SUVテイストの軽スーパーハイトワゴン、三菱の新型「デリカミニ」は、2023年5月25日の発売開始時点で約1万6000台の受注予約を集めるなど好調な立ち上がりをみせています。公道試乗の印象など交えながら、その人気の秘密について探ります。
■「タフさ」と「かわいらしさ」の絶妙なさじ加減
2023年5月25日に発売された三菱の新型「デリカミニ」は、いま最も人気の高い軽スーパーハイトワゴンのカテゴリーへ参入したSUVテイストのニューモデルです。
スズキ「スペーシアギア」やダイハツ「タントファンクロス」など、すでにライバル車も多い激戦区のなかで、新型デリカミニならではの「優れた点」とは、一体どういったところにあるのでしょうか。
やんちゃ坊主な犬(っぽい)キャラクター「デリ丸。」と、「ウェイ」という独特の掛け声が印象的なテレビCMにハマる人多数で、早くも大ヒットの予感しかない三菱の新型軽スーパーハイトワゴン、新型デリカミニ。
デリカは1968年誕生の初代から、商用車をルーツに持つタフさと、三菱のDNAでもある本格4WDの力強い走行性能、頑丈で広々とした室内空間が融合している唯一無二のオールラウンドミニバンで、現行モデルは「デリカD:5」と名乗ります。
新型デリカミニは、そうした多くのファンを持つデリカシリーズの名を冠した、両側スライドドアを備える軽自動車となっています。
すでに2023年5月24日現在で約1万6000台の予約注文が殺到しており、「デリカらしいデザインに一目ぼれした」という声が寄せられたり、4WDモデルの受注が軽自動車としては異例の約6割にのぼるといいます。
こうした状況からも、デリカへの憧れがありつつ、ボディサイズや価格など何らかの理由で購入していなかった人たちに、「こういうのを待っていた」と強くアピールしたのではないかと推測できます。
また、既にデリカD:5に乗っている人たちの中にも、「車庫にデリカとデリカミニを並べて置きたい」と、デリカのミニカー感覚で物欲をそそられている例も見受けられました。
実際に試乗し、開発チームの方々と話をしてみて、新型デリカミニがこれほどまでにウケるのは、ライバルたちとの決定的な違いがあるからだと実感。それはデザインと走りへの、常識を突き破るほどのこだわりです。
まずデザインでは、新型デリカミニをデリカという名に恥じないようにするために、並々ならぬ苦労をしていました。
デザインテーマは、「DAILY ADVENTURE(日常に冒険を)」。タフでギア感のあるSUVスタイリングに寄せるのはもちろんですが、ファミリーで使うことを第一に考え、毎日を一緒に過ごしたくなるような、ちょっと母性本能をくすぐるようなキャラクターを目指したといいます。
でも、かわいすぎると男性からはそっぽを向かれてしまうので、そのさじ加減が難しかったとのこと。
加えて、規格サイズが決まっている軽自動車という、デザイン的にも制約の多い中で、デリカらしさを出すにはどうすればいいのか。
さまざまな部分で試行錯誤したエピソードから、とくに「そこまでやるか!」と開発チームの気合を感じたデザイン面でのポイントが3点あります。
順に紹介していきましょう。
■こだわりスゴすぎ! デリカミニのデザイン「3つ」の見どころ
新型デリカミニ開発チームの気合を感じたデザインのポイント、1点目は、半円形のLEDポジションランプを内蔵したヘッドライトです。
ここはフロントフェイスの印象を決定する大事な部分で、怖い印象を与えたり、逆にかわいすぎる印象にならないように、半円の丸みを1mm単位で調整しながらベストな半円を作り上げたそう。
デリカミニの化身として公式キャラクターとなっている「デリ丸。」と同じく、かわいいけどかわいすぎない絶妙なフロントフェイスになっていると感じます。
2点目は、そうした絶妙な表情を作りつつ、タフさやギア感のキモともなっている、前後バンパー下にプロテクト感のあるスキッドプレート形状を採用したり、新世代三菱デザインの象徴でもある「ダイナミックシールド」を立体的に表現したりと、SUVらしさ、三菱らしさもしっかりと融合していること。
これは、軽自動車のサイズで盛り込みすぎるとフレンドリーさがなくなってしまい、とくに女性から「自分が乗るイメージがわかない」と敬遠されがちだった先代「ekクロススペース」の反省も踏まえているそう。
3点目は、SUVらしいハイリフト感を演出しているブラックのホイールアーチ。
これは登録車なら樹脂パーツを装着するところですが、サイズ制限の関係で難しいため、手間がかかる塗り分け塗装を行なっています。
