クルマのルーフには、長い棒や短い帽、またはサメのヒレのような形のものなどが付いています。これらの役割とはどのようなものなのでしょうか。
■見た目はシンプルだけど高機能なシャークフィンアンテナとは
クルマのルーフを見渡すとサメのヒレのような「謎の突起物」が付いています。
これはどのような役目を持っているのでしょうか。
ルーフの後端についている、サメやイルカのヒレのような部品を「シャークフィンアンテナ(ドルフィンアンテナ)」 といいます。
アンテナという名前の通り、おもにラジオのアンテナの役割を果たし、現在ではSUVやミドルセダン以上のクラスではほとんどの車種で採用されていています。
シャークフィンアンテナの中身は意外と複雑な造りで、低い形状で電波の受信を行なう必要があるため、通常のアンテナに使用されているコイル線以外にも電子基板で受信を補っています。
そのため低い形状でも、電子基板がアンプのような働きで電波を増幅するので、感度を落とすことなく利用できる仕組みです。
シャークフィンアンテナは、内部に基板を組み込んでいるコストだけでなく、ボディに併せたカラーリングを行う必要があるので、採用当初は高級車のカテゴリのみでした。
コストこそかかるものの、クルマの外観に違和感を与えづらいだけでなく、畳んだり外したりする必要がないこと、さらに風切り音が発生しにくいことがメリットです。
それだけでなく、内部基板との併用で広帯域の電波も受信でき、ラジオのみならずさまざまな通信に対応できることで採用車が拡大しています。
シャークフィンアンテナの形状やメリットについて、ホンダ広報部の担当者は次のように話します。
「シャークフィンアンテナはクルマのデザインや空力性能が考慮された形状となっています。
また、コンパクトながら受信機能はロッド式のアンテナと同等で、多様化した通信システムも兼ねることできます」
※ ※ ※
また、シャークフィンアンテナは、ラジオの受信以外でもさまざまな用途で利用されています。
以前のレクサス「IS」では、緊急時の連絡などに利用できる「G-LINK」の通信アンテナとしても利用されていました。
ほかにも日産「アリア」では、一部グレードでシャークフィンアンテナが2つ取り付けられており、ひとつはラジオの受信用、もうひとつは衛星からのGPS信号の受信に利用されています。
ハンズフリー機能の「プロパイロット2.0」を採用しているグレードは、より高精度な位置の把握が必要なため、シャークフィンアンテナをGPSアンテナに利用することは理にかなっているといえるでしょう。
■シャークフィンアンテナはいつから登場した?
1950年代頃からクルマでもラジオの受信が可能になり、ピラーやトランク付近に設置された伸縮可能な「ロッド式のアンテナ」がメインでした。
過去には、電動で伸縮するロッドアンテナも一部の高級車で採用されていましたが、駐車中でアンテナを折られるイタズラや収納することを忘れたまま立体駐車場や洗車機で折ってしまうなどのトラブルもあったようです。
最近のクルマではほとんどみかけなくなりましたが、コストに厳しいカテゴリの商用車などではいまだにロッド式のアンテナが搭載されているものもあります。
1990年代以降には、ウィンドウ内にアンテナ線を組み込む「フィルムアンテナ」が採用されましたが、受信性能が低い割にはコストが高く、現在では地デジの受信用アンテナのみにとどまっています。
2000年に入った頃に採用され始めたのがポールアンテナで、折りたたむことや取り外すことができるので、洗車の際や天井の低い駐車場所では効果を発揮しました。
さらに短い形状でもそれなりの受信能力があるだけでなく、コストも安いので軽自動車やコンパクトカーでは現在でも主流のアンテナです。
そしてシャークフィンアンテナが初採用されたのが2001年に登場したBMW「7」シリーズですが、国産車では2005年のレクサスISが初採用となりました。
※ ※ ※
現在、主流になりつつあるシャークフィンアンテナですが、今後はさらなる小型化やコスト削減が求められています。
とくに小型化は軽量化につながるだけでなく、燃費の向上にもつながるので各メーカーも開発に力をいれるでしょう。