信号のない横断歩道で歩行者に譲られて進行したクルマの運転手が「横断歩行者妨害」として取締りを受けたケースが、SNSで話題となっています。基本的にクルマは、横断歩道に歩行者がいる場合、一時停止して進路を譲ることが義務付けられていますが、歩行者側から「お先にどうぞ」と合図を受けて走り出した場合でも違反となるのはなぜなのでしょうか。
■横断歩道で歩行者がクルマに道を譲るシーン!善意が歩行者妨害になることも?
SNS上では、「信号の無い横断歩道で歩行者に道を譲られたクルマが取り締まりを受ける」という件について、さまざまな論争が時折繰り広げられています。
基本的には歩行者に進路を譲ることが義務付けられていますが、では実際にドライバーが歩行者に道を譲られ進行した場合は、違反に該当してしまうのでしょうか。
信号の無い横断歩道をクルマで通行する場合は、ドライバーは基本的に「歩行者優先」であり、一時停止をするなどして歩行者に道を譲る必要があります。
さらに警察庁では「横断歩道は、歩行者優先であり、運転者には横断歩道手前での減速義務や停止義務があります」と注意喚起をしています。
実際、道路交通法第38条には「歩行者等がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。(中略)横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その進行を妨げないようにしなければならない(条文抜粋)」と記載されています。
万が一上記に違反した場合は「横断歩行者妨害」として、違反点数2点、普通車の場合は反則金9000円が科されます。
この交通ルールはクルマを運転するドライバーは誰もが認識しているマナーであり、該当する場面を走行する場合は必ず守らなければいけません。
一方で、クルマを運転していると「お先にどうぞ」と歩行者がクルマに道を譲る場面を見かけることもあります。
歩行者によっては、足が悪くて横断歩道を渡るのが遅いため、クルマに待ってもらうのは悪いと思い、クルマに道を譲ることもあるようです。
ドライバーは、身振り手振りやアイコンタクトで歩行者の意思を受け取り、クルマを進行させることもあるようです。
厳密にいうとこの行為は上記に挙げた「横断歩行者妨害」として取り締まりを受ける可能性があり、過去にも歩行者が良かれと思って道を譲ったクルマが歩行者妨害で取り締まりを受けた事例もあるようです。
では実際に、歩行者に道を譲られそのまま進行したクルマは「歩行者妨害」に該当してしまうのでしょうか。
首都圏にある警察署の担当者は、以下のように話します。
「一概に『必ず違反として取り締まりを受けます』と断言することはできません。
基本的に、歩行者妨害にあたるかどうかの判断は『道路の状況や歩行者に及ぶ危険がどれほどであったか』などが重要になります。
ただ、原則として、横断歩道ではクルマは徐行し、横断歩道を渡りそうあるいは渡っている歩行者がいないかを確認するために一時停止することになっています。
そのため、もし横断歩道を渡る歩行者がいる場合には歩行者を優先し、渡り切ったことが確認できたらクルマが通行してください。
また歩行者がクルマに道を譲ったとしても、その後方や反対側から渡ろうとする可能性もありますので、基本的には歩行者を先に渡らせてあげるのが良いでしょう」
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また関西圏にある警察署の担当者は「信号の無い横断歩道での『歩行者妨害』はその時々の状況により違反となるかの判断は難しいです。しかし、いつ人が渡ってきても良いように速度を落としておくほうがいいでしょう」と話しています。
■横断歩道の歩行者優先に対してSNSでも話題に…
この「横断歩道における歩行者の『お先にどうぞ』論争」は、SNSでも時折繰り広げられている様子を目にすることがあります。
実際にSNSでは、「歩行者はどんな状況であれ、横断歩道でクルマに道を譲らないでほしい。譲られてクルマが歩行者よりも先に進行したら取り締まりを受けるかもしれないので…」、「横断歩道で道譲る歩行者マジでやめてほしい…渡ったら捕まるから早く行ってほしい」と、「道を譲らないでほしい」といった声が多く見られます。
警察側では前述のように「状況により判断が異なる」といいますが、運転マナーやルールを教える教習所ではどのような見解なのでしょうか。
首都圏にある自動車教習所は「横断歩道には歩行者がいるかもしれないと思って近づくと良いでしょう」と話します。
また関西圏の自動車教習所では次のように話しています。
「基本的に教習所では、信号の無い横断歩道付近に人が立っている場合、必ず一時停止して歩行者に進路を譲ることを教えていました。
最近では教習生から『譲られた場合』の質問を受けることもあり、その場合『基本は歩行者を優先』と伝えています」
また、歩行者が一度道を譲ったのにもかかららず、クルマが動き出すまでの間で歩いてきたという事例もあるようです。
こういったことも鑑みると、歩行者を優先させるため、もし歩行者が道を譲ったとしても、ドライバーは身振り手振りで道を譲り返し、先に歩行者に横断歩道を渡ってもらう心がけが必要かもしれません。
さらに前出の警察署の担当者は「歩行者に道を譲られた場合でも『歩行者側を優先するのがよい』かと思います。また、歩行者側で渡らないで道を譲る意思がある場合は、1、2歩下がるなどをしてしっかり意思表示を示すのが良いでしょう」といいます。
このように、たとえ歩行者の善意であっても、横断歩道で歩行者を優先させなければ歩行者妨害となり、ドライバーは取り締まりを受ける可能性があるようです。
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近年では、多くのクルマがドライブレコーダーを搭載しています。
万が一トラブルになっても、歩行者が1、2歩下がって道を譲る意思をみせたことは考慮すべきポイントとなる可能性もあるため、ドライブレコーダーの映像は証拠となるかもしれません。