2023年6月21日にトヨタは新型「アルファード」と新型「ヴェルファイア」を発表しました。どのような経緯で誕生したのでしょうか。
■あえてアル・ヴェルを2台残した理由は?
トヨタは、4代目となる「アルファード」と3代目となる「ヴェルファイア」を発表しました。
人気ミニバンとなったアルファードと、その影に薄れたヴェルファイアですが2台継続してフルモデルチェンジした訳、そしてそれぞれにはどのような違いがあるのでしょうか。
今回の発表会では、先代の開発も担当した「Mr.アルヴェル」と言っていえる存在のチーフエンジニア・吉岡憲一氏、執行役員 デザイン領域領域長のサイン・ハンフリーズ氏。
そしてCVカンパニープレジデント兼MSカンパニー兼チーフテクノロジーオフィサーである副社長の中嶋裕樹氏が登場し、それぞれに話を聞いてみました。
まずは新型アルファードと新型ヴェルファイアの誕生経緯です。
―― プレゼンではオーナーの30%が30代以下と聞いてビックリしました。値段はそれなりにしますが、かつての「いつかはクラウン」のように「いつかはアルヴェル」と言う人は多いようです。
吉岡:元々、日本人は“ファミリー”を大事にする方が多いです。
それなら「乗り心地が良くて広くて快適なクルマ」、そんなクルマにファミリーを乗せたいと思うはずです。
ゆったり広い空間に1度乗せたらやめられない、そんな世界だと思っています。
―― ネットを中心に「ヴェルファイアは廃止」と言う噂が流れていましたが、今回シッカリと設定されています。
吉岡:先代のマイナーチェンジ後は5%を切る状態でしたので、確かに「アルファードと統合」と言う話があったのも事実です。
しかし、そこに疑問を唱えたのは豊田現会長でした。
ただ、「ヴェルファイアを残せ」と言ったわけではなく、我々に「ヴェルファイアのお客様こそ本当に強いこだわりを持つお客様、その気持ちとブランドを大切に」と。
――そこで開発チームは1度立ち止まったわけですね?
吉岡:確かに先代を振り返ると、ヴェルファイアは「アルファードと異なるモノを作る」が目的になっていました。
そこで新型は素直にヴェルファイアユーザーがカッコいいと思う「スタイル」、ドライビングプレジャーを感じさせる「運動性能」を付加しようと思いました。
―― サイモンさん、アルファードとヴェルファイア、デザインはどのような作り分けをしたのでしょうか?
サイモン:先代のヴェルファイアはアルファードとの差別化が目的になってしまい、それがセールスに表れてしまいました。
その反省を活かし、新型は原点回帰を行なっています。
―― 初代ヴェルファイアは当時若者/女性をターゲットにしたネッツ店に投入されたモデルです。上品/洗練なアルファードに対して力強さやスポーティなキャラクターが人気で、ライバル・日産エルグランドからシェアを奪い返した功労者です。
サイモン:先代は良くも悪くもアルファードがヴェルファイアに寄ってしまい、結果として個性が薄れてしまいました。
そこで、新型アルファードは「フォーマル」、ヴェルファイアは「スポーティ」とキャラクターをシンプルかつ明確にしています。
―― 開発時はリアルなヴェルファイアオーナーのマスタードライバーならぬマスターパッセンジャー、豊田章男氏の指摘は多かったと聞いていますが?
吉岡:私は先代モデルから13年このクルマを担当していますが、その間ずっと「もっともっといいアルファード/ヴェルファイアにしよう!!」指摘を受けてきました。
■様々な経緯を経て誕生した新型アルファード/新型ヴェルファイアだが、具体的にはどう進化?
―― 今回のフルモデルチェンジはTNGAと言う武器がフル活用されています。
吉岡:私は先代モデルの開発もしていますが、当時は「これ以上のアルファード/ヴェルファイアは作れない」と思っていました。しかし、それが実現できたのは大きいですね。
TNGAがあったから、操縦安定性は格段に良くなりましたし、グローバルの衝突対応もできるようになりました。
―― 開発する上で心がけていたことは?
