「前向き駐車でお願いします」という看板が駐車場に設置されていことがあります。施設側が設置したものであれば原則として従うべきですが、もし従わない場合にはどうなのでしょうか。
■法的拘束力はないものの…トラブルを避けるために指示を守るべき
飲食店やコンビニエンスストアなどの駐車場で見かけることの多い「前向き駐車」の看板。これを守らないとどうなってしまうのでしょうか。
こうした前向き駐車の指示は、隣接する民家や植物などへの騒音や排気ガスが伝わることを避けるなど、隣人への配慮という意味合いが強いようです。
しかし、そうした看板があるにもかかわらず、実際にはバック駐車が行われているケースが多く見られます。
前向き駐車の指示そのものに法的拘束力はないため、バック駐車をしたこと自体が罪に問われることはありませんが、なんらかのトラブルに発展する可能性は十分にあります。
たとえば、駐車場の隣接する民家の住人がバック駐車による騒音や排気ガスによる被害を感じていた場合、駐車場を管理している店舗に対してクレームを入れる可能性があります。
それをうけて、店舗の担当者が前向き駐車をするようドライバーに依頼をしたにもかかわらず、ドライバーがその指示に従わなかった場合、不退去罪に該当する場合があるほか、大声を上げるなどの迷惑行為を行った場合には、威力業務妨害に該当する可能性もあります。
一方、隣接する民家の住人の主張がすべて受け入れられるというわけでもありません。
騒音や排気ガスが向けられるのは好ましいことではないものの、社会生活を行なう上で一定の範囲内は受け入れなければなりません。
この「一定の範囲内」のことを法律用語では「受忍限度」と呼びますが、隣人との騒音トラブルを争う裁判などでは、その騒音が受忍限度内であるかどうかが焦点となります。
バック駐車をしていることで隣接する民家の住人が社会生活をおびやかされるほどの被害を受けているのであれば別ですが、近年のクルマは騒音対策や環境対策も進んでいることもあり、実際にはバック駐車によって甚大な被害が出る可能性はそれほど高くはありません。
そのため、具体的な被害の内容を明らかにせずに、ただ単に「バック駐車をしていること」を理由にクレームを入れ続けると、威力業務妨害に該当してしまう可能性もあります。
ただし、違法改造車が大きな音を出している場合や、店舗を利用せずに駐車場でたむろをしている場合などであれば、対応してもらえるケースもあるようです。
■いったいなぜ?日本でバック駐車が主流となった理由
そもそも、なぜ前向き駐車の指示があるにもかかわらず、バック駐車をしてしまうユーザーが多いのでしょうか。
ここには、クルマの構造に理由のひとつがあるようです。
ほとんどのクルマは前輪が操舵輪となっているため、前進方向に旋回しようとすると構造上内輪差が発生します。
その一方で、バック駐車では基本的に内輪差は生じないため、駐車をするために必要なスペースも少なくなります。
日本の駐車場はスペースが限られていることも多く、また周囲にほかのクルマが駐車していることもめずらしくないため、駐車するために必要なスペースも必然的に限られます。
その結果、前向き駐車よりもバック駐車のほうが好まれる傾向があります。
実際、駐車スペースに余裕のあるアメリカでは、日本ほどバック駐車を行なうユーザーは多くはないようです。
その反面、日本と同等以上に人とクルマが密集している香港やシンガポールでは、バック駐車が一般的となっています。
また、発進時の安全性の観点から、日本の教習所では原則としてバック駐車を推奨していることもバック駐車が主流となっているもうひとつの理由と言えそうです。
このように、多くのユーザーにとってバック駐車のほうが難易度が低いことから、日本の駐車場では自然とバック駐車が増えていく傾向があるようです。
とはいえ、特に事情のない限りは、無用のトラブルを避けるためにも駐車場の指示に従うようにしましょう。
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近年増え続けている電気自動車(BEV)は、ガソリン車のように車両後方部から排気音や排気ガスを出すことがありません。
今後BEVが主流となった場合、これまでのガソリン車を前提とした前向き駐車の指示も見直される可能性も考えられます。