名古屋を走る市バスに採用している「基幹バスレーン」。他所では見ないその独特な走行方式を取材しました。
■基幹バスレーンなぜ生まれた?
自動車の街として全国的に知られる名古屋市。そんな名古屋の道路には、初めて運転するときに驚く「基幹バスレーン」があります。どのような道路なのか、歴史背景とともに確認してみましょう。
トヨタを筆頭に自動車産業が大きく発展している愛知県。その印象に違わずクルマの保有数や免許取得者の割合は比較的高く、特に県庁所在地の名古屋市では、クルマを中心とした交通網が発達しています。
そんな名古屋の道路で目を引くのが「基幹バスレーン」です。名古屋市内を走る市バス「新出来町線」がこのバスレーンを走ります。
通常、市バスといえば一般の車両に混ざって車道を走り、左側(歩道寄り)の停留所に停車するのが一般的です。
しかし基幹バスレーンは、道路の中央寄りをバスが走ります。
他県ではまず見られない方式だけに、初めて名古屋を走るドライバーはまず驚くことでしょう。筆者(鈴木伊玖馬)も愛知県出身ですが、他県で免許を取ってから地元でクルマを運転した際、道路の真ん中を走るバスを見て、改めて驚いた覚えがあります。
さらに停留所も「相対停留所方式」という珍しい仕様です。これは道路中央に設けられた停留所で乗り降りするというもの。そのため、利用者は横断歩道を渡ってからバスに乗車します。
このようなユニークな基幹バスレーンが生まれたのには、街特有の歴史と経緯があります。名古屋市交通局の担当者に取材したところ、次のような経緯を教えてもらいました。
■名古屋特有の事情って?
まず戦後の名古屋市は、戦災復興事業による大規模な区画整理などで、他の大都市に比べ道路の整備が進んでいた反面、鉄道の整備は遅れていました。このため、名古屋市では移動手段のうち自動車、特にマイカーの利用率が高く「自動車型の都市」と評されていました。
1980年、当時の運輸省・建設省・警察庁を含めた関係行政機関や有識者などで構成する名古屋市基幹バス調査委員会が発足。基幹バスの具体的な運行方法、運行の効果、モデル路線の絞り込みなどを行った結果、1981年から東郊線の市バス運行が始まります。
そして1985年から新出来町線が運行を開始。この時、全国初の中央走行方式が採用されました。物珍しい基幹バスレーンですが、採用に際して各省庁が綿密に検討した様子がうかがえます。
現在の中央走行する基幹バスレーンは、桜通大津から引山までの9.2kmにわたって設置されています。このバスレーンは、走行方式だけでなく停留所の間隔にも特徴があります。他路線の停留所の間隔は平均400~500mなのに対し、本路線は600mと長めなのです。
また、市民からの評判も高く、第1号の東郊線と第2号の新出来町線の運行を開始した結果、東郊線で63.1%、新出来町線で83.1%の利用者から「便利になった・良かった」と好意的な意見を寄せられたそうです。
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最近では、バス路線総合管理システムを各停留所に導入し、利用者にバスの運行情報を提供するなど、さらなる利便性の向上に努めています。
筆者の利用経験はさほど多くありませんが、この路線でバスを待っているとき、停留所の周囲の歩く人を気にしなくて良いため、非常に使いやすかった記憶があります。
しかし一方で、その独特さを敬遠するドライバーもいるようです。名古屋市周辺の市に住むある男性は、次のように話します。
「基幹バスレーンは、一般車の右折レーンの右側を走行している箇所があります。この辺りを通るときは、安全だと分かっていてもちょっとヒヤッとしてしまいますね。
また基幹バスレーンの付近は交通量も多いです。運転が苦手なのもあって、基幹バスのある道路は積極的に使用せず、できるだけ裏道などを走行するようにしています」
他では見かけない方式だけに、気にせず運転するには多少“慣れ”が必要のようです。とはいえ基幹バスレーンには、他の一般車線と見分けやすいよう路面がしっかり色分けされています。初めてのときも落ち着いて他の車線と比較すれば、十分安全に運転できるでしょう。
ちなみに基幹バスレーンは平日の7~9時と17~19時はバス専用ですが、それ以外の時間帯は優先レーンとなります。時間帯の把握は必須ですが、必要に応じ優先レーンで一般車も走行できます。