クルマの装備は、進化の過程で現在とは異なる姿をみせることがあります。何の目的で備わっていたのか、その理由について解説します。
■ワイパーが拭き上げるのは「フロントウィンドウ」だけじゃなかった!?
クルマのワイパーといえば前後のガラスに備わるものと決まっていますが、かつてはそれ以外の場所にも付いていた時代がありました。
何のために備わっていたのでしょうか。
クルマが便利なポイントのひとつとして、雨の日でもぬれずに快適に移動できることが挙げられます。
その雨粒がガラスに付着すると視界が悪くなるために、クルマには窓ふき器の装着が義務付けられています。
船舶や機関車などでは、丸い小窓が回転して雨粒を弾き飛ばす方式がみられますが、クルマではワイパーで拭う方式が一般的です。
ワイパーは、クルマの前だけ、ないしは前後のガラスに装着されます。
ところがかつては、フロントドアのガラスやサイドミラーにワイパーが装着されていたことがあったのです。
確かに水滴が付着しなかったら便利だな、と思える箇所ですが、いくら何でもやりすぎでは!? というのが、装備が登場した1980年代当時の人の反応でした。
当然、ワイパー以外にもワイパーを駆動するためのモーターや配線、リンケージなどが必要になります。
部品が重く、費用も意外に高価になることや、一見便利に思えても実際には使用されなかったりして、いずれもすぐに廃れてしまいました。
なかでもフェンダーミラーワイパー(ワイパー付フェンダーミラー)は、1980年に日産の初代「レパード」が初登場した際に世界初採用されたものです。
ただしミラーの鏡面のなかの拭き取り面積も狭かったため、実際の効果も疑わしいものです。
ましてや、ワイパーがついていれば、小さなフェンダーミラーの鏡面がさらに狭くなってしまいます。
一方サイドウィンドウワイパーは、ドアミラー鏡面を見やすくするためのものです。
こちらはミラー面を直接拭くものではなく、サイドウィンドウの一部分を拭き取る装備でした。
1988年デビューのトヨタ「マークII」などで世界初採用されています。
■ヘッドライトを「拭く」ためだけのワイパーもあった!?
マークIIなどに装備されたサイドウィンドウワイパーもオプション選択であったために、最初から装着する人が少なかったのが現実です。
当時でも、サイドウィンドウに水滴が付着したら、ドアガラスを開け閉めすることで水滴をぬぐっている人は多数いました。
しかし、サイドウィンドウワイパーが廃れても、雨天時の水滴を何とかしようとする思想は受け継がれ、あらかじめ撥水加工をしたドアガラスのほか、親水機能や超音波雨滴除去機能、ヒーター機能を持たせたドアミラーも登場しました。
カーアクセサリーでも、水滴を弾き飛ばして付着させなくするフィルムやコーティング剤などの製品も市販されています。
またこのほかにも、変わったワイパーがありました。それは「ヘッドライトワイパー」です。
走行中に付着した汚れを拭き取るもので、1970年代から80年代にかけて、欧州車や悪路を走行する本格四輪駆動車などを中心に普及していました。
その後、併用されていたウォッシャー機能(ヘッドライトにウォッシャー液が噴射される)だけが残り、ヘッドライトワイパーも1990年代には廃れてしまいました。
※ ※ ※
現在、さまざまな先進運転支援システムが登場するなか、ゴムブレードで窓の水滴を拭うという、実に単純で昔ながらのワイパーは、今でも採用され続けています。
この先これに代わる画期的な装備が登場した際は、多くのユーザーを驚かせるに違いありません。