吉岡:「快適な移動をグローバルに」です。
その実現のために、欧州の名だたる高級セダンに徹底的に乗りました。
そこで学んだことは、我々が持つ「大空間の価値」と欧州セダンに匹敵する「運動性能」が合致すれば、快適な移動の幸せが提供できると思いました。
―― 高級セダンからの学びは、どのような所がありましたか?
吉岡:そのひとつは、徹底的に人が不快に感じる振動/騒音を、意図的かつシッカリ抑え込んでいる事でした。
そこで我々は不快な振動を従来比1/3に低減する目標を掲げました。
―― 従来のシートはビリビリ振動が伝わって正直微妙な所がありましたが、新型は?
吉岡:ご指摘の通りでしたので、一新しています。
具体的にはシートの防振はビルの免震構造のような造り、シートパッドも振動吸収と姿勢保持を適材適所で使い分けて採用しています。
とにかく乗員に振動を伝えない事を心がけました。
―― 具体的には、どのような事を?
吉岡:プラットフォームをGA-Kをベースにしたミニバン専用設計です。
ミニバンは大開口を言い訳に「乗り心地はよくできない」と言われてきました。
その一方で、世界の名だたるオープンカーはそんな言い訳をすることなく「運動性能」が実現できています。
我々はそこに着目、GA-Kをベースにしながらもロッカーのストレート化、床下へのブレース追加、アンダーボディに従来比5倍の長さの構造用接着剤の使用(剛性を高める所といなす所を2種類使い分ける)。
さらに環状構造のボディ、カウル部分にタワーバーのような構造の採用などにより、ボディ剛性は従来比50%、フロントサスタワー/リアのホイールハウスインナーは従来比30%アップを実現しています。
―― アルファードとヴェルファイア、走り部分の違いはどうでしょうか?
吉岡:アルファードはショーファーユースにも対応できる快適性重視なセットアップなのに対して、ヴェルファイアは走りの楽しさを付加させたセットアップになっています。
具体的には、ボディはフロントにパフォーマンスブレースの追加、サスペンションはショックアブソーバーの減衰力を高めに設定。
19インチタイヤの採用、更には専用のEPS制御などを採用。その結果、操舵応答やライントレース性を高めた味付けになっています。
――細部の変更で乗り味を分けられたのは、やはりTNGAの効果は大きいですか?
吉岡:その通りです。ボディ剛性が上がったことでセットアップはやりやすかったと思います。恐らく先代ではこれくらい変更では差が出なかったと思います。
―― 足回りはどうですか?
吉岡:タイヤは17~19インチを設定していますが、全て新規開発。
サスペンションは周波数感応型ショックアブソーバーを採用。
シッカリしたボディができたので、足回りをシッカリと動かすセットになっています。
――車両重量を比べると先代と大きな差はないようですが、P.C.Dが114.3から120.0へと変更されています。これは高荷重・高トルクに対応するためですよね?
中嶋:さすが鋭いですね、でも今日はこれくらいにしておいてください(笑)。
―― 2.4リッターターボはどのようなパフォーマンスユニットですか?
吉岡:2.4リッターターボはヴェルファイア専用で動力性能の高さはもちろん、走り出しから常用域で徹底的にノイズを下げ、高級感と静粛性を両立させたユニットに仕上がっています。
―― アルファード/ヴェルファイアにはハイブリッドモデルが用意されていますが、当然その先も計画されているわけですよね?
中嶋:サイモンのプレゼンでも触れていましたが、今後PHEVも登場予定です。
※ ※ ※
―― 最後に吉岡さん、一言お願いします。
吉岡:アルファード/ヴェルファイアは多様化したライフスタイルに「快適な移動の幸せ」を追求したモデルです。
日本が作り出した「おもてなしのクルマ」、是非とも見て・触って・乗って体感してください。