近年、トヨタやレクサスが力を入れている「ショーファーカー」。一般的には、後部座席にオーナーが乗る高級車を指しますが、時代の変化とともにその意味も変わりつつあるようです。
■ショーファーカーを拡充するトヨタ/レクサス
オーナーが後部座席に乗車することを主目的としたクルマを「ショーファーカー」と呼びます。
近年、トヨタやレクサスが力を入れているショーファーカーですが、いまの時代に求められるものとは、どのような要素なのでしょうか。
「ショーファー(chauffer)」とは、フランス語で「暖める」という意味を持ちますが、狭義では蒸気機関車や蒸気船などにおいて、機関部の始動や運転を行なう人のことを指します。
かつてのクルマはエンジンを始動する際に機関部を暖める必要がありましたが、クルマを所有することのできる富裕層の多くは、それを専門の使用人に任せていました。
多くの場合、その使用人は運転手も兼ねていましたが、機関部をあつかうというその役割が蒸気機関車などにおけるショーファーと類似していたことから、クルマにおいてもその名称が用いられるようになり、いつしかお抱え運転手のことを「ショーファー」と呼ぶようになったようです。
ショーファーカーの代表的な例としては、トヨタ「センチュリー」やロールス・ロイス「ファントム」、メルセデス・マイバッハ「Sクラス」などが挙げられます。
これらはいずれも車両価格が数千万円におよぶ超高級車であり、大型のセダンであるという共通点があります。
一方、近年ではSUVやミニバンをベースにしたショーファーカーも多く見られるようになってきました。
特に、近年の日本においては、トヨタ「アルファード」がその役割を担っており、「ショーファーカー=セダン」という図式は崩れつつあります。
そうしたなか、近年ショーファーカーに特に力を入れているのが、トヨタとレクサスです。
以前から存在するモデルとして前述のセンチュリー、レクサス「LS」、「LX(EXECUTIVE)」といったセダン、昨今ではショーファーカーとして使う人も増えてきたトヨタ「アルファード/ヴェルファイア」が挙げられます。
また2023年には、トヨタから新型「クラウンセダン」、そしてレクサスから新型「LM」が登場することが明らかになっています。
さらに次期型アルファード/ヴェルファイアがまもなく登場するという話や、センチュリーSUVというモデルの登場も噂されるなど、ショーファーカーに力を入れている様子が伺え、トヨタ/レクサスは世界で最もショーファーカーの選択肢が多いブランドのひとつとなります。
ただ、こうした状況において、そもそもショーファーカーとは何であるかを問う声も聞かれます。
■「セダン」や「大排気量エンジン」はショーファーカーの条件ではない
前述のように、ショーファーカーとはお抱え運転手によって運転されるクルマを指します。
とはいえ、ハッチバックやクーペをショーファーカーと呼ぶことは皆無であることを考えると、ショーファーカーと呼ばれるクルマには一定の条件があるようです。
実際、伝統的なショーファーカーの多くはセダンでした。そのことから、セダンであることがショーファーカーの必須条件のようにとらえられる場合があります。
ただ、これは論理関係が逆転してしまっているようです。
ショーファーカーは後部座席の快適性が最重要視されることから、ホイールベースを延長することで、より多くのレッグスペースを確保したり、路面からの突き上げを緩和したりしてきました。
ただ、ホイールベースが長くなればなるほど、走行安定性や衝突安全性を高めるためにできるだけ重心を低く保つ必要がありました。それらの条件を満たすボディタイプが、セダンであったというわけです。
一方、近年では技術の向上により、SUVやミニバンでも一定以上の走行安定性や衝突安全性を担保できるようになりました。
そうなると、セダンよりも居住性の高いSUVやミニバンは、ショーファーカーとしてより合理的であると言うこともできます。
また、多気筒の大排気量エンジンを搭載していることがショーファーカーの条件であると言われることもあります。ただ、これも論理関係が逆転してしまっている例のひとつです。
重量級のボディをなめらかに動かし、なおかつ静粛性の高さを求めるためには、これまでは多気筒の大排気量エンジンが適していました。
しかし、現在ではより小排気量のエンジンでもモーターによるアシストを加えることで、よりなめらかかつ静かに走行することができるようになっています。
つまり、これまでは技術上の課題などから、ショーファーカーに求められる要素を実現しようとすると、必然的に多気筒の大排気量エンジンを搭載したセダンとならざるをえませんでした。
ただ、現在では必ずしもそうする必要がなくなっています。
そうなると、ショーファーカーである条件は、その本来の意味に立ち返った「お抱え運転手が運転するクルマ」であれることだけが必要条件となります。
極端に言えば、どんなクルマであっても、ショーファーカーと呼ぶことができるというわけです。
こうした自由な発想でショーファーカーをとらえると、セダンはもちろん、SUVやミニバンのショーファーカーも成立します。
さらには、HVやBEV、FCEVなどのさまざまなパワートレインのものに加えて、高級なものから比較的安価なものまで、さまざまなショーファーカーも考えられます。
つまり、ボディタイプや機能装備といったハードウェアを見て、ショーファーカーであるかどうかを議論するのはナンセンスであると言えそうです。
■「お抱え運転手」が指すものは…時代により変化
一方、現代では「お抱え運転手」が指すものについても変化しています。
かつては、そのクルマのオーナーに雇われている使用人のひとりといったニュアンスも強かった「お抱え運転手」ですが、近年ではごく一時的な契約関係であることもめずらしくなくなっています。
その背景には「Uber」に代表されるライドシェアサービスの普及があります。本来は自家用車に相乗りをするためのものでしたが、アメリカなどでは専用のクルマを用意して本業として行なうユーザーもおり、人々の重要な交通手段のひとつとなっています。
ライドシェアサービスに利用されるクルマは、日本における個人タクシー同様、後部座席の快適性はもちろん、コストパフォーマンスや燃費性能、耐久性の高さなども求められます。
そのうえで、国や地域によってさまざまなボディタイプやパワートレインのクルマが求められます。
そうした複雑多岐なニーズに対応できるのは、世界有数のフルラインナップメーカーであるトヨタ/レクサスをおいてほかにはありません。
もちろん、すべてのショーファーカーがライドシェアサービスでの利用を前提としているわけではありません。
たとえば、センチュリーやLMなどは、伝統的なショーファーカーのように利用される可能性が高そうです。
いずれにせよ、テクノロジーの発達や社会情勢の変化によってショーファーカーの持つ意味が変わりつつあるいま、ショーファーカーに求められるものも多様化していることは事実のようです。