中古車の整備・販売を行う「ビッグモーター」では度々不正行為が行われていたと報道されており、中でも「保険金不正請求問題」への関心は高まっていました。そうした中で、損害保険会社の業界団体となる一般社団法人 日本損害保険協会が定例会見を行い、そこで同協会の会長はビッグモーターに関する見解を示しました。
■ビッグモーターの保険金不正請求についてどう考えている? 日本損害保険協会の見解は?
最近、様々なメディアで中古車の整備・販売を行う「ビッグモーター」では、度々不正行為が行われていたと報道されており、中でも「保険金不正請求問題」への関心は高まっていました。
そうした中で、損害保険会社の業界団体となる一般社団法人 日本損害保険協会が2023年6月15日に定例会見を行い、そこで同協会の会長はビッグモーターに関する見解を示しました。
昨今、話題となっているビッグモーターは、2023年6月末現在で全国に260以上の店舗を有する国内最大規模の中古車販売店で、現在は島根県を除いた全国46都道府県に出店しています。
また中古車在庫台数は計5万台、買取台数6年連続日本一というフレーズを用いたTVやラジオなど有名俳優を使った広告でも知られています。
しかし、日本一をアピールし急拡大していくその一方で近年目立ってきているのが車検や整備、買取や中古車販売、自動車保険などクルマに関わるあらゆる分野での不正行為です。
約1年前の2022年6月下旬、買取したクルマに対して「書類に不備があった」とウソをついて客に60万円を返金させていた従業員が逮捕された報道もありました。
2023年3月には熊本浜線店の指定工場(民間車検場)が国土交通省九州運輸局から指定取り消しの処分を受けており、同じく2月には道路運送車両法第94条違反として唐津店(佐賀県)が保安基準適合証等の交付停止という処分を受けています。
最近では6月13日に宇都宮南店に対して同じく94条違反で「聴聞」を行うという公示が関東運輸局から出されています。
このような中、2022年8月に「自動車保険の水増し請求」についての驚く報道がされました。
自動車保険を使って事故の修理を行う場合、水増しして修理代金を保険会社に請求していたという事実です。
報道によると請求が表面化したのは2021年秋頃で損害保険の業界団体に対し内部通報があったことが始まりとのこと。
その後、ビッグモーターと取引のある損保3社(東京海上、三井住友、損保ジャパン)が数百件のサンプル調査を行ったところ、全国25か所の工場で水増し請求が疑われるケースがあり、その数は3社合計で80件あったことがわかりました。
筆者(加藤久美子)もこの件ではビッグモーターが外注している複数の修理工場に話を聞くことができ、報道にある通りの過剰で不正な修理があったことを確認しています。
具体的には、以下のような内容があったことを修理工場の経営者たちが明らかにしてくれました。
「事故で破損した部分の修理や板金塗装の作業に対して、本来は損傷していない部分まで損傷して修理をしたと虚偽の報告をして保険会社に水増し請求」
「実際には安い中古パーツを使って修理しているのに、保険会社には高額な新品パーツを使って修理したとして請求」
「社員のクルマのプライベートでぶつけた部分をお客さんのクルマの事故修理に上乗せして請求」
その後、損保各社は不正請求が行われた店舗を公表し、さらにはビッグモーターとの取引を停止する措置をとっています。
この対応によって、それまでは「作業員のミス」などとして組織的関与や意図的な水増し請求を否定していたビッグモーターが突然、保険金不正請求の可能性を認め、2023年1月30日にリリースを出して、弁護士を入れた第三者調査チーム(特別調査委員会)を設置し、厳正な調査を行うことを発表しています。
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2023.01.30 特別調査委員会設置のお知らせ
当社は、先般の一部マスコミ報道における自動車保険金請求に関して、公正で適正な調査を行うため、
当社と利害関係を有しない外部専門家から構成される特別調査委員会を設置いたしましたのでお知らせいたします。
特別調査委員会
委員長 青沼隆之 弁護士 (シティユーワ法律事務所)
当社は、特別調査委員会の調査に全面的に協力してまいります。
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また過去にビッグモーターはタイヤ保証期間内にタイヤがパンクした場合、ユーザーは工賃のみの負担で同レベルの新品タイヤに4本とも交換できるという保証サービスを実施していました。
この保証サービスを悪用しパンクしていないタイヤにわざわざ穴を空けてパンクさせ、タイヤ4本分の保険金(普通車上限10万円、軽自動車5万円※原価ベース)を不正に取得することがビッグモーターの元社員による告発で明らかになっています。
■本会見ではビッグモーターに触れずも…質疑応答で日本損害保険協会の会長はなんと答えた?
そうした動きがあった中で前述の2023年6月15日に日本損害保険協会(会長:白川儀一損保ジャパン社長)は定例会見を開催しました。
定例会では主に2022年度の主課題となる「気候変動・自然災害」、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の対応に関する進捗が報告され、ビッグモーターに関しては触れられていません。
しかし、会見後の質疑応答では、ビッグモーターの保険金不正請求に関する質問が各メディアからあり、以下のようなやり取りが行われました。
ーー 自動車業界紙からの質問
ビッグモーターは社会的コミュニケーションを積極的に図ろうとする会社ではない。損保協会として社会的にきちんと説明の義務を果たすような働きかけは続けているのか。
特別調査委員会が設置されてもう5か月経つが、まだ何も発表されていない。関係者はこのまま落ち着くのを待っているのか。それでは自浄能力がないと思われてもしょうがない。
ーー 日本損害保険協会 白川会長
損保ジャパンとしても、また損保協会としてもビッグモーターに対してはきちんとした説明を行うべきだと継続的に申し入れている。
1月末に特別調査委員会が設置されて調査の方法などについては現状、非開示ではあるが独立性、客観性をもった調査が行われているものと捉えている。
全容が解明されれば会員会社の調査において確実な後押しになると考えている。
なお、特別調査委員会の調査が終わらずとも、会員の損保会社は一件一件の事案を確認して調査が終了したものから、ビッグモーターと協議の上お客様対応や保険会社による修理費協定内容の再確認を行うべきである。
修理代が変わる(安くなる)ことで保険を使わないお客様に対しては等級の修正にも対応する。
時間を要するものではあるが、保険会社の立場としては責任をもって対処していく。近々、特別調査委員会からの何かしらの公表があると期待している。
ーー 経済メディアからの質問
損保協会はこれまで火災保険の不正請求に関しては撲滅を掲げて厳しくチェックしてきたはず。
一方でビッグモーターの大がかりな不正請求について損保ジャパンは『事務的なミス』としたビッグモーターの発表をうのみにし、他の2社がより詳しい調査を進める中、いち早く取引を再開した。
初動対応が非常に稚拙で業界から批判を浴びた。損保協会の会長社として恥ずべき点はなかったのか。白川会長の言葉で総括して欲しい。
ーー 日本損害保険協会 白川会長
保険会社はお客様との信頼、社会からの信頼が第一だと考えている。
保険金支払いのガイドラインを策定して不適切な支払いについて厳しく監視している。
ビッグモーターにおいてはスクラップ車に対して保険を付与するなど明らかに不適切な例が見つかっている。
特別調査委員会が設置されて調査結果の開示、公表を待っているところだが、結果の公表がなされなくても、会員会社では一件ずつ事案の調査を行い、調査終了したものから、お客様対応を進めていく。
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実際、どれくらいの不正請求があり、水増し請求の対象となったオーナーに対してはどんな対応がされるのでしょうか。
前述の特別調査委員会による「ビッグモーターの調査結果」は今月末までには出されるようです。