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なぜ日産「リーフ」税額控除対象外に!? 今後の影響は? エネルギー安全保障や対中政策を盾にした米国の論理とは

くるまのニュース 2023年4月20日 8時10分

2023年4月18日、米国が実施しているEV(電気自動車)を対象とした税額控除で、バッテリー調達などの新たな基準が発令され、日産「リーフ」などのEVモデルが控除対象から外れるとの報道が話題を呼びました。日本にはどのような影響があるのでしょうか。

■部品まですべて「メイド・イン・アメリカ」でないとダメなのか!?

 アメリカのバイデン政権が「BEV(電気自動車)の税額控除対象をアメ車のみに限定する」とした話が、日本時間の2023年4月18日、ネットやテレビ・新聞などの報道で一気に広がりました。
 
 なかでも、アメリカで数多く販売される日産「リーフ」が、税額控除対象車から外れたことを強調するニュースも少なくない印象です。

 そうしたニュースに対して、SNS上ではアメリカによる「保護主義」、「エネルギー安全保障の強化」、そして「対中政策」といった言葉が目立つなど、政治色が濃い事案のような印象があります。

 アメリカの動きを、日本のユーザーはどう捉えれば良いのでしょう。直接的には関係のない、対岸の火事として傍観していても大丈夫なのでしょうか。

 まずは、簡単に今回の事案を振り返ります。

 法案としては、2022年8月16日に成立した、IRA(インフレ抑制法)が背景にあります。

 IRAの名称からすると、経済を引き締めるための法案のイメージを持つ人が少なくないかもしれませんが、実態は異なります。

 エネルギー安全保障や気候変動の観点から、脱炭素(いわゆるカーボンニュートラル)の関連産業への投資を促すもの、と解釈できます。

 ここでは「メイド・イン・アメリカ」が大きなカギとなります。

 BEVについては、車両としての最終組み立てをアメリカ国内で行うことを最低条件に、また電池やモーターなどBEV関連部品の調達や、その材料に至るまで「メイド・イン・アメリカ」、またはアメリカとの政治的・経済的なつながりが明確になっている国や地域からの調達を必要としています。

 こうしたアメリカが決めた条件に、日本、韓国、ドイツ、そして中国などの海外メーカーのBEVは現時点では合致しないと判断されたため、税額控除が受けられないというものです。

 一方で、アメリカメーカーであるGM(ゼネラルモーターズ)、フォード、そしてテスラのBEVは税額控除の対象となりました。

 オバマ政権の時にも、エネルギー省の事業としてBEVやプラグインハイブリッド車など先進的な次世代車を「メイド・イン・アメリカ」とするための低利子融資制度があり、日産、テスラ、フィスカーなどが対象となりました。

 ただしこれはあくまでもメーカーに対するもので、ユーザーに直接関係する内容ではなく、今回のIRAとは法案や施策としての方向性が違います。

 そうしたなか日本メーカーとしても、国ごとの対策が考えられています。

 ホンダはGMと協業して、GMが開発したBEVプラットフォーム「アルティウム」を活用し、2024年からオハイオ州でBEV生産と関連部品生産を開始することを明らかにしています。

 トヨタも、2025年を目途にBEVのアメリカ現地生産を始めることを2023年2月の記者会見で公表しています。

 また、日本の西村 康稔 経済産業大臣が2022年11月8日の閣議後の記者会見で、記者からの質問に答える形で、IRAにかかわるEVの税額控除について「これまでもあらゆる機会、あらゆるルートを通じて日本側の懸念を伝えて、表明している」と発言するなど、日本とアメリカの国同士の話し合いが進められてきました。

