クルマには自分で操作する「マニュアルトランスミッション(MT)」というものが存在しますが、近年の新車販売比率において1%程という状況です。今後MTは無くなる運命なのでしょうか。
■MT需要は減るけども…欲しい人はまだまだ健在!
近年、日本や米国における新車販売においてAT車の販売比率は約99%と高いシェアを占めています。
一方で現状でもMT車が設定されるクルマは一定数存在する他、電気自動車(BEV)においても新たなMTを開発するメーカーも出てきています。
今後のMTはどうなっていくのでしょうか。
従来のクルマにはエンジンの動力をタイヤに、速度に合わせて効率的に伝える変速機「トランスミッション」というものが備わっています。
このトランスミッションは、一般的に「オートマチックトランスミッション(AT)」「マニュアルトランスミッション(MT)」に分類することが出来ます。
その名の通り、ATは変速を機械が自動的に行うものなのに対して、MTはドライバー自らが手動で行います。
そのため、技術の進化やユーザーの需要などに合わせてATの販売比率が高まっていき、前述のように売れるクルマのほとんどがAT車という状況になりました。
売れるクルマがAT車のほうが多いということもあり、年々MT車を設定するモデルは減少傾向にありました。
しかしながら、クルマの特性によってはATよりもMTのほうが好まれる車種もあり、「走りを楽しむ」ことが重視されるスポーティなモデルなどに継続して設定されています。
その一方でフォルクスワーゲンは、今後の環境規制に対応するひとつの手段としてMTを廃止していくとアナウンスしており、最近では同社の「スポーツモデルからもMTを無くす方針」とも報道されています。
また、環境規制などにより今後販売シェアが増加することが予想されるBEVにおいては、様々な理由から「MTが採用される可能性はほとんどない」とも言われていました。
では、今後のMTはどうなっていくのでしょうか。
現在、日本市場でのMTラインナップは、前述のスポーツモデルや商用モデルなどがほとんどです。
実際にMTを購入するユーザーについて複数の国産メーカーの販売店は次のように話しています。
「現在、MTを検討されるお客様の多くはいわゆるスポーツモデルを購入されるお客様がほとんどで『走りを楽しみたい』という理由が多いです。逆に『MTに慣れていない』『日常使いでは面倒』という理由から避けられる人もいます」(国産メーカーAの販売店)
「いくつかのモデルにMTが設定されていますが、検討理由の中には昔から『MTに慣れている』という理由を挙げられる高齢層もいます。また最近では若年層で『MT車に乗りたい』という理由で選ばれることも見かけられます」(国産メーカーBの販売店)
このようにMT車を選ぶ理由としては、「慣れて親しんでいるから」と「趣味のひとつ」といった両面を持ち合わせていることが分かります。
こうした背景を踏まえて今後のMTはどうなっていくのでしょうか。とある自動車メーカーの担当者は次のように話しています。
「現在はまだ少ないといえどもMT車の需要は存在しています。
そのため、ある程度は残り続けると思いますが、その数は減っていくでしょう。
しかし今後、電動化・自動化が進んでいくにつれて、コストをかけてMTを残す理由が減っているのも事実です。
最終的には限りなく趣味性が高いモデルに残るという感じになると思われます」
また別の自動車メーカーの担当者は次のように話しています。
「MTがどこまで残るかは予想しづらいですが『走る楽しさ』という側面ではスポーツATと言われるようなものも存在するため、モデルチェンジでMTが無くなったモデルも多々あります。
そうしたことを考えると、やはり母数は減っていくのではないでしょうか」
■今後MTは無くなるの? トヨタが提案する2つの「MT」とは
前述のように世界的には従来のようなMTが減っていくことが予想され、なかにはMTの設定が廃止されるモデルも出てきています。
そのため最終的には「MTが無くなる」ことも考えられますが、トヨタは昨今2つのMT技術を発表しています。
ひとつは、2022年12月にレクサスの欧州法人がブリュッセル(ベルギー)で開催されたメディアフォーラムにて発表されたものです。
これはボタンひとつでAT/MTを切り替えられるもので、このMTは電気信号により擬似的に再現されたものとなります。
このモデルは2023年6月に行われた「Toyota Technical Workshop 2023」で実車がお披露目されています。
実際には従来のMT仕様のようにクラッチペダルとシフトレバーを操作することで、擬似的なMT操作を体感することが可能です。
例えば、シフトレバーを1速に入れ、クラッチペダルを半クラ状態にし、アクセルペダルを踏み込んでいくと、従来のMT車のような振動が感じられます。
また1速に入っている状態でクラッチペダルを離すとエンストが体験出来るなど、細かな部分まで忠実に再現されていました。
このBEV MTとも言える技術についてトヨタの担当者は「BEVの時代になっても『運転する楽しさ』を提供するために開発を進めているもの」と説明しています。
もうひとつのMTは、既存の機械的なMTをそのまま活かした技術です。
それは、2023年1月の「東京オートサロン2023」にお披露目された「AE86 BEV Concept(電気じどう車)」です。
AE86 BEVは、ベース車の軽さ、前後の重量バランスを極力維持しながら、BEVの特徴を活かして「従来以上の走りの楽しさを感じられる」というテーマで開発されました。
仕様としてはモーターと電池を搭載していることと、マウント類の加工以外は純正から変更はありません。
また、トランスミッションは「GR86」に搭載される6速MTを採用していると言います。
そのため、モーターを搭載するために降ろされたエンジン(4A-GE)は再度搭載することも可能だと言います。
元々このAE86 BEVは「保有車のカーボンニュートラル」に対する提案として開発が進められており、今後エンジン車に乗りづらい時代になっても「愛車に乗り続ける」ひとつの手段としてBEVコンバージョンの可能性を検討しているようです。
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前述の通り、MTは効率を考えれば無くなっていく運命にあるように思えます。
しかしながら、いくつかの自動車メーカーでは「運転の楽しさ」、「走る楽しさ」といった“自動車メーカーだから残すべき価値”のひとつとしてMTは重要な存在だと認識していることも事実です。
今後様々な規制が強化されていく中でMTがどのような形で生き残っていくのかそれとも消滅してしまうのか、今後の動向に注目です。