当初は生産現場から、量産の軽自動車でそこまでの手間はかけられないから、ここはステッカーにしてくれと突っぱねられたところを、何度も議論し試作を繰り返し、ようやく実現したとのこと。
デザインチームの情熱に、生産現場が応えた形で実現した“デリカらしさ”でしょう。
しかもよくよく塗り分け部分を見てみると、ブラックの部分が上かと思いきや、ボディ側が上。
これは、ブラックの部分が上になってしまうと、そこにホコリなどが溜まりやすくなるのを防ぐためだというのは、まさに「そこまでやるか!」なポイントでした。
ボディカラーにも、デリカミニのコンセプトに合わせて新開発したアッシュグリーンメタリックをはじめ、2トーンが6色、モノトーンが6色の計12色が揃い、さらに魅力を引き立てています。
そしてこうした「見た目のこだわり」だけでなく、走りの面でもデリカらしさを出したいと、「そこまでやるか!」なエピソードがあります。
■コストにもシビアな軽で「そこまでやるか!」
新型デリカミニの開発は、NMKVという三菱と日産が共同で設立した会社が行なっています。
すでに三菱の軽スーパーハイトワゴン「eKスペース」と、日産「ルークス」があり、これら兄弟車が基本のベースとなっています。
規格サイズもさることながら、コスト的な制約も大きい軽自動車のため、通常なら走りの味付けも同じように行うところです。
しかし三菱は、どうしても4WDだけは単独でやらせてほしいと、わざわざ三菱お膝元の愛知県・岡崎テストコースで、本家デリカD:5の開発担当者も加わりながらテストを行い、オフロードコースでも入念に確認走行を実施したというから驚き。
軽自動車でもデリカらしい走りを表現するため、ショックアブソーバーの縮みと伸びのストローク量を変えたり、ステアリングフィールをシビアすぎないように調整したりと、少しずつ味付けを近づけていったといいます。
ビスカスカップリング式4WDのチューニングも変えて、より後輪にトルクがいきやすくなっていることや、グリップコントロールの電子制御も変えているとのこと。
本当は、車高を上げたりスタビライザーを変えようかとの議論もあったそうですが、やはりここは日常使いをする軽自動車であることを踏まえ、あくまでスーパーハイトワゴンの範疇でやろうという結論になったということでした。
ただ、もう1つ大きなこだわりは、外径579mmの165/60R15という、異例の大径タイヤを採用したところ。
本来なら共用プラットフォームなので、タイヤサイズの上限はおのずと決まってしまいます。しかも、タイヤサイズが変われば、歩行者保護や視界要件といった調整もいちからやり直すことになるため、効率の良い開発とは言えなくなるのですが、そんな常識を突き破ってでもデリカらしさを追求したかったという熱意が伝わってきました。
他社のライバル車でも同様にSUVテイストの内外装をもつモデルはありますが、走りの面にまでベース車と差別化を図ったと聞き、そこまでやるか! と驚かされたのです。
そしてそんな新型デリカミニの4WDターボモデルに、公道から砂利道まで様々なシチュエーションで試乗してきましたので、最後にその印象についても触れておきましょう。
■試乗で実感する決定的な違いは「走り」にアリ
新型デリカミニに試乗してみると、なるほどコストや手間をかけてまで、大径タイヤを履かせたかった理由に納得できました。
まず舗装路で感じる安定感や乗り心地のよさが、砂利道に入ってもまったく損なわれず、余裕を持って運転できます。
ガタガタとした振動も大きなノイズも少なく、ステアリングフィールがゆったりしているのも特徴的。
ギャップでいちいち修正舵を当てなくても、しなやかに道なりに走っていけて悠々とした気持ちになってきます。
これなら、長い時間のドライブでも疲れにくいだろうと感じました。
タイヤによって車高が上がったのは10mm程度とのことですが、それでも雪道などでは有利になるのは間違いなく、4WD性能と合わせて頼もしい相棒になるはず。
対して、心配した燃費への影響はほとんどなく、WLTCモード燃費でターボモデルが17.5km/L、自然吸気モデルが19.0km/Lで、これはルークスの4WDと変わらない燃費となっています。
デリカという三菱の顔ともいえるモデルの名に恥じないよう、思いっきりこだわったデザインと、スーパーハイトワゴンきってのタフな走破性を与えられた新型デリカミニ。
ライバルとは決定的に違う1台の誕生です。