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「客のタイヤにわざと穴…」なぜ? 1本パンクで4本新品「タイヤ保証」で不正か 中古車販売店の内情とは

くるまのニュース 2023年5月9日 9時10分

中古車販売店がお客のクルマに装着されているタイヤをわざとパンクさせる行為が話題となっています。どのような事情からそのような行為に至ったのでしょうか。

■1本パンクで4本新品「タイヤ保証」とは?

 中古車の整備・販売を行う「ビッグモーター」では、度々不正行為が行われていたと報道されています。
 
 その中で「ユーザーのクルマのタイヤに穴を空ける」という行為が話題となっていますが、その実態とはどのようなものなのでしょうか。

 かつてビッグモーターでは、同社で中古車を購入したり、車検を受けたりしたお客に対して「タイヤ保証」というサービスを提供していました。

 契約期間は2年間で、期間内にタイヤがパンクした場合、ユーザーは工賃のみの負担で同レベルの新品タイヤに4本とも交換できる、という保証サービスです。

 請求の方法はパンクした箇所の写真を撮って保険会社に申請し、保険会社が認めればタイヤ4本分を注文し、ビッグモーター店舗で交換が行なわれます。

 そして保険会社からタイヤ4本分の代金(原価ベース)がビッグモーターに入金されるという仕組みです。

 後述しますが、この保証サービスを悪用しパンクしていないタイヤにわざわざ穴を空けてパンクさせ、タイヤ4本分の保険金(普通車上限10万円、軽自動車5万円※原価ベース)を不正に取得することがビッグモーターの元社員による告発で明らかになりました。

 さらには、報道によって保険会社にばれないよう穴を空ける方法を指南する動画の存在も明らかになっています。

 実際にパンクしたタイヤよりも高級なタイヤがパンクしたことにして保険金を請求し、お客のクルマには新品の安いタイヤを装着しその差額を店の売り上げに計上していたこともあったといいます。

 さらに、お客の所有ではない車検切れのクルマや廃車予定のクルマのタイヤを使って「架空請求」していた例もありました。

 タイヤ保証サービスを展開していたのは、ゼアーウィンスリーサービスという会社です。

 公式サイトの情報によると2016年からタイヤ保証サービスを開始。2023年3月9日現在の登録顧客数は248万6601件となっています。

 導入例として紹介されている企業は国産新車ディーラーや、中古車販売業者、タイヤ販売業者などが名を連ねており、そこにはビッグモーターの名前も未だ残っています(ビッグモーターにおいては、タイヤ保証サービスを悪用した保険金不正請求が発覚したことで、現在は廃止)。

 そもそも「タイヤ保証サービス」とはどのような保証なのでしょうか。西日本のビッグモーターで営業を担当していた元社員にまずはその加入方法から聞いてみました。

「タイヤ保証は当時加入出来るタイミングとして2系統(『1.車両販売時に加入/営業側で販売時のパックメニューに含まれる』『2.車検受注時コースに含まれる』)がありました。

 コースは、『基本コース』『低燃費コース』『安心コース』となり、1と2のパターンで保証を付けるため、タイヤ保証は単体で加入する保険ではありませんでした。

 普通車10万円(卸価格)、軽自動車5万円(同)を上限として、タイヤ1本がパンクしてもそれを含めて全4本が新品タイヤになる(期間中1回のみ)、という保証です。

 お客の負担は工賃のみでタイヤ交換工賃は、保証使用時は通常1500円の倍額となり1本3000円でした。

 タイヤ保証が付帯されるコース車検を選択してもらうことが車検単価を上げる簡単な方法なので、タイヤ保証を使用する前提でタイヤ劣化の進んだお客を勧誘していた節がありました」

※ ※ ※

 補足すると、「タイヤ保証のついたコース車検を選べば、後日、タイヤをわざとパンクさせて保険金を請求できるので劣化したタイヤが4本とも新品になります」という誘い文句で単価の高い「コース車検」を選ばせていた、ということになります。

 なお、タイヤ保証サービスについては運用方法などがコロコロ変わっており、他の店舗からの情報では一時期「1万円」の保険料を払ってパックではなく単独で保証を付けられたこともあったとのことです。

■不正請求の実態は? 客自身が不正請求に「加担」させられていたケースもあり

 いずれにしても契約期間は2年間で、期間内にタイヤがパンクするとパンクしたタイヤだけではなく他の3本も同時に新品となる保証サービスでした。

 保険金不正請求のパターンは各店舗で様々な方法がありましたが、全国のビッグモーターで行われていたとみられています。

 その「わざとパンクさせる」方法は、主に以下の手口です。

 ●整備や車検で預かった客のクルマのタイヤに客が知らないところでわざと穴をあける。

 保険会社に不審に思われないよう自然にパンクしたように見せる方法を動画などで指南していた店もありました。

 この場合、客には「タイヤがパンクしていましたので新品に交換させていただいています」と納車時に伝え、4本分の工賃1万2000円を請求します。

 特に対象となっていたのは、タイヤ保証サービス期間が終了間近のクルマや、溝がわずかに残っているツルツルのタイヤでした。

 ●お客自身が店に言われてタイヤに穴をあける。

「タイヤ保証サービスを使ってタイヤを新品に4本交換できます。だから、タイヤにくぎなどを刺した状態で来店いただければ4本とも工賃だけで新品に交換しますよ。」などと言って客に穴をあけさせる。

 お客にしてみれば、工賃1万2000円でタイヤ4本が新品になるので自身で穴をあけていたとのこと。

 ●「劣化で交換できる」と勘違いしたお客へのクレーム対応としてタイヤ保証サービスを使う。

 タイヤ保証サービスはあくまで事故としてのパンクやバーストが対象ですが、お客の中には『劣化で交換できる』と勘違いしている人も多くおり、クレームになるのを避ける為にお客に伝えた上でタイヤをパンクさせて交換していたこともあるといいます。
(保険会社に申請する写真を撮った後はパンク修理やスペアに交換するなどの応急処置をして安全に帰ることができるよう返却し、後日新品4本に交換)

なぜタイヤにわざと穴を開ける行為をやっていたのか?(画像はイメージです)

 なおこれら以外に、お客のクルマではなく、社員のクルマや廃棄予定、車検切れのクルマなどに穴をあけて不正請求していた例もあります。

 そして前出のゼアーウィンスリーサービスが提供する「タイヤ保証サービス」を引き受ける保険会社はあいおいニッセイ同和損害保険です。

 タイヤ保証サービスの悪用を2021年秋にあいおいに告発したビッグモーター元社員は次のように話しています。

「内部調査を行い、タイヤ保証サービスによる保険金の不正請求の実態が明らかになったようですが、あいおいはその結果を公表していません。

 ただ、2022年にビッグモーターではこのサービス自体が廃止されています」

※ ※ ※

 タイヤ保証による保険金の不正請求は全国のビッグモーターで行われているといい、完全な保険金詐欺と考えられます。

 しかし、ビッグモーターにおける数々の不正行為は車検、整備、販売、買取の各シーンでまだ他にも多種多様なものが存在するようです。

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