ボンネットを有するクルマのボンネット(エンジンフード)は、前方が開く「後ろヒンジ式」がメイン。ところが、かつては後方が開く「前ヒンジ式」タイプのボンネットに加え、珍しい横開きのクルマも存在しました。ではなぜ現在、後者の採用は減ってしまったのでしょうか。
■現在のボンネットは「後ヒンジ式」が主流
ボンネットがあるクルマでは、エンジンフードのヒンジが運転席前にあり、車体前方が開く後ヒンジ式が主流です。
これは、ボンネット内にエンジンを置かない「リアエンジン車(RR)」や「ミッドシップ車(MR)」のボンネットも同様で、さらには昨今のEVでも、ボンネットがあれば基本的に後ヒンジ式が採用されています。
この後ろヒンジ式は、ボンネット前方が開く姿をワニ(アリゲーター)になぞらえて、「アリゲーター式」を呼ぶ場合もあります。
ところがかつてのクルマには、車体前方にヒンジを置いて後方が開く「前ヒンジ式」が数多く見られました。
「逆開き式」とも呼ばれるこのタイプでは、こちらもワニに例えて「逆アリゲーター式」と称されることも。トヨタ「2000GT」、日産「スカイライン(3代目・C10型)」日産「フェアレディZ(初代・S30型)」、マツダ「コスモスポーツ」、いすゞ「117クーペ」、いすゞ「ピアッツァ(初代)」などが採用例として有名ですが、そのほかにも、日産「Be-1」、日産「パオ」、マツダ「ファミリア(4代目)」などでも見られました。
輸入車では、「ルノー5」「ジャガー XJ」、1980年代までのBMWなどなど……枚挙にいとまがありません。
しかし、おおむね遅くとも1990年代にはほとんどが後ろヒンジ式に移行しています。
ただ前ヒンジ式が絶滅したわけではなく、シボレー「コルベット(7代目)」、ジャガー「Fタイプ」など、最近のモデルでも見ることができます。
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後ろヒンジ式と前ヒンジ式を比べてみると、車体前方が大きく開き、ラジエーター類にアクセスがしやすい後ろヒンジ式のほうが整備性は良好です。ではなぜ、かつてのクルマの多くは、前ヒンジ式を採用していたのでしょうか。
その答えの一つが「ロック機構」です。
後ろヒンジ式のデメリットとして、走行中にボンネット先端のキャッチが何らかのトラブルによって外れると、風圧でボンネットが開いて前方が見えなくなるというデメリットがあります。これを避けるために前ヒンジ式が選択されていました。
そのため、スポーツカーやレーシングカーでは、特に前ヒンジ式が好まれていました。しかし一方で前ヒンジ式の場合、衝突事故などの際に車内にボンネットが飛び込んできてしまうおそれもありました。
これを受け、「ダッシュボード付近にあるボンネットオープナーを引く」「車体前方に回ってロックを外す」という2アクションを経ないとボンネットが開かない「二段階(二重)ロック」が普及すると、後ろヒンジ式の採用が拡大していきました。
衝突安全の面でも、硬いヒンジ類のパーツの車体前方設置を避けた方が良いということ、そして前述の整備性の問題もあって、世界的に後ヒンジ式が選ばれるようになったのです。
■なんと横開き式ボンネットもあった!?
ボンネットの開き方は、戦前のクルマのように、車体中央を境に左右が跳ね上がるタイプも見られますが、さすがに「横開き式」は無いだろう、と思われたかもしれません。
ところが、量産モデルでボンネットが横に開くクルマが存在しました。
その一例が、チェコ(旧チェコスロバキア)の自動車メーカーで、現在はフォルクスワーゲン傘下にある「シュコダ」が1976年に発表した「105/120」です。
ボンネットのヒンジが運転席側のフェンダーについており、まさしく横ヒンジ式でした。
ほかにあまり類を見ない構造なだけなく、このクルマはなんとリアエンジン車。つまりボンネット内にはエンジンが無く、トランクスペースになっているという変わり種でした。
最後に、前ヒンジ式の興味深い開き方を紹介しましょう。それが、現在は消滅してしまったスウェーデンの「サーブ」が作っていた初代「900」です。
ボンネットオープナーを引くとボンネットの前方が持ち上がるので、後ろヒンジ式と同様にロックを解除しますが、その後はそのまま手前に引っ張り、ボンネットを落とすように開きます。
つまり、「後ろヒンジかと思いきや、実は前ヒンジ」という変わった構造でした。初代900の場合、エンジンが前後逆向きに搭載されており、頻繁に整備を行うベルト類・補機類が運転席側に装着されていたため、前ヒンジのほうが整備をしやすいという事情がありました。
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パワートレインがモーターとなるEVでは、フロントボンネットの中は収納スペースということも多く、エンジン車よりは自由な設計が可能です。
今後、EVが増えていくと、これまでの常識を超えた面白いボンネットの開き方が見られるようになるかもしれません。