 それでも現時点においては、日本の要望をアメリカ側が受け入れていないといえるでしょう。

 今後の日米二国間協議を通じて、日本側としてアメリカ側からなんらかの合意を引き出すことが期待されます。

■EV投資に向けた国際間での「競争」が激化している

 一方で、アメリカ以外でも日本のBEVや電動車にかかわる話題がいろいろと出てきました。

 例えば中国では4月18日に上海モーターショー2023が開幕し、中国政府が普及を進めるNEV(新エネルギー車)政策の後押しで、新型BEVが続々と登場しています。

 日系メーカーも中国メーカーに負けじと、ホンダが「ほぼ中国専用」といえる「e:NP2プロトタイプ」と「e:N SUV序」を世界初公開したり、トヨタもBEVのbzシリーズとして、若者ユーザー向けの「bZ Sport Crossover コンセプト」と、ファミリーユーザー向け「bZ Flexspace コンセプト」を初公開し、2024年に中国市場に導入するとしています。

 また欧州では、欧州議会で「2035年以降、新車の乗用車と小型商用車は事実上、100%がBEVまたは燃料電池車」という内容を含んだ政策パッケージが可決されましたが、その後ドイツが「2035年以降も(再生可能エネルギー由来の合成燃料である)e-フューエルの使用」を要望し、結果的にその意向が反映されることになりました。

 これを受けて日本では、欧州でのBEVシフトが緩むとか、日本のハイブリッド車の必要性が高まった、といった論調のニュースやSNS上での感想が見受けられる状況です。

世界に先駆け2010年に量産化を開始したBEV(電気自動車)日産「リーフ」[写真は2代目モデル]

 このように、直近でのグローバルでのBEV市場の状況を俯瞰(ふかん)してみますと、自動車製造と販売で世界第一位の中国と第二位のアメリカ、そして自動車の技術領域で長年世界をリードしていたドイツを含む欧州で、自国や自身の地域で、BEVを活用した投資の呼び込み合戦が繰り広げられているような印象を受けます。

 そうした状況に対して、日本としてはメーカーによる業界団体である日本自動車工業会(自工会)が「カーボンニュートラルに向けた道筋はBEVに限らす、様々あるべき」、または「BEVの普及は、国や地域の社会事情によって大きな差があることを承知するべき」といった基本姿勢を貫いています。

 確かに自動車産業界として、技術面、そしてユーザー目線では、こうした考え方は正論だと言えるでしょう。

 一方で、アメリカ、中国、欧州は日系メーカー各社にとって重要な商圏であり、そこで今、政治主導での強烈な動きが目まぐるしく変化していることも事実です。

 こうした社会情勢を、改めて日本のユーザー目線で見てみます。

 日本市場では当面、自工会が主張する「カーボンニュートラルはBEVだけでは成り立たない」とする“正論”によって、すでに普及が進んでいるハイブリッド車を主流としながら、内燃機関向けの新しい燃料の開発が進み、BEVは地域性やユーザーの目的によって段階的に普及することが考えられます。

 また、中国で顕著なように、地域専用BEVの導入がさらに進むと、直接的な量産効果として日本市場向けBEVのコストが簡単に下がらないかもしれません。

 BEVのコスト削減には、日系メーカー各社が2020年代後半を目途に量産を進めようとしているBEV専用プラットフォームによって、日本市場を含めたグローバルBEVのコストダウンにつながることを期待したいところです。

 ただし、すべてがひっくり返る「大どんでん返し」についても、ユーザーは注視するべきかもしれせん。

 今後さらにアメリカ、中国、欧州での政治的な動きによるBEVシフトが急加速する場合、自動車産業界におけるBEVの技術面の観点だけはなく、日本政府として様々な国や地域との政治的なバランスを考慮し、国内BEVシフトに対するなんらかの措置を講ずる必要が出てくる可能性は否定できないのではないでしょうか。

 それほどまでに、BEVを筆頭とするエネルギー関連事業を取り巻く世界の動きは、先読みできない情勢にあると言わざるを得ません。

[編集部注記:見出し・本文の一部を修正いたしました(2023年4月20日午前10時55分)]

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