大雨で道路が冠水するときは、そもそもクルマで走らないのが最善ですが、走る場合は、どのようなリスクがあるのでしょうか。注意点とともに解説します。
■冠水しやすい雨量と場所
2023年も、各地で線状降水帯や集中豪雨、ゲリラ雷雨による被害が、たびたび報道されています。
その中には、冠水した道路でそのまま動けなくなったクルマの様子が映し出されることもありますが、冠水のおそれがある中でクルマを走らせるを得ない状況になったとき、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。
公共の道路には排水設備が整っていますが、その能力には限界はあります。1時間あたりの雨量が概ね30mmを超えてくると、排水溝だけでは水をさばききれなくなり、路上に雨水がたまり始めます。
気象情報に出てくる「降水量」の扱いにも注意が必要です。降水量は発表までの1時間前に降った“過去の”雨量観測値のことです。そのため降水量が発表された時点で、すでに道路に水がたまり始め、危険になっている可能性もあります。
なお、水がたまりやすいのは、道路や鉄道をくぐるアンダーパスや、川にふたをした暗渠の近く、一見平坦に見える道ながら周囲よりわずかに低くなっている場所などです。
特に夜のアンダーパスは、暗くて水面が見えなかったり、水たまりが浅く見えるも実は深かったりして、非常に危険な場所とされています。
大雨が予想されているときは、クルマを出さないのがそもそもの前提ですが、出すことになったとしても、このような危険箇所は事前に把握しておき、かつ極力通らないようにしましょう。
それでもなお、冠水路もしくは冠水のおそれのある道路を走らなければならない場合は、次に説明するリスクを理解しておく必要があります。
まず、浸水についてです。
■クルマも床上・床下浸水する
クルマの浸水被害は、家屋と同じように床上浸水と床下浸水に分けられます。
クルマと家屋の違いは、クルマだと床下が防水構造であるために、多少の浸水は被害になりづらいことにあります。
クルマの最低地上高は、車種やタイヤ、積載物の有無によって異なりますが、法令により最低9cmと定められています。
水面がこれより高いと、ゴム部品の隙間や車体床下の穴から水が入るおそれがあります。
車内に浸水するとカーペットを濡らしてしまい悪臭が取れなくなったり、電気配線に残った水が回路をショートさせて最悪の場合は車両火災を起こしたりする場合があります。
センサーやコンピューター、オーディオアンプが床上に装着されている場合もあり、それらが故障すると十数万円の出費になることもあります。
また、室外部品でも、ブレーキに影響する場合があります。比較的安価なクルマに採用されているドラムブレーキだと、ブレーキ摩擦部分に水が入ってしまい、水が抜けきるまではブレーキの効きが極端に悪くなる場合があります。
床下浸水で済んだとしても、直後の運転は注意しましょう。
さらに水面が高いと、トランスミッションやディファレンシャルギアにある高温時に膨張した空気を抜く穴のブリーザープラグから内部に水が入り、ギアを錆びさせてしまうことがあります。
それだけではありません。クルマで押しのけた水が浮力を発生させ、重い車体を軽々と持ち上げてしまうことがあります。
すると駆動力は路面に伝わらず走れなくなります。また、浮いたクルマが路外へ流され、横倒しになったり転覆したりすることすらあります。
また、スポーツカーやごく最近のクルマでは、ラジエーターやフロントバンパーの内側にエンジンの吸入口を設けている場合があります。
水面が高いところに勢い良く突っ込んでしまうと、跳ね上げた水がエンジンに吸い込まれてエンジンを全損させることがあります。
トランスミッション、ディファレンシャルギア、エンジンとも修理は難しく、多くの場合載せ換えることになりますから、修理金額は数十万にも達します。
■高電圧と冠水路走行
次に電装品関連です。
ハイブリッド車や電気自動車(EV)など高電圧バッテリーを装着しているクルマは、高電圧部品への注意も必要です。
ハイブリッド車のバッテリーは、後席シートや荷物室の床下などに搭載されています。
床下浸水は注意が不要ですが、床上浸水は水面の高さによっては非常に厳しい状態になります。
バッテリーが冠水すると深刻な故障が発生し、走行不能になる場合があります。無理に動かしたりせず、まずは日ごろ整備を依頼している販売店・自動車整備工場や、加入している損害保険会社に連絡し、その後の取り扱いや点検などの判断を仰ぎましょう。
EVは、多くの場合バッテリーがボディの外側、床下に吊り下げられています。
バッテリーのケースは防水構造になっているため、多少の床下浸水程度では走行不能になることはないでしょう。
しかし、整備のための点検穴が後席中央部や助手席下に空いているため、その座面の高さまで水面が到達した場合は、バッテリーも浸水した危険性があると考えましょう。
起動させる前に、ハイブリッド自動車と同様に整備工場や損保会社に連絡して判断を仰いでください。
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最初に書いた通り、冠水路の走行は避けることが前提ですが、どうしても走らざるを得ない場合は、歩くくらいのゆっくりとした速度で進み、常に水面と前輪の高さの関係を見ながら走りましょう。
タイヤとホイールの高さの3分の1を超えると、水面がクルマの最低地上高を超える目安です。その先の冠水箇所は走破不可能と考えて、躊躇することなく引き返してください。
天気予報の精度は、年々上がっています。常に最新の気象情報の入手に努め、ギリギリの判断をしないようにしましょう。