クルマには「N(ニュートラル)」のシフトポジションがありますが、使う機会はほとんどなく、むやみに使うことも危険だといいます。その理由について紹介します。
■「N」にシフトチェンジすると燃費が良くなるという「誤解」!?
オートマチックトランスミッション(AT)のクルマを運転しているとき、「N」レンジを使うことはあまりありません。
むしろ使うことで、リスクが生じる可能性もあるといいます。どういった理由なのでしょうか。
タクシードライバーのなかには、信号待ちでしばしばシフトをNに入れる人がいます。
また一般のドライバーでも、長い信号待ちではNレンジに入れて待機する人がいるようです。
なぜわざわざNレンジに切り替える必要があるのでしょうか。
その理由はいくつか考えられますが、ひとつは「燃費向上のため」だと思われます。
Dレンジのままアイドリングしながら停車した状態は、スムーズに再発進できるよう、トランスミッションのトルクコンバーター(以下トルコン)に負荷をかけているため、燃料を少なからず消費しています。
しかしNレンジだとトルコンにかかる負荷が軽減されるので、燃料消費が少なくて済むといわれていました。
しかしそれは20年ほど前までの古いクルマでのことです。
昨今のクルマには、「ニュートラルアイドル制御」という、燃費悪化を軽減する技術があります。
そのため、Dレンジのままブレーキを踏んで信号待ちをしていても、クルマがアイドリング中であることを検知してAT内部のクラッチを切っていますので、トルクコンバーター側で発生していた負荷はなくなっています。
必ずしも、Nレンジにしたほうが燃費も良くなる、ということではないのです。
ただし、かつてタクシー専用車として販売されていた車種のなかには、シフトレバーをNもしくはPレンジに入れるとアイドリングストップ(エンジン停止)する機能を備え、待機時の燃費を向上させていたケースもありました。
加えてタクシーの場合、エンジンが駆動伝達系から切り離されることで、アイドリングで発生するエンジンの「ブルブル」とした振動が遮断されます。
長きに渡り酷使されたタクシー車両のなかには、新車時よりもエンジンやシフト、駆動系などからの振動が多く発生するものもあります。
Nに入れるとこうした振動が軽減され、車内が快適になったような気がして、緊張感から解放される、という理由もあるようです。
後席の乗客に対し、より快適に乗ってもらう気配りともいえますが、あまり前向きな理由とはいえません。
■「足が疲れる」から「N」に入れるのが「超危険!」といえる理由とは
わざわざNレンジに切り替えるもうひとつのケースは、「ブレーキを踏み続けると足が疲れる」という理由です。
Nレンジに入れたあとパーキングブレーキをかけ、ブレーキペダルから足を外して待つ人は、特に年配の方に多く見られるようです。
しかし運転中に足を外すことで緊張感が抜けるため、リラックスしすぎていると、Nレンジに入れていたのを忘れてしまうことも想定されます。
そして発進しようとして「クルマが動かない?」とよりアクセルをべた踏みし、エンジンを思い切りぶん回しても動かず、その際にようやく気付いてシフトを「D」レンジへ入れてしまい、クルマが「急発進」してしまう……
こうした不慮の事故が発生してしまうリスクも少なくありません。
通称「プリウスミサイル」と揶揄される、電制シフト車で起こる事故のなかには、この手のミスが理由のひとつとも考えられており、Nレンジでの信号待ちはやはりオススメできません。
また昨今は、クルマが完全に停止したあとに自動でブレーキ保持の状態が続く「オートブレーキホールド」機構が普及してきています。
オートブレーキホールドが装備されているクルマならば、この点についても、わざわざNレンジへ入れるメリットはありません。
また停止時にフットブレーキを踏み続けることは、「今はブレーキを踏んでいる」ということを自らに意識づける効果もあります。
もし激しい渋滞に巻き込まれ、しばらく車列が動く気配がない場合には、Nレンジではなく、Pレンジを使うほうが誤操作も減ります。
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いずれにせよ、信号待ちでのNレンジはさまざまなアクシデントが考えられるため、避けたほうが良いでしょう。
Nレンジは原則、車両故障などの際、レッカー車によるけん引といった緊急時にのみ使うものと考えるべき、というのが筆者(くるまのニュースライター 河馬兎)の見解です。