 2023年4月5日 13時10分

ホンダが2022年春に開始した、かまぼこ老舗メーカー「鈴廣」(神奈川県小田原市)との共同実証が好調な成果を出したことから、1年延長することが明らかになりました。自動車メーカーと異業種間のコラボに一石を投じる成功事例として注目されます。

■老舗企業とホンダが取り組む環境活動の新たな姿とは

「かまぼこ」とホンダEVの組み合わせとは、なんとも面白い!

 今からおよそ1年前の2022年2月24日、老舗かまぼこメーカーの鈴廣(神奈川県小田原市)とホンダが「エネルギーマネージメントの共同実証を開始」という発表を見て、異業種同士のコラボレーションに興味を持った人も少なくなかったでしょう。

 これはEV(電気自動車)を蓄電池として活用し、EV・建物間で効率的に電気を融通する取り組みでした。

 この実証は、当初の計画では期間が2022年2月から2023年2月までとされていました。

 筆者(桃田健史)は、実証の最終段階で現場を見たうえで1年間の感想などが聞きたいと思い、ホンダ本社と鈴廣本社の双方に問い合わせたところ、ホンダから「実証は2024年2月まで延長することになった」との回答がありました。

 なぜ、実証を延長することになったのでしょう。

 それを詳しく知るために、2023年3月末、神奈川県小田原市内の鈴廣本社を訪ねてみました。

 まずは「そもそも、なぜホンダとEVの実証をすることになったのか」について、鈴廣蒲鉾本店の経営管理チーム業務改革部次長 兼 施設技術課課長の廣石 仁志氏に聞きました。

 廣石氏は次のように説明します。

「2021年夏前に小田原市を通じてお話が来ました。弊社は環境やエネルギーに関して、平素より小田原市との付き合いがあります」

 鈴廣はホンダからの提案が来る前の時点で、自社の環境ステートメントを公表しており、その活動として再生可能エネルギーへの取り組みや、資源環境型ビジネス、小田原ひのきの活用、そして森づくり活動などを行ってきました。

 例えば、かまぼこを作る時に出る魚のアラや、自社で製造する箱根ビールの絞りかすから良質な魚肥を作り、それを使用した農産物を鈴廣の商品に使っています。

 また、2015年9月に完成した本社では、一般的な商品として使うことでできなくなった小田原ひのきの間伐材を鈴廣が買取り加工して、階段、床、天井などに使用し資源の地産地消に努めてきました。

 さらに同本社には、太陽光発電、井戸水を利用した熱源装置、そして自然光の活用などを取り入れたZEB(ゼロ・エミッション・ビルディング)として設計しています。

 そのため、鈴廣が独自にBEMS(ビルディング・エネルギー・マネージメント・システム)を導入してきました。

 同席した本実証試験のホンダ側の責任者である本田技術研究所 先進パワーユニット研究所 PUシステム開発室 第1ブロック チーフエンジニアの貞野 計氏は、鈴廣が日頃から行ってきたデータの集積が、今回のEV実証に大いに役立ったと指摘します。

「本田技術研究所と小田原市との間で環境関連の事案について協議した経緯があり、そのなかで小田原市を介して鈴廣さんとつながりました。

 過去2年間のBEMSデータを頂いたことで、適切なソフトウエアを早期に稼働されることができました」

 実証実験では、鈴廣のBEMSに、ホンダが独自開発した「ホンダ・パワーコントローラーeコンセプト」を組み込む形となったのです。

 現在稼働しているEVは、ホンダが用意した「ホンダe」5台。それぞれがニチコン製のEVパワーステーションとつながっています。

 EVパワーステーションとは、EVへの充電に加え、EVの大容量バッテリーから電力を取り出し、外部への給電を行うシステムを指します。クルマ側の接続は、急速充電に使う「CHAdeMo(チャデモ)」用コネクターを使用します。

 そのうえで、実証の具体的な方法としては、大きくわけて3つあります。

■「鈴廣×ホンダ」の取り組み 1年後の成果とは

 実証の具体的な方法の1つ目は「EV保有エネルギー予測アルゴリズム」による運行管理です。

 2つ目が「WebアプリとしてBEMS管理システム」で、そして3つ目が「Webとスマホアプリでの運行管理システム」です。

 要するに、本社社屋の電力需給をベースに、5台の「ホンダe」をいつどのように使用したり充電することが、鈴廣の業務効率を上げながら、電気代を安くすること、さらにCO2排出量を削減することにつながるのか、ということを探るのです。

 また、短時間で電気使用量が跳ね上がるようなピークを抑える「ピークカット」を考慮することで、電気使用量の平準化を目指します。

「鈴廣×ホンダ」実証実験のシステム概略図[資料:本田技研工業]

 なお現状の電力会社の電気代の設定条件として、1年間で最も多く電気を使った30分間の「最大デマンド」が、次の1年間の電気の基本料金に反映するため、ピークカットの効果はとても大きいとも言えます。

 では、鈴廣×ホンダの取り組みにおいて、1年間の成果はどうなったのでしょうか。

 まず電力を主体とするエネルギーに関する経費については、導入効果は導入前との比較で24%減を達成しました。

 実証を通じて見えてきたさらなる方策を講じれば、同37%減が狙えると、ホンダでは見ています。

 さらに、CO2削減効果は、導入前に比べ46%と一気に半減となり、さらに機能を追加すれば89%減の可能性が高いと言います。

 つまり鈴廣、ホンダ双方にとって「もっとやってみたいこと」がはっきり見えてきたため、実証期間を1年延長することになったのです。

 次の1年間に向けて、本田技術研究所の貞野チーフエンジニアは各種のグラフなどを用いながら、さらなる挑戦に向けて意欲を見せます。

「コロナ禍で十分なデータがとれなかった夏期のピークカットデータを精査したり、予測アルゴリズムの継続的な進化など、実証すべきことはまだ様々なものがあります」

※ ※ ※

 EVの商用利用ではこれまで、高い収益性が見込めるサービスモデルを創り出すことが難しいとされてきました。

 しかし今回の事例のように、自動車メーカーが最新型EVを使い、企業の日常業務へ長期間に渡り深く関わり連携したうえで、さらに事業性の模索を主体とする社会実証は、筆者がこれまで取材活動を行ってきた経験のなかでも極めて珍しいケースだと思います。

 鈴廣×ホンダの成功事例は、今後のEV産業界に一石を投じることになるかもしれません